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18 ユーリィ様の光と闇

 エルイングの真の目的は、私を断罪する事。私がユーリィ様を転ばせたかどうかの真実なんかどうでも良くて、私に罪を着せたかっただけの事。

 エルイング、しばらく見ない間になんでそんな奴になっちゃったのかなあとは思う。

 紫の瞳をキラキラさせながらミイラへの愛を立て板に水のように語り狂ってたあの頃のエルイングが懐かしい………ような、そうでもないような。


 しかしユーリィ様はいまひとつ納得がいかないようだ。


「な、なんでそんな回りくどい事をするのでしょうか? 破棄したいなら普通に破棄するだけで良いのでは? わざわざセーラ様を陥れる必要なんて…」


 私はユーリィ様に「チチチ」と指を左右に揺らして見せる。


「普通に婚約破棄をするだけだと、エルイングの有責でカシスタンド家が我が家と私に違約金&慰謝料支払ってオシマイですが、エルイングは責任を私に被せて、違約金&慰謝料を支払わないどころか、下手したら逆に奪い取ろうとすら考えていると思われます」


「えええ!?」


「七月の終わりにユーリィ様はエルイングに約束の反古を申し出たと仰ってたじゃないですか。あいつはそれを蹴った。とどのつまり、あいつはその時点で、すでに私を愛してなかったんです。そして、その頃からすでに後夜祭で私を断罪する計画を立てていたのに違いありません」


 そう言うと、ユーリィ様は少し躊躇った後、「言われてみれば」と肯く。

 そうして「実は」と話し出した。


「……昨日、エルイング様に後夜祭でのパートナーの申し込みを受けた時、私は意味が判らなくて戸惑いました。実はキャシュレット殿下は延長期間満了の最終日についての指示をしてたんです。エルイング様は後夜祭で私かセーラ様かを選び、それをもって答えとせよと。私は当然パートナーには選ばれないと思っていましたし、ご存じのとおり後夜祭を最後としてエルイング様とはお別れしますし。だからこそ、あんなにも愛してらしたセーラ様を差し置いて私を誘うなど、一体どういうおつもりなのかと。―――ですから今日、こちらに呼ばれて、今のお話しを聞いて、ようやく腑に落ちた気がします!」


 そうしてユーリィ様は私の手をギュッと握った。


「セーラ様。気を落とさないでくださいませ。私、後夜祭まではエルイング様に従うのが罪滅ぼしと思っていました。ですがそんな思いは失せました。明日の後夜祭でエルイング様が本当にセーラ様を断罪なんてしたら、逆に私がエルイング様を断罪致します! キャシュレット殿下とエルイング様と私の交わした約束を暴露して、いかに私達が三人でセーラ様に非道を働いたかを公表すれば、責められるべきは誰なのか、人々はおのずと知るでしょう!」


 え。


 そうなったら確かに私は助かるけど、でも、皇子殿下とユーリィ様までエルイングと仲良く同罪になっちゃわない?


「ユユ、ユーリィ様、お気持ちは嬉しいですけど、それは止めておきましょう」

「えー、なんでですか?」


 ユーリィ様が頬を膨らませる。

 すると黒姫さまが助け船を出して下さった。


「暴露するとキャシュレットは"あれが独裁帝国ワガママ皇子だ"と広く人口に膾炙する事になろうよ。ついでにそなたがキャシュレットの妹分である事も広まるが、それでも良いのか?」


 ユーリィ様はハッとする。


「…私はともかく、キャシュレット様の名誉に関わる事だけは… ぐぬぬぬ」

「ユーリィ様、明日はエルイングがドヤ顔で私を振ったり断罪したりする様子を、とんだおバカさまを見る目で眺めていて下さるだけで大丈夫です。あいつの思惑、こちらはすでに見切っているわけですし、あいつが味方だと思い込んでるユーリィ様は実は私のお味方ですし、かなり痛快ですよ」


 つまりあいつは裸の王様。

 くっくっくっ


 いやもうホント、笑うしか無いよね?


 私はずっとエルイングに憤ってた。

 ずっとずっとあいつの事情がわからなくて、イライラもやもやしてた。

 だけど、事情さえわかればなんの事ないというか、

 これで対策出来ますし。

 あいつの思惑通りに踊ってやる気もないですし。


 きっとエルイングは明日、脳内で立ててた計画どおりに事が進まなくて焦るだろうなって思う。想像すると、ちょっと可哀想な気がしてしまうあたり、まだほんの少しだけ情が残っているのかなとは思うけど、でも私は手を弛める気はなかったりする。


 でもジョーカーが欲しい。

 明日、ドヤ顔で私を振るんだろうアイツの顔面が真っ青になるような―――なんかないかな。


 ヒントを求めてなんとなしに視線を巡らすと壁側のキャビネットに気がつく。キャビネットの上には二人の女性が手を握り合ってる造形のブロンズ像が飾られていた。

 

「…アカネイシャとマジョリカの像ですね」


 神話の黒姫からアースタート神を奪ったアカネイシャには、マジョリカという親友がいたとされている。マジョリカはアースタート神とアカネイシャが結ばれるよう尽力したらしく、この二人の像は古代から沢山作られているし、恋や友情のシンボルでもあった。


 そうしてふと唐突に思いつき、私はユーリィ様を見た。


「ちょっとユーリィ様にお訊きしたい事があるんですが」

「はい、なんでしょう」

「マリーカーラ・エネゼクト様って方、ユーリィ様の仲の良いお友達ですか?」

「はい?」


 正直、かなり軽い気持ちで聞いた。

 万が一エネゼクト様がエルイングと裏で付き合ってたとしたら、明確に浮気だから慰謝料の上乗せ案件だよなーとか、いやでもユーリィ様の友達なんだとしたらそんな事はないかあとか。もしもエルイングとエネゼクト様がお互いに思い合っていたとしても、正式に付き合い出すならユーリィ様との関係を解消してからが筋だから、まだ付き合ってない可能性もあるし、そうなると慰謝料取れないなぁとか。


 でも、ユーリィ様は大きな目を更に大きく開いたんだよね。

 全く思いがけない名前を聞いたとでもいう風に。

 そうして、とても複雑そうな表情をした。


 数秒ほど間を開けた後、ユーリィ様はこう言った。


「マリーカーラ様はクラスメイトです。春先は少しだけ仲良くしていましたが、今は疎遠です」


 名前呼びをしている辺り、以前はそこそこお付き合いがあったんだろう。でも今はお付き合いは無い… という事か。


「入学してすぐの春先頃はまあまあ親しくしていましたよ。とてもお綺麗な方ですし、気さくですし、初めはステキな方だなと思っていたんですが、その後はだんだと疎遠になりました。……何故ここでマリーカーラ様のお名前が出てくるのでしょうか?」


 ユーリィ様は訝しげだ。


「実は」


 私は一昨日、ダイナが目撃した場面について説明をした。マリーカーラ・エネゼクト様が侯爵令嬢からエルイングを奪い取っていく時、『ユーリィ様にエルイング様のお相手を頼まれましたの』と言っていたと。勿論、ルームメイトからの又聞きである事を明かした上で。


「私のルームメイト曰く、恋人のお相手を頼むくらいだから、ユーリィ様とエネゼクト様はとても親しい間柄なのに違いない―――みたいに思ったようなんですけれど」


 そう言うとユーリィ様は不思議そうだ。


「一昨日の私は、皇女殿下に呼ばれた後はそのまま公爵邸の魔術師達に従ってこちらに来ましたので、誰にも会っていないのですが…。エルイング様をマリーカーラ様に頼んだ覚えなんか当然ありません」

「では……はったりだったんですね」

「……あの、セーラ様。再度問いますが、何故マリーカーラ様の事をお尋ねに?」

「えーと。実はですね。マリーカーラ・エネゼクト様にはエルイングの本命説があるそうで」

「本命説」


 ユーリィ様は目をぱちくりとさせる。

 どうやら初耳だったらしい。


「件のルームメイトが拾ってきた噂に過ぎないので真相は不明なんです。ただの噂に過ぎないのか、本当にそうなのか。ガセならまぁどうでもいいんですけど、もしも本当に本命なら。ご友人であるユーリィ様を差し置いて、裏でどうにかなってるのかなぁと、ちょっと気になったんですよ」

「なんなんでしょうね? なんでそんな嘘をついたのか、なんでそんな噂が立った

のか、私には皆目判りません……」


 ユーリィ様は心底訝しげだ。


「わかりませんが。…でももともとちょっと困った所のある方なんですよね」

「そうなんですか?」

「困ったという表現も変なのですが。……この言い方が正しいかどうかはわかりませんが、なんというか、私とは相性が悪い方なのです」

「相性」


 ユーリィ様は少しだけ考え込んで、


「これはあくまで私個人の印象に過ぎないのですが」


 そう前置きして、エネゼクト様の事を話し始めた。

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