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第39話 一年と少し。

 ベルギクード歴412年。


 エドワードがルトック村に住み始めて一年と少し。


 冬の季節が終わって春に。


「ふわーまだ寒いなぁ」


 エドワードは一人、家から庭に出てきた。


「んー今日は晴れそうだな」


 朝早く、眩しい日差しを受けて、大きく体を伸ばし。体操し。


 家の周囲と近くの森の中を、軽く走り始めた。


 この朝のランニングは、魔導具の製造が忙しくなったことで、体があまり動かせなくなったので始まったエドワードの朝の日課となっていた。


「ふう……ん?」


 エドワードが一時間ほど走って一息付いていると、馬の脚音が。


 視線をそちらへ向けると、朝早いと言うのに馬に跨ったゴウィンが姿を表した。


 ゴウィンは相変わらず、固い表情でぺこりと頭を下げる。


「……来た」


 エドワードは軽い調子で。


「おう。おはようさん。早いな」


「今日から居ないと聞いた」


「あぁ、今日からしばらくアルブゥの森の探索を再開するって話していたか。それで? 何かあったか?」


「新しい魔導具を見に来た」


「帰ってきてからでもいいと思っていたが」


「できているなら、商人に持っていける」


「いや、納期はまだ早かったはずだぞ? 商人に持っていく必要はない」


「? できているなら、早い方がいい」


「いやいや、出来ているが……。だからって、納期よりも早く納品する必要はないんだぞ?」


 ゴウィンは訳が分からないと言った風で、首を傾げる。


「なぜだ?」


 ゴウィンの問いに対し、エドワードは人差し指を上に立てて説明し始める。


「では、納期よりも早く魔導具を出すことの欠点を教えてやろう。まず、納期よりも早くできてしまうと、次もその納期で行けると勘違いさせてしまい。よりキツイ納期を押し付けられる可能性が高く、悪循環が発生してしまうのだ。仕事とは終わりがなく。それゆえに早く進めようが、遅くやろうが関係ないのだよ。つまり、納期の一日前くらいに苦労してやり遂げましたって感じの方が今後の為にも良いってことなんだ」


「そういうモノか?」


「あぁ。仕事とはそういうモノだ」


「うむ。一応、魔導具を見ても?」


「まぁ……商人のところには持っていくなよ?」


 エドワードは釘をさし、ゴウィンと家に入っていった。


 ゴウィンをリビングの椅子に座らせると。アルブゥの森の探索の準備をしているシルビアの横を通って、書斎から投擲用のナイフと丈夫そうなハンマーを持ってくる。


 ゴウィンはエドワードの待ってきたナイフとハンマーを見ながら。


「ナイフとハンマー?」


「あぁ。出せそうなのはこれくらいだな」


 エドワードがゴウィンの前にナイフとハンマーを置いた。


 視線を流して、小さく誰にも聞こえないほどの声で「他のは……あまりに危険すぎて知らん人間に預けられん」と溢し。


 ゴウィンはまずナイフを手に取る。


「これは?」


「あぁ、手紙にも書いておくが。そのナイフは投擲されて、何かに強く当たった時に【ライト】の魔法が発動するようになっていている」


「【ライト】?」


「あぁ。【ライト】は周りを明るくする魔法だな。一度に二回分の【ライト】が発動するゆえにかなり明るくなる。辺りの兵士、馬の動きを一時的に止める」


「動きを止める?」


「それだけと思ったか? 確かに一見効果はしょぼいが、戦場において、動きを止められるのは大きいことだぞ? もしかしたら、一手で戦況を変えることが出来るかも知れない」


「戦場では有効か」


「そう……。それでこっちのハンマーが相手にぶつけたタイミングで、【エアー】の魔法が発動して。敵を吹き飛ばす。これは要望通り、五回ほど使うことが……」


 エドワードはゴウィンに魔導具の説明をしながら、心の中で小さくため息を吐いていた。




 三十分後。


「また来る」


「おう。納期はギリギリ間に合うのがいいんだからな」


 エドワードが馬に乗って帰っていくゴウィンを見送っていると。


 家から出てきたシルビアは。


「ゴウィンは真面目ですね」


 家へと戻りながらエドワードは頷く。


「そうだな。それで? 行けそうか?」


「ええ、荷物の二回チェックもしました。ところで、昨日試験していた魔導具は渡さないんですね」


「アレは威力が高すぎ。作っておいてなんだが、あんな武器を顔も知れない奴に渡すのは……危険すぎる。街中で使ったら、被害は五十から六十を超える」


「そうですね。ただ、今回のナイフとハンマーで……ご主人様がわざと危険すぎる魔導具を出さないようにしていることは気付かれるかも知れませんが」


「これは本当に顔出ししなくてよかったな」


「ですね」


「まぁ、その話はまた後で良い。アルブゥの森の探索へ行こう」


 エドワードとシルビアはグレイソンから依頼されていたアルブゥの森の探索へ向かうことになる。


 そして六日後……。


 アルブゥの森の奥地にてナンバーズと呼ばれる世界に二十いる魔物の頂点……その中のアンバー・クロスロード・ハイレーゼ・ブラックドラゴンと出会うことになる。


 エドワードとアンバー・クロスロード・ハイレーゼ・ブラックドラゴンとは戦うことになった。それは五日に渡るほどに、壮絶な死闘であった。


 一つの違いで、勝者は異なっていた……そんな戦いだった。


 そんな戦いの末に、生き残ったのは……エドワード・ホワイト。


 エドワードは生き残ったが、シルビアの治療が間に合っていなければ命を落としていたであろう重傷を負い。


 昏々と眠りについていた。


 四日後、目を覚ましたエドワードであったが、アンバー・クロスロード・ハイレーゼ・ブラックドラゴンは死の間際、エドワードへと血を。


 その影響か定かではない部分があるものの……。




 そして現在。


 エドワードは少年の姿となってしまっていた。


 推定年齢十二歳。


 身長百四十センチ。


 小柄で、筋肉量は少なく手足が細い。


 中性的な顔立ち。


 眠たげな眼付で金色の瞳。


 ミディアムとロングの間にまで伸びた少し癖のある黒い髪。


 口元には……しばらく剃っていなかったからか髭があって。


 アンバー・クロスロード・ハイレーゼ・ブラックドラゴンと戦った後、昏々眠り続けたエドワードが子供の姿で自身の家の寝室で目覚めた。


「おーう。アンバーのヤツが死に際に女神がどうとかって言っていたような? まぁ、なんにせよ。俺が小さくなった理由はやはりアイツの血の……呪いの所為かなんだろうなぁ。あぁ、小さくなったついでに魔法もあんまり使えなくなったか? 体内のマナの流れがおかしい。初級くらいまでしか使えないか? ん? んー若干の違和感が……それは後で調べるとしいて。しかし、こんな呪いは聞いたことがない……もしかして、この呪いを研究したら人を若返らせることもできるのか? 呪いだとしたら、ヤツの血がいるか?」


 少年の姿となったエドワードが頭を抱えながら、ブツブツと呟いていた。


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