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昼食会にて

 ダイヤモンドのあしらわれたシャンデリア、まるで絵画から出てきたように見目麗しい女性たち。そして贅を尽くした衣装を身につけた高貴な男たち。ロベリアとグラジオ王族が一堂に会する機会はすでに何度目かだが、アリシアは未だ慣れないでいる。


 今日はグラジオ王の主催で昼食会が開かれていた。滞在中のロベリア王族をもてなすために開催されたもので、早速バーベナは、王子との仲が進展していることを匂わせるように、アリシアに顔を寄せ、穏やかな女声で囁くように話しかけてくる。側から見たら、仲のいい恋人たちが囁き合うようにでも見えているだろう。


「ガチガチだな、アラン王子。いい加減慣れろよ」


 この間のふれあいなどまったく気にした様子のないバーベナを見て、アリシアは気が抜けた。


 ——「キリヤ」はヤンチャそうだし。ああいうふれあいも手慣れたものだよね。変に意識して損した。


 きっと何人もの女性と関係を持ってきたに違いない。男の格好をしている時でも色気があるし、女装をしていなかったら女性からは引く手数多だろう。そう考えたら、なぜだか気分が沈んだ。


「しょうがないじゃない。そんな簡単になれる訳ないでしょ」


 不貞腐れ気味にそう答えれば、バーベナは片眉をあげて嘲笑する。


「これから先やっていけるのかよー。ロベリアの王族が帰るまで、まだまだ行事はたくさんあるんだぞ?」


 行事、という言葉を聞いてアリシアはさらに頭を垂れた。

 昨日のセオドアの話が頭に蘇る。今日の昼食会で話題に出るだろうと思った彼は、アリシアが動揺しないよう、事前に情報共有をしにきてくれたのだ。


「ずいぶん仲良くなったようだな。両国の未来を象徴するようで嬉しいぞ。結婚式が楽しみだ」


 グラジオ王に話しかけられ、ハッとアリシアは顔を上げる。王は満足げな顔で微笑んでいた。


「ああ、こう並んでみると、似合いの夫婦であるな」


 ロベリア王もグラジオ王の言葉に重ねるようにそう言い、朗らかな笑顔を見せている。男の偽物姫を送り込んでおいてこの言いよう。グラジオ王もそうだが、どっちもとんでもないツラの顔の厚さをしている。そういう人間でないと王というものは務まらないのかもしれないが。


「アラン王子にはよくしていただいております」


 バーベナは小さな声で言って、ふわりと上品に微笑んで見せる。そしてそのままの笑顔で、アリシアに視線を向けた。


 笑顔の破壊力がすごい。女装した男だとわかっていても、あまりの美しさに見惚れてしまう。この人はいったい、もともとどういう人間なのだろうか。


 戸惑いが顔に出ていたのか、テーブルの下でバーベナに、ぎゅっと太ももをつままれた。慌てて微笑めば、「ちゃんとやれ」と、囁き声で叱られた。


 順々に前菜がテーブルに運ばれてくる。付け焼き刃のテーブルマナーで挑むアリシアには、味を楽しむ余裕もない。ちらりと横を見れば、バーベナはカトラリーを器用に使い、優雅に食事を口に運んでいる。素人目で見ても彼のマナーにはツッコミどころがないように思われた。


「もうすぐトーナメントがある。バーベナ姫はきっと、アランが剣を振るう様を見たら、もっと弟のことを好きになると思うよ」


 ——……きた!


 王の横に座っている男がそう言ったのを聞いて、アリシアはそちらに視線を向ける。彼はアラン王子の兄、第一王子のアレクサンダーだ。王子が身代わりの女だということは彼も知っている。


 ——なのにどうしてそう、ハードルを上げるかなああ!


 事前に聞いていてよかったとアリシアは切に思った。これに関してはセオドアに感謝だ。そうでなければ、きっと驚きのあまり叫んでしまったに違いない。

 彼は昨晩、間も無く開かれるトーナメントについて説明に来てくれていたのだ。


「トーナメントですか?」


 興味を持ったふうに、バーベナが聞き返す。すると彼にもわかるように、アレクサンダーは説明をした。


「そうだ。王国一の剣士を決める大会なんだよ。ここ五年は続けてアランが優勝していて。昨年殿堂入りしたんだ。だから弟の出場は最終試合のみ。トーナメントを勝ち抜いたものがアランと対戦できる。今年は交流も兼ねて、ロベリアからも剣士が参加するし。どんな戦いが見られるか楽しみだ」


 ——精鋭だらけの王国騎士団から大量に参加するんだよね……おまけにロベリアからも。


 実際のトーナメントを想像し、青くなっていくアリシアの顔色を察したらしきバーベナは、心配げな瞳をこちらに向ける。


「まあ、怖いです。結婚前に婚約者を失いでもしたら……」


「姫は争い事が苦手ですかな? なに、アラン王子のことです。心配には及びませんよ」


 そう言ったのはこの国の宰相だ。彼は身代わりの件を知らない。

 国で一番の剣士であるアラン王子の実力を疑うものなどいない。そして、身代わりであるアリシアも、その実力を込みで身代わりに雇われているのである。


「善処します」


 プレッシャーに押しつぶされそうで、そう答えるのが精一杯だった。


「またまた、ご謙遜を」


 ——セオドアは、彼が決勝まで勝ち上がるから心配ないって言ってたけど。でも、万が一ってことも。


 和やかに会話する人々の中で笑顔を作りつつ、アリシアはその後の会話がほとんど耳に入ってこなかった。


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