第42話 一万歩。
シルビアは笑みを浮かべて口を開く。
「……よかったですね。飲めない期間はお酒を集めることに終始すれば、飲めるようになった時の出足は完璧ですね」
「あぁ、なんだかワクワクしてきた」
「それでは話を戻しましょうか?」
「? 何の話をしていたっけ?」
「忘れないでください。ご主人様は多くの人の上に立つべきお人だということを話していました」
「あぁ……その話だったな。お前は俺を過大評価し過ぎだな」
「なら、私の評価が正しかったと証明させてもらえませんか?」
「お前は頑なに俺に国王や貴族になる器があるというのか。はぁ、仮に俺にその器があったとしても、やる気のない俺より、やりたいヤツがやるべきだと思うがな」
「そうですね。けど、若いころ旅し、冒険者としても各地に赴いたご主人様は見てきたはずです。魔王、魔族がプロリアの英雄によって封印された後、多くの国家が生まれた。そこで相応しくないものが王となって、多くの民が悲運な死を迎えたところを」
過去の映像がエドワードの頭の中で……男が生きたまま縛られ火をつけられ。女が衣服を脱がされ凌辱。両手両足、目を塞がれ。子供が……まだ小さな子供が攫われて首輪を付けられおもちゃのように。
エドワードは苦虫を潰したような表情を浮かべる。
「………それはまぁ。酷い有様だった」
「もしかしたら、ご主人様が若返ったのも、広大な土地を得たのも、女神達がそれを望んでいるとは考えられないでしょうか?」
「今度は女神様と来たか」
「ええ。この際です。私は大きいことを言います。大きなことを言わないと、大きなことは成し遂げられないので……私と一緒にあの森の国を作り、ついでに大陸すべてを統一し、ロード帝国を築きあげましょう」
「おい。ついでにって部分が壮大過ぎるわ。それにしれっと国名決まってんの?」
「私とご主人様ならできます」
「いやいや、どう考えても……」
「私とご主人様ならできます」
「あのな。国を作るって簡単に言ってくれるが、すごい大変なことだろう。俺はのんびりと暮らしたいんだけど」
「最悪、ご主人様は椅子に座って、判子を押すだけでも構わないです」
「いや、それはさすがに」
「ですね。ご主人様はいつか起こる厄災の為に、後世へ伝える魔法を研究を本に残すほどです。無責任なことをしない……一緒に二人三脚で頑張っていきましょう」
「はぁ。なんだろう? もしかして、押されている? これって俺が王様目指す方向へと進んでいる?」
「驀進中です」
「はぁ」
エドワードが重い溜息を吐いた。シルビアはエドワードの頭を撫でる。
「乗り気になれないかも知れませんが。ここは私に乗せられてくださいよ」
「俺を担ぎ上げて、国を作って何をやりたいんだ? シルビアがここまで言うなら何か根幹的な目標があるんだろ?」
「それは……」
シルビアが一度言葉を切って。
目を一度閉じ、胸に手をあてる。
「昔、ご主人様が話してくれた異世界の国……」
エドワードの眉がピクリと動いた。
シルビアは両手を前に、話し出す。
「これは私とお爺様の夢……様々な人種の人がいて、様々な文化を受けいれ。国民が国家運営の権限を持って、自ら行使する民主主義という政治体系を持つ。そんな……合衆国を目指します」
「それは……絶対できないとは言わない。世の中に絶対はない。しかし、多思想、多種族を含んだ民主主義国家を一から作るのはかなり難しい」
「難しいと言っているだけでは何も始まりませんし、変わりません」
「そうかも知れないが」
「私も最初から、その多思想、多種族を含んだ民主主義国家に持っていくのは無理だと思っていますよ。しかし、土台となる国家を未来の為に作りませんか? あ、この際です。ご主人様が考える理想はなんですか? 一緒に作るんです。すり合わせて組み込みましょう?」
シルビアの問いかけに、エドワードは腕を組んだ。小さく笑う。
「理想か……理想はさ」
「お酒からは一旦離れてください」
「酒から離れるかぁ」
「何かありませんか? なんでもいいんですよ?」
「そうだな。夢を語るだけなら」
エドワードはどこか悲し気に……目を細めて。小さく呟くように続ける。
「……子供がお腹いっぱい飯を食べられる国」
シルビアは視線を下げる。少しの間の後で。
エドワードに近付く。
「素晴らしいと思います」
「ふん。夢を語るだけなら簡単だ」
「ええ、簡単です。その夢、ご主人様は実現が可能なところに立っている……。それなのに手を伸ばさず、逃げるは愚か者では?」
「愚か者か。そうかもな……」
エドワードは何か考えるように押し黙って。少しの間の後、小さく頷き。
「……分かった。とりあえず一万歩譲ろう」
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作者太陽クレハ




