十話
あれから何度か不思議な感覚に入ることが多くなった。
でも、それはアリアが隣にいるときだけだ。
様子を見に来た道主がその動きを見て声をかけてきた。
「まさか、その歳でそこまでの動きが出来るとはな」
「その動きですか?」
「急に物の動きが遅く感じたりしなかったか?」
「確かにそのような感じはしましたけど」
「人によって呼び名は変わるが私は領域に入ったと呼んでいる」
「領域ですか」
「剣士にとっては憧れの境地だよ。それが出来るかどうかで雲泥の差がある」
「そうなんですね」
「本来なら打ち込み稽古に参加させるんだが10歳だしなぁ・・・。よし、素振りを3時間したら後は走り込みだな」
「走り込みですか?」
「うむ。足回りは基本だし体力もつく。街を適当にといいたいところだがこないだ襲われたことだし。道場の敷地をぐるぐる走ってくれ」
「はい」
アレンはアリアとの時間を大切にしたくて先輩達がアリアを呼びに来るまで素振りを続けた。
アリアを見送ってから走り込みを開始する。
道場の敷地はかなり広い。
子供の足では何周もできそうにない。
はぁはぁ言いながらも先輩達の溜まり場の裏手に辿り着く。
暑いからだろう。
窓は空いていた。
「うぇ。げっほげっほ」
「おいおい。また、こいつ吐きやがった。ちゃんと掃除しろよ」
そう言って笑っている先輩達の声が聞こえる。
吐くほどの修練とはいったい何なのだろうか。
アリアも頑張っている。
自分も頑張らないと。
そう思って溜まり場を通り過ぎた。
道場の前に戻ってくる。
1周するだけでも大変だ。
水分を補給して少しだけ休憩する。
体力が回復したら再び走り出す。
そして再び先輩達の溜まり場の裏手に出る。
窓からは先輩の怒鳴り声が聞こえる。
「おい。へっばってるんじゃねぇよ。これからが本番だろうが」
へばっても許してもらえないのか。
アリアがフラフラしていた理由も納得だ。
アレンはそのまま溜まり場を走り抜けラストスパートをかける。
道場の前に辿り着き荒い息を整えながら休憩する。
強くなるためにアリアも頑張っている。
なら、男の僕ももっと頑張らないと。
息が整ったら3週目に入る。
少しフラつくけれどアリアには負けてられない。
溜まり場の裏側に辿り着く。
窓からはバシャァという音が聞こえる。
「おい。起きろ。寝てんじゃねえよ」
気を失っても許してくれないのか。
少しアリアが心配になる。
だが、僕にはできることは何もないように思えた。




