キリヤの企み
セオドアは回廊を早足で進んでいく。深夜ということもあり、人通りはほとんどなく、両壁に灯された燭台の炎が廊下を照らしている。
——あいつらの証言によれば、彼女はこの辺りを歩いていたということだが……。
アリシアの姿を探しながらセオドアが思い出していたのは、彼女が購入した懐中時計。
「友達と仲直りをするためにプレゼントを買いたい」と彼女から聞いた時は、てっきりバーベナ姫への品を見繕うのだと思っていた。だが、あの時計はどう見ても男物。つまり、セオドア以外に、喧嘩ができるほどに親しい男がいるということ。
彼女がドレスを着て王宮内にいたとすれば、その男に会うために着飾っていたのかもしれない。それはその男が、彼女が女であることも知っているということだ。
——いったい相手は誰だ? いや、まだアリシア様であるとは決まっていないが。あいつらの言う通り陛下の愛人である可能性も……。
廊下の突き当たりまで来てみたが、アリシアの姿はなかった。この近くには来賓用の客室もあるが、確証もなく中を改めることはできない。
ふと、ガラス窓の外、庭園のガゼボが目に入る。
——もしや外に出られたのでは。
庭園の入り口まで歩いていき、急いで外に出る。紅薔薇のアーチをくぐり、緑の生垣を抜け、咲き誇る白薔薇に囲まれたガゼボに目をやった。
「アリシア様?」
ガゼボには人影があった。しかしセオドアの呼びかけには応えない。アリシアではないようだ。
「誰だ」
「おお、あんたか」
かすれた男声。どこか聞いたことのある声だが、王宮の人間では思い当たらない。
セオドアは素早く剣を抜き、警戒体制に入る。
男がゆったりとした動きでガゼボから出てくる。月明かりに照らされたのは、銀色の髪。にこりと笑ったその顔を見て、セオドアは硬直した。
「バーベナ、姫? いや、お前は」
顔立ちは見慣れたバーベナ姫のもの。しかし化粧をしていない彼女の顔は、どう見ても女のものではない。それに。
「あのレストランにいた少年……? なぜお前がここに」
紫色の瞳。勝気で生意気そうな笑顔。「おっさん」と呼ばれた恨みは忘れてはいない。
「ご名答。ちょうど良かった。あんたと話がしたかったんだよね。呼び出す手間が省けた」




