十七話
アレンが道場の前で休んでいるとアリアがやってきた。
「ちゃんと洗えた?」
「う、うん・・・。匂いもしないし大丈夫なはず・・・」
「どれどれ・・・」
さり気なくアレンが匂いを確かめようとする。
「ちょっと、やめてよ」
そう言ってアリアに突き飛ばされる。
「ごめん。ごめん。でも突き飛ばすなんて酷くない?」
「それはアレンが匂いなんて嗅ごうとするから・・・」
「うん。次からは気を付けるね」
「本当にもうやめてよね」
アリアが倒れたままのアレンの横に座る。
「アレンはさ・・・。将来、何になりたいとかあるの?」
「ん~。特にないかな」
「私は漠然と父さんの後を継ぐんだなって思ってた」
「アリアは凄い頑張ってるし、そういうのも悪くないんじゃない」
「私なんて全然ダメ・・・。アレンとも凄い実力が離れちゃったし」
「そんなこと・・・」
「そんなことあるの!」
「どうしたの?アリア・・・」
「ごめん。なんか色々あって八つ当たり・・・」
アリアは思ったより実力が伸びなくて悩んでいるのだろうか。
思い当たる節はある。
一緒に素振りしていても剣筋がブレているときがある。
でも、それは先輩達の指導が厳しいせいだ。
疲労した体では実力は発揮されないだろう。
「先輩達との修練はどうなの?」
「最初は凄く嫌だったけど最近はそうでもないかな。たまに無茶させられたりは嫌だけど」
「そうなんだ」
「アレンは私が何をしてるか気になるんだ?」
「秘密なんでしょ」
「うん。先輩達にも誰にも言うなって言われてるし」
「う~ん。そう言われるとますます気になるんだけど」
「ふふ。大丈夫。何にもないから」
「本当に?」
「本当だって。そろそろ素振りしましょ」
「そうだね」
こうやってアリアと共に素振りをしていると心が落ち着く。
道主は凄い人だけどアレンの中で誰が一番かと言えばアリアだ。
今も素振りをしているアリアを見て綺麗だと思う。
アリアに誇れる自分でありたい。
一緒に素振りをする機会は減ったけれどだからこそこの一瞬一瞬を大切にしたい。
「どうしたの?アレン」
「あぁ。うん・・・。アリアが綺麗だなって」
つい本音がポロリと出てしまった。
アリアの顔が真っ赤になる。
「なっ。なっ・・・・。修練中に何言ってるのよ」
そう言って怒る姿も可愛らしい。
楽しい時間というのはあっという間に過ぎ去るというのは本当のことなのだな。
「もう、こんな時間・・・」
アリアは慌てて先輩達の溜まり場の方に駆けていった。




