第43話 もう一度。
「一万歩譲る?」
シルビアが首を傾げた。
「あぁ、一万歩だ。もう俺の土地であるアルブゥの森にバカでっかい家……という国を建てると考えればアリだと思う。どの道、俺が広大過ぎる土地を放棄するにも面倒があっただろうし」
「あ、ありがとうございますっ!」
シルビアが歓喜して、エドワードに抱き付いた。
エドワードは反応が間に合わずバランスを崩し、ベッドの上で押し潰れる。
「うぎゃ」
「っすみません」
エドワードから聞こえた蛙が潰れたような声が聞こえ。
シルビアが慌てて、エドワードから離れた。
エドワードはヤレヤレと言った様子でベッドから上半身を起こす。
「……もう少し俺の体が小さく、非力になったのを理解して欲しいところだな」
「すみません」
「それとな。話は終わっていない」
「え、はい」
「だからまだ喜ぶな。すべてを譲る訳じゃないんだ」
エドワードが一度言葉を切った。
難しい表情を浮かべ、腕を組む。
「まず一万歩とは、お前の提案に乗ってアルブゥの森に国を作ること。それで百万歩とは森に国を作った後、そこから領土の拡大を進めて大陸統一を目指すこと。俺は一万歩を譲るが。百万歩を譲ることは考えていない。大陸統一して国を作る。それは多くの場合、武力に頼ることになり人の命を理不尽に踏みつける。後の世により良い国が出来るのだとしても……恨まれ、憎まれてまでして、国を大きくする気概は俺にない。まぁ、本気で、まだこの世界にない多思想、多種族を含んだ民主主義国家を作るというなら……帝王学、宗教、言語、法学、民学、歴史などなど学ぶまたは論じるところから始めないと。それから、主権を民にするならば、民にも多くの学びの場を作って知能指数を上げないと。どのような政治体勢だろうとバカが主権をとると酷いことになる。それから話始めたら終わらないな……。いや、俺がパッと浮かぶだけでもやることは腐るほどあるから、俺やお前が生きているに到底やれるとは思えんがな」
シルビアは呆然と。
「ご主人様……」
エドワードは両手を上げて。
「昔はその手の本を読むだけならしたことがある。分かっているが故に国だのに関わるのが嫌だったんだ」
「どうやら、私の方が……いえ、なんでも」
シルビアはバツが悪そうに視線を流した。ただ、すぐにエドワードへまっすぐに見て、前に手を出す。
「もう一度言います……私と一緒に国を作りませんか?」
エドワードは一度鼻を鳴らす。
「分かった」
エドワードはシルビアの手を取った。そこでシルビアは手をギュッと握って、飛び上がるようにエドワードへと抱き着く。
「やったー」
「ぐえ」
押し倒れたエドワードが蛙の潰れたような声を溢していた。
「あ……ごめんなさい」
シルビアは我に返って、離れようとした。ただ、エドワードは手を握って。
「俺は……」
エドワードの目は強く鋭いモノだった。
シルビアは驚き目を見開く。ゴクリと喉を鳴らす。
エドワードは握った手をキュッと強く握り。
「俺はやると決めたら、徹底的にやる。これは運動不足を補うためにやっていた冒険者活動とは違う。国を作るとしたら、多くの人の命を背負うことになるのだからな。俺からシルビアに逆に聞きたい。このまま、のんびり暮らしていく方が幸せだと思うぞ?」
「ええ、幸せかも知れませんね」
「なら」
「私の夢です。それに私の幸せはご主人様の隣にありますから」
エドワードは呆れたようにやれやれと「それは未来の夫に言うべきセリフなんだが」と溢した。
「数百年、数千年……未来の平和の為に踏み出しましょう」
「未来の為か……悪くない答えだ。分かったよ。出来る限りのことはしよう」
「では……今後の方針を決める。いや、その前にお食事の準備をしましょうか」
「そうだな。腹が減っている。肉が食べたい。肉が」
「起きたばかりです。野菜スープにしましょう」
「いや、成長の為に肉が必要だろう」
エドワードがベッドから出ようとした。ただ、そのタイミングで、トントンと寝室の出入り口辺りで、音が。
「クク、面白い話をしているな。俺にも一枚噛ませろよ」
「っ!」
シルビアがバッと振り返って。
声のした方……寝室の入り口のところでは褐色の肌の男性が腕を組んで立っていた。




