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第4話 アヴァン。

 ここは墓標が並んでいる墓地であった。


 その多くの墓標が並ぶ中の一つの前で、エドワードが胡坐をかいて座り、木のジョッキで酒を飲んでいく。


「ごくごく……ぷは」


 エドワードは飲み干したジョッキを墓標の目の前に置いた。ふっと表情を緩めて、墓標へと視線を向けた。


 少しの間、墓標を見つめていた。


「さて……そろそろ行くわ。イザベラ。次に来るのは少し後になるかな。いや、次はあの世かも知れないが。その時はまた飲み明かそう」


 エドワードはスッと立ち上がって、墓標を後にしたのであった。




 墓標を後にした後、エドワードは王都の街をフラフラしていた。すると、赤茶色の髪の十二歳ほどの子供が近寄ってくる。


「あ、エドワードさん」


「んあ? アヴァンか、どうした?」


「いや、仕事の配達の途中でたまたま見かけたんで」


「そうか。紹介した仕事は順調か?」


「うん。親方は厳しいけどね。金をちょろまかしたりしなくて良い人だし。何とかやれているよ」


「それは良かった。ただ無理はするなよ。体を壊したらせっかく得た仕事ができなくなるからな」


「分かったよ。それよりも、エドワードさんとこの辺りで会うのは珍しいけど、何してたの?」


「んー俺か? イザベラの墓参りだ」


「あ……聞いた。聞いた。十字星のギルドマスターだった人だよね?」


「ああ、惜しい奴を失ったよ。……それよりも孤児院の方はどうだ? ガキ共は元気か? ちゃんと食事は食えているか?」


「うん。孤児院を作ってくれたエドワードさんのおかげだよ」


「これは毎回言っているが、俺は何をしたつもりはない。冒険者ギルド……いや、前ギルドマスターが決めて支援し、孤児院を作ったに過ぎない。……なんにしてもガキ共が食事をとれているんならよかったよ」


「……」


「ん? 急に黙ってどうした?」


「いや、なんでもないよ。あっ……そうだ。俺にエドワードさんの魔法を教えてよ。あの俺がオーク達に襲われていた時に使った辺りを氷漬けにした魔法……アレ、すごく格好良かった」


 エドワードはアヴァンの頭を軽く小突く。


「おバカ、俺が魔法を使えることを口にするな」


「えーなんでだよ? 格好良かったのに」


「おバカだなぁ。知らないのか? 魔法使えたら……国のお偉いさんに捕まって、すごい面倒事な仕事を押し付けられるんだぞ?」


「え、そうなのか?」


「あぁそうだ。もちろん金は多少手に入るだろうが。自由にできる時間が減るだろうな。魔法の研究……いや何より俺は朝から酒を飲みたい」


「それって……朝から酒が飲みたいだけ?」


「もちろん酒が一番だが」


「まぁ。国のお偉いさんに捕まらないように気を付けるとして……シルビアの姉ちゃんやリナリーの姉ちゃんはエドワードさんに魔法を教えてくれたって聞いたし。俺にも氷漬け魔法を教えてくれよ」


「教えるのはいいが……お前は魔法に幻想を抱き過ぎじゃないか?」


「幻想?」


「そう、幻想。魔法なんか道具に過ぎない……良く使ったら人の生活を楽にしてくれるが。悪く使ったら多くの人を殺すための道具になる。ただそれだけ。だから、魔法使いには倫理感が必要だと……って話はまだ子供のお前には早かったか。魔法を使いたいと言うが……そもそも、お前に魔法の適性があるのか?」


「この前、教会で調べてもらった」


「……しかし高い適正をもっていたら、魔法学園への入学が決まるんだろう?」


「高い適正はなかったんだよ」


「ふーん、そっか……しかし、それではあの氷漬け魔法を使うことはできないな。かなりのマナが必要だし」


「えーそうなのか?」


 アヴァンがガクンと肩を落とした。エドワードは小さく笑みを浮かべて、アヴァンへと視線を送る。


「世の中、平等なんてモノはない。生まれた時からスタート位置が違うんだから。才能があって、簡単に熟る奴もいれば、長い時間努力しないといけない奴、そしてまったく出来ない奴もいる。お前にわかりやすく言うなら、金持ちもいれば貧乏な奴もいるってこと」


「う」


「まぁ、検査して多少の反応があったなら、お前は下級の魔法なら使えるだろう、そして俺に魔法を教わることができるから多少は良い位置からスタートに……あっ、そういえば教えることが出来んのだった」


「え。なんで?」


「それがな」


 エドワードがS級ギルドである十字星を追放されたこと、そして田舎へと帰ることを話していった。


 話を聞いたアヴァンは驚きの声を上げる。


「え、ええええ!? どうして、そんなことに……ちょっと前に聞いた噂では酒場では十字星の新しいギルドマスターはエドワードさんだと聞いていたのに」


「クハハ、この俺がギルドマスターだって? まったく興味ないぞ」


「けど」


「俺は働き盛りのお前らと違って、爺さんだからな。若者に道を譲らんと」


「むーう」


 アヴァンが不服そうな表情を浮かべていた。エドワードはアヴァンの背中をポンと叩く。


「これからはお前のような若者の時代だ。孤児院を頼んだぞ」


「う、うん。がんばるよ」


「おう、その意気だ。けど、どうしようも無くなったら俺……第四隊の連中を頼れよ。そうそう……魔法を教えることはできんが。コレ」


 エドワードはカバンから一冊の本を取り出すと、アヴァンに差し出した。


 その本の背表紙には『初級魔導書・著者ユーリィ・ガートリン』と書かれていた。


「これは?」


「俺の書いた魔導書だ」


「え? けど、著者にユーリィ・ガートリンと書かれているよ?」


「ん? いや、俺は魔法を使えないことにしたいし。ペンネームくらい使うだろう? 誰にも言うなよ? 内緒だからな?」


「わかった。それでこれを読めってこと?」


「そう。その本には魔法の基礎が書かれているから、初心者にはちょうどいいぞ」


「!? これ読んだら、魔法が使えるようになるの?」


「一応な。とりあえず、それ読んで頑張ってみろよ。じゃあ、俺はこっちだ……第四隊の連中にも話をしないと暴れ出すからな。クハハ」


 エドワードが笑いながら、アヴァンと別れて路地に入って行った。エドワードの後ろ姿を見送りながらアヴァンは魔導書をキュッと握りしめる。




「そうか。俺はエドワードさんに受けた恩を返すことができないのかな」




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