一話
僕、アレンはフローレン王国の田舎に住む10歳の男の子だ。
親に我儘を言って剣術道場に通っている。
剣術道場に通っていると言っても剣術に興味があるわけではなかった。
目的は道場主の娘であるアリアに会うためだ。
不純な目的ではあるけれど練習をサボっているわけではない。
だって、頑張っている姿を見せればアリアが喜んでくれるから・・・。
そんなわけで今日も素振りを頑張っている。
隣ではアリアも黙々と素振りを行っている。
素振りをしながらチラチラとアリアの横顔を盗み見る。
その顔はとても真剣で僕が盗み見ていることなど気が付いていないようだった。
「おう。餓鬼共、精が出るな」
そう言って声をかけてきたのはこの道場に通う先輩達だった。
正直、いい噂は聞かない。
道場主であるアリアの父親からも関わるなと言われているぐらいだ。
「素振りなんてつまんねぇだろ。俺達が稽古をつけてやるよ」
僕達ぐらいの年齢では素振りしか許されていない。
それを知っているはずなのに・・・。
僕が黙り込んでいると横にいるアリアがはっきりと断る。
「そんな勝手、父さんが許すはずないじゃない」
「道主は関係ない。本当は怖いんだろう」
まずい。
アリアは極端な負けず嫌いだ。
そんな言葉を言われたら誘いに乗りかねない。
「怖くなんてないもん」
あぁ・・・。
やっぱりだ。
そんな安い挑発でも買ってしまう。
「アリア。落ち着いて」
「私は落ち着いているわ。それに練習もまともにしないような奴に私達が負けるはずないでしょ」
先輩達は道場に通いつつもまともに練習をしていない。
それは確かだ。
それでも僕らより年上の彼等が弱いとは限らない。
「嬢ちゃんはそう言ってるぜ。坊主はどうする」
アリアは受けて立つつもりだ。
このまま放って置けば取り返しのつかないことになりかねない。
僕は勇気を奮い立たせはっきりという。
「先輩達のお胸をお借りします」
「くくく。そうこなきゃな」
この時、先輩達がにやにやした顔をしているがその意味を僕は理解していなかった。
先輩達に連れてこられたのは道場の奥にある古びた建物の前だった。
元々は倉庫だったらしいのだが練習に参加しない人達を隔離する為の溜まり場となっている。
道場から見れば困った人物であれ、月謝を払ってくれる貴重な収入源というわけだ。