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【朝起きたら家なんてなかった】第三話

正確に言うと、知らない部屋では無い。


間取りや家具からして難波家のリビングではあるのだ。



だが、違う。

違うのだ、空気が。



夏だからか、湿気がこもった部屋は、

どこか息苦しく、鬱蒼と茂った森の中のように暗く、重かった。


空気だけじゃない。一番の違いは散乱したものだ。


昨日までは、きれいに整理されていたはずの小物や本、文房具などが、今では無惨にも散らばっている。


積もった埃が動くたびに舞って気道に入る。



なにより、ゴミまで散乱しているのだ。



ゴミ袋が家の外に出されていない。

数個積まれた袋には、酒の缶や空いた缶詰、カップ麺のゴミにタバコの吸い殻など、普段の生活とは程遠いものが詰まっている。



「なんだよ…これ」



家の惨状に恐怖を覚え、慌てて自分の部屋に駆け込む。


戸を閉めて鍵をかけ、息を整える。


深呼吸し、鼓動を抑えようとするも、吸った空気の違和感に気付いてしまった。


こもった空気の妙な蒸し暑さと、腐ったような匂いが鼻腔を刺激する。


はっと振り返ると、

朝までは普通だったはずの部屋が様変わりしていた。



先のリビング同様、散乱した小物に

ぐちゃぐちゃの布団


埃を被った本棚からは図鑑が飛び出して落ちている。


何日洗っていないかも分からないような服が乱雑に積み重ねられ、足の踏み場もない。



へたり込む優の足の上を、何かが駆け抜ける。



思わず足を引っ込めると、黒い何かがカサカサと音を立ててゴミ袋の影に走るのが見えた。



腰が抜けたのか、立ち上がれない。



猛烈な吐き気が腹の底から湧き上がり、戸を開けて部屋から逃げる。


今にも(あふ)れてしまいそうな胃液がこぼれてしまわぬように、口を手で押さえてトイレに駆け込む。


急いで蓋を開け便器に吐き出したそれには、無数に白いカケラが混じっていて、見た目が気色悪い。


口を押さえていた時に溢れたのだろうか、鼻の方にも吐瀉物が紛れ込んだようで苦しい。

鈍い痛みにずるずると引きずられ、涙が溢れ出してきた。


胃液のツンとした匂いでまたもや吐き気が喉元に込み上げ、何度も繰り返し吐く。



もう腹が空になり、何も吐くものがなくなっても、えずきが止まらない。



嗚咽が狭く密閉された空間に響き、頭を揺らしていた。

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