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22 第三皇子殿下のネタばらし

 ユーリィ様が帰ってしまった後も、私と黒姫さま、そして第三皇子殿下は依然として黒姫さまの部屋に居た。ただ、私も皇子殿下も黒姫さまとしか会話してなかったけどね。ちなみに皇子殿下も話の流れで私が持参していたエルイングの手紙を読んだけど、勿論手紙は黒姫さま経由でお渡しした。


「それにしても呼び出し場所がアカネイシャ階段とはのう。ド真ん中のアースタート階段でないのは良いとして、右翼の黒姫階段では駄目だったのであろうか」


 黒姫さまが疑問を口にすると、


「アカネイシャ階段の踊り場は狭いですし、照明も少なく薄暗い。人もあまり来ない場所ですよ。野次馬除けという意味でならもってこいの場所ですね。エルイングが本当にそこで婚約破棄をするというなら、あまり目立たないようにという彼なりの配慮なのかもしれませんね」


 皇子殿下がそう述べる。


「………………アカネイシャ階段て狭いんですか?」


 私が訊くと、黒姫さまは「うむ」と肯く。


 て事は。


 私さっきユーリィ様に、


『パーティ会場のような人の大勢集まる場所で、衆目の中で婚約破棄される可能性なんて一切考えていませんでした』『婚約破棄するにしても、なんだかんだと目だない場所でひっそりと告げてくるくらいだろうなあと』


 なんてドヤ顔で言っちゃったんですけど。


 いやだって。後夜祭に使われる大広間の構造なんてあんまり気にしてなかったし、三つの階段の真ん中がアースタート階段だって事は把握してたけど、左翼と右翼は適当に覚えていたというか。そうか、右翼のちょっと広い方が黒姫階段で、狭い方がアカネイシャ階段だったのか…。

 と言う事は、エルイングが私を振るにあたり、アカネイシャ階段を選んだのは―――。


「……ま、まぁ、あいつにも幼馴染みの私へのひと欠片の情が残ってた可能性もあります、か」


 て言うか、黒姫さまあ。アカネイシャ階段が狭い事を把握していたのに、私がユーリィ様にドヤってる時、なんで指摘して下さらなかったんですよう。いや、多分、思いつかなかったんだろうなとは思いますけど。やっぱり黒姫さまってちょっとポン○ツ… おっとりなさってますよね。ふ、ふふふ。


「それにしてものう」


 黒姫さまが少し唇を尖らせる。


「明日の後夜祭、現場にはいよいよ役者が揃うわけよの。セーラとユーリィとエルナントカが。是非とも間近で観賞したいものだが、場所的に狭すぎて身を潜めることすら無理がある。残念だのう。せっかくのセーラの晴れ姿を見損ねるとは」


 いやいやそんな。晴れ姿ってなんなんですか。まるで私が初舞台を踏むみたいな口ぶりですけど、実際には明日、婚約者にふられに行くだけなんですけど。

 まあ、それでも他ならぬ黒姫さまが見たいというのならば―――とちょっと考えて、


「見たい現場の映像を遠隔地からも観賞出来るような魔道具はないんですか?」


 なんとなく訊いてみた。


「トーサツデッキルなる物があるにはあるが…」

「トーサツデッキルってどんな魔道具なんですか?」

「まさに、見たい現場の映像を遠隔地からも観賞出来るようにする魔道具である」

「そうなんですね。じゃあそれを使えば…」


 …あれ?


 ふと、なんだか引っかかりを覚えた。


「…それも消費魔力量がヤヴァかったりするんですか?」

「いや、トーサツデッキルはデジカメロンやビッデオカメロンと同じくごく一般的な魔道具であるゆえ、全くヤヴァくはない。魔力消費量はスマーフォなんかよりずっと安くつく。一時間の使用で100リエンもいかぬのではないか?」

「……そうなんですね」


 なんだろう、この引っかかり。


 それにしてもトーサツデッキル。便利な上にリーズナブルで素晴らしい。今は亡きスガタガキエールに爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいのリーズナブルさだよね。魔力消費量、方や一時間三億リエン、方や一時間100リエン… ん?


 ああっ。


 私は唐突に気付いた。

 気付いてはいけない事だった気がするけど気付いてしまった。

 だってさ。

 黒姫さまが私にスガタガキエールを貸して下さった理由のひとつに、


『私がキャシュレットから訊き出した事柄をだな。そなたにいちから説明するのがメンドイ』


 てのがあったよね。

 ひょっとしてあの時、スガタガキエールを使うまでもなく、別の部屋とかを用意してもらって、そこから黒姫さまと皇子殿下との会談の様子をトーサツデッキルで観賞させていただけてたら、それで事足りてたのでは? そりゃあ魔道具としては、遠方の現場を観賞出来るだけのトーサツデッキルより、至近距離で現場観賞出来て、認識阻害やペアリング効果もあったスガタガキエールの方が物としては上等かもしれないけど、単にあったら便利というだけの機能だし、少なくともあの時の用途としては、正直トーサツデッキルでぜんぜんOKだったのでは? そのトーサツデッキルがあるのなら、一昨日、わざわざ魔道具倉庫で探してきたカクレミーノって―――。


 私はゴクリと生唾を飲み込む。

 大変な、そしてどうしようもなくバカバカしい事実に気付いてしまった。

 私はチラリを黒姫さまを見る。

 黒姫さまはキョトンとしている。

 私の脳内など知らぬ黒姫さまの美しい無表情が眩しい。


「あの、一昨日のカクレミーノ…」


 不要では?――――――と、言おうかどうしようか迷って、結局言えなかった。言いにくいよ。だってスガタガキエールで九億リエンもの無駄金使わせた後なんだもの。


 だけど。


 私がカクレミーノの名前を出した途端、黒姫さまはビクゥッと身を震わせた。

 不自然な程のビクゥッ。


「ど、どうしましたか……?」

「実はだな」


 黒姫さまは無念そうに眉を顰める。


「一昨日、共に皇宮へ行ってわざわざ探し出し、持ち帰ったカクレミーノは…………ヤヴァすぎた」


「え」


 黒姫さまは事の次第を説明してくれた。


「一昨日、倉庫でカクレミーノを無事確保したわけだが。持ち出す際、取説の消費魔力量として使用時間一時間につき五千万リエン分の魔力チャージが必要と読めた。スガタガキエールだと一時間で三億リエン分だぞ? あまりの低コストぶりに吃驚したし、ひょっとして記載ミスではないかとも考え、あまりぬか喜びせんよう努めつつ、そなたの帰寮を見送り、自室でつくづくと確認したところ―――」

「したところ?」

「取説は汚れておったのだ。雑巾で拭き取ってよく見ると、魔力非対応とあるではないか」

「魔力非対応? じゃあどうやって作動させるんです?」


 私がぽかーんとしていると、


「……魔力非対応という事は。姉さま、その魔道具、神クリ専用器ですか?」


 皇子殿下が口を挟んできた。


「左様……」


 無表情の黒姫さまの目からつつーと一筋の涙が伝う。

 私は虚を突かれた後、


「神クリ……て、神力クリスタルですか!」


 思わず大声を上げてしまった。


 神力クリスタルというのは神殿が製造している商品だ。用途としては魔預缶に似ているけど、クリスタルの中に神力がチャージされており、魔預缶よりも遥かに高価であり、一般家庭には縁遠い品だ。


(爵位を買うほど大もうけしていた頃にお祖父様が一度だけ買った事があるって言ってたアレかぁ)


「しかも、一時間で神クリ五千本とあったよ。魔力チャージ五千万リエン分ではなく神クリ五千本だったわけだ」

「神クリ1本、一億リエンですよね。五千本と言うことは、つまり……」

「一時間で五千億リエンと言うわけよ。ちょこっと姿を消すだけだと言うにイカレておる…」

「一時間で三億リエンのスガタガキエールってめちゃくちゃコストパフォーマンスに優れていたんですね…」


 黒姫さまと私は呆然として、しばらく無言になっていた。

 が、最初に立ち直ったのは黒姫さまだった。


「と言うわけで、カクレミーノの事は忘れる他ない。さすがの私でもとても賄えぬ。そもそも神殿にある神クリの在庫は常時千本程度なのだぞ? 皇宮の倉庫にもストックが4~50本あるかないかだろう。仮に費用は賄えたとしても物理的に無理なのだ。とりあえずカクレミーノの制作者はアホで決定だ」

「そのアホはご存命ですか」

「とっくに墓の中だから八つ当たりも出来ぬわ」


 黒姫さまは小さく眉を八の字にする。


「すまんな、セーラよ。カクレミーノ、エルイングを呼び出した際に思う存分使わせてやるつもりでおったのに」


 いえその、普通にトーサツデッキルで良いのでは… と提案したかったけど、そのせいで黒姫さまがすでに使用済みの哀しい無駄金について気がついてしまったらと思うと、とても言えなかった。


「カクレミーノの事は忘れましょう。そんで、エルイングはもう呼ばなくていいです。どうせ明日、後夜祭で会うわけですしね」


 明日会って、それで全ての片が付いたら、最早トーサツデッキルすら不要。だいたい、二回目とはいえ、あんなに怖かった皇子殿下と同席してても、今となってはだんだん慣れてきたし。ユーリィ様なんかいつの間にかこっちから呼び出したくらいだし。たかがエルイング如きと会うのにいかなる道具も無駄ぁ。


「セーラが良いならばそうしよう」


 黒姫さまはホッとした顔をする。黒姫さまにはなんら得になる事でもない―――と言うか、むしろとんでもない金額をすでに大損させているのにこんな顔させて、私のバカ。


「ところでそのトーサツデッキルを使えば後夜祭の私の晴れ姿?くらいならご覧になれるのでは?」


 私がそう言うと、黒姫さまは頭を振った。


「残念ながら無理なのだ。学院内は魔道具無効化の結界が張られておる。入学案内にも書いてあるだろう。魔術科の生徒が困るので皇宮のような詠唱無効化はないがな。結界は後夜祭の会場も含まれる。寮は別だがの。つまり校舎内ではトーサツデッキルは勿論、あらゆる全ての魔道具が使えないのだよ」

「ありゃあ」


 学院に結界が張られている事は知ってたけど、へーほーふーんくらいの認識だったから詳しい事は知らなかったわ。

 するとそこへ皇子殿下がまたしても口を挟んできた。


「ユーリィいじめの調査の際、調査用の魔道具を使う為に一時的に学院の結界を解除しましたが、調査終了と同時に張り直しました。今思うと保留にしておけば良かったですね。今更ですが」


 そう言ってから、


「ところで男爵令嬢」


 と、殿下が唐突に私に視線を合せてきた。

 そして、


「……ユーリィいじめの件、一応解決したと公には発表したが、実は完全には解決していない―――と言う事を、私は前回話したな?」


 そうして相槌を求めてきた。


 あれ?


 皇子殿下、今までほぼほぼ私から目をそらしていたのになんで今ここで急に私を見るのかな? まぁ確かにその件は先日、スガタガキエールごしに直で聞いてましたけど。あ、後日に黒姫さまが私に報告したと思ったとか? ―――などと色々考えつつ黒姫さまを見てみると、黒姫さまの顔にもハテナマークが散っている。

 一方の皇子殿下は今度は黒姫さまの方に視線を送り、半笑い気味に眺めている。

 そして数秒ほど置いた後、


「あ」


 黒姫さまが唐突に小さく声を上げた。

 そしてバサッと扇子を広げ、美しい顔の口元をお隠しになる。

 そしてすいっと目を泳がせた後、


「すまぬ、セーラよ」


 出てきたのはまたしても謝罪の言葉。


「な、なんですか?」

「今思い出したのだがな。スガタガキエールは男には無効であった」

「え?」

「つまり、スガタガキエールを着た場合、女性相手には効果を発揮するが、男性には無効。全く身を隠せておらんのだ」

「え?」

「ユーリィには確かに有効に働いたが、キャシュレットには無効。とどのつまり、あの日のお前の姿はキャシュレットには丸見えだったという事だ」

「え?」


 つまりえーと、なに?

 いや、理解はしてるんだけど理解したくなくて脳味噌の回転がめちゃくちゃスローなんですが。

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