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第38話 十一カ月。

 エドワードがルトック村に住み始めて十一カ月が経った。


 季節は秋が終わり冬になっていた。


 ここはエドワードが暮らす自宅の目の前の庭。


 数日前に降った雪が、うっすらと木々に積もっている。


 庭ではエドワードに見守られながら、フィリーが村の同世代の少年二人と向き合っていた。


 フィリーは肌寒く感じる環境ながら、汗をかき。


 打ち込まれた痛みを体から感じながらも、両手に一本づつ……つまり、二刀流の構え。


 少しの間、互いに間合いを測るように、見合っていた。


 木に積もっていた雪がバサッと落ちた時、フィリーが地面を蹴って、試合相手である少年二人へと向かって行く。


「はっ!」


 試合相手の一人である細身の少年へ、右手に握った木刀を上段から構えて打ち込んだ。


 細身の少年は差し込まれながら、なんとか木刀で受ける。


「ぐうっ」


 フィリーは左手に握った木刀で細身の少年に打ち込み……倒そうとした。しかし、もう一人居た小柄な少年が反応し、フィリーへと木刀を突き出す。


「やあぁ!」


「ぐっ!」


 フィリーが渋い表情を浮かべた。


 小柄な少年から突き出された木刀を受け流す。


 細身の少年へ打ち込んでいた木刀に向けていた力が一瞬緩んだ。


 それを察した細身の少年は木刀を跳ね返す。


 横から斜め上に木刀を振い……フィリーの脇腹へ。


「やあぁあああああぁ!」


「ぐあっ!」


 フィリーがなんとか体を捻って、木刀を躱そうと動くも……木刀が脇腹に打ち込まれ苦悶の表情を浮かべた。


 エドワードは「それまで」と言って、フィリーと少年二人の間に立つ。


 まず、フィリーに声を掛けると、若干涙目で脇腹を擦りながらも「大丈夫」と答える。


 続けて、少年二人に視線を向ける。


「まだまだ動きが固い。ただ最後……偶然できた形だろうが、フィリーの攻撃を止める役を作って、もう一人が攻撃に回るのは良かった。もう少し連携する形を事前に打ち合わせすることで、更にフィリーを苦しめることが出来るぞ」


「「はいっ!」」


 少年二人が元気よく返事した。


 この時、フィリーは苦笑し「苦しめるって」とこぼす。


 小柄な少年が。


「連携する形って……例えばどんな連携が?」


「例えば? 例えば、お前が木刀……そして盾を持って前に出て防御に徹し。ベネデルが木刀を長槍か弓に武器を変えて後ろで構える。つまり、より役割分担を……ってこれ以上は自分達で考えろ」


「「ありがとうございます」」


 少年二人がペコリと頭を下げた。


 フィリーが。


「エドワードさん、俺には? 俺には? 俺には何かないかな?」


「んー木刀で打ち込まれた場所は骨が折れていることはなさそうだが、痛むだろう? ちゃんと冷やしておけよ」


「うん。そうだね……ってそうじゃなくて、なんか俺には助言ないの?」


「助言? いる? 自分で考えた方が成長するぞ?」


「そうかも知れないけどっ! 負けっぱなしは嫌だ!」


「そうか。何十回と戦ってみて、複数相手……つまり集団で戦う相手に対して個人で勝つのは難しいのは分かったな?」


「うん……悔しいけど」


「けど個人でならお前は勝てるだろ? 今のところ」


「うん。それはそう」


「なら、一対一になれる状況を作り出すのが手っ取り早いだろうな」


「なるほど。それで、それはどうやって?」


「それは自分で考えろ」


「むーなんか俺に厳しくないか? もっと教えてくれてもいいじゃん」


 フィリーが不貞腐れた様子で、地面を蹴った。


 対して、エドワードはフィリーの頭を優しくポンっと叩く。


「いつも言っているだろう? それはお前に期待しているからだよ」


「んーそれを言われちゃうとなぁー」


「お前がこの中で一番強いのは間違いでないからな……」


 エドワードは言葉を一度切った。


 フィリー、そして少年二人へと視線を向ける。


「何事にも言えることだが。悩み抜いてだした答えはお前達にとって素晴らしい財産になる。実際、フィリーが多人数を相手に手数を増やすことで対応しよう考えた末に、二刀流の形が出来た。それに関して、俺は面白いと思ったんだ」




 一時間ほどで剣の稽古を終え、エドワードはフィリー達に汗をお湯で流し、拭くように指示を出した。


 家に入ろうとしたところで、馬に乗ったゴウィンの姿が目に留まる。


「……依頼」


「冬なのにお疲れだな。とりあえず、家の中に入るか? 寒いだろ?」


「……」


 ゴウィンは無言のまま頷き、エドワードの後ろに続き家の中へと入っていった。


 家の中は暖炉、そして魔導ストーブを使っていて着ていた外套がいとうを脱ぐ程温かく保たれていた。


 エドワードとゴウィンは向かい合う形で椅子に座る。


 エドワードがヤレヤレと言った様子で。


「こんな雪がある内に……本当にご苦労だよ。本来なら売りに行く道中が危険だから冬の間はお休みすること決め込んでいたのに……まさか、商人側がエルグランドの街までの行き帰りに護衛を用意するとは思ってもみなかった。商人達の商売魂というヤツかな? それを見誤っていた」


 ゴウィンは無言のままだが、ウンウンと頷いていた。


 エドワードがゴウィンの肩をポンと軽く叩く。


「ゴウィン、お前は大丈夫か? 疲れてないか? 無理はよくないぞ?」


「大丈夫」


「ならいいんだが」


「……このくらいしかできない」


 ゴウィンの反応に何か感じるモノがあったのか、エドワードは眉間に若干皺を寄せる。


 少しの間の後、顔に手を当てて口を開く。


「お前……自分の仕事、誰にもできる。代わりはいくらでもいるとか思ってないか?」


「……」


 ゴウィンは無言のまま、表情も硬いまま変わらない。ただ、体が若干だが震えたようにみえた。


 エドワードは軽い調子で。


「図星か? まぁ、他者から何か言われたか? お前の仕事は街の往復に、魔導具の管理、金の管理、俺への報告……確かに一見、誰にでもできるように見えるな。もちろん読み書き、計算ができるという前提にあるが。それで多くの給金を得ていると周りの不満も溜まるかもな。うんうん」


 手をゴウィンの肩に置き。視線を合わせ、続ける。


「……ただ、それは違う。お前の代わりを用意するのは難しい。だから、お前への給金は多めなんだ。なぜだか分かるか?」


 エドワードの問いに、ゴウィンは首を横に振る。


「……分からない」


「お前の出してきた帳簿は毎回確認している。多少の計算間違えがあっても、お金をごまかされていることはなかった。お前の仕事は究極的に言うと、それは俺に信頼されることなんだ。……大金を前にして生真面目に仕事を遂行できる人間はそうそう居ない。だから、お前の代わりは居ない」


「っ!」


 ゴウィンは無言のまま、俯き両手で顔を押さえた。少しの間の後で、両手を放し、顔を上げると若干固い表情が和らいだように見えた。


 鞄を開けて、手紙をエドワードへと差し出す。


「……預かってきた」


「へいへい」


 エドワードは手紙の封を解く。


 手紙の封筒の中には十枚の便箋。


 最初の数枚……増産と面会願いなどと長々と書かれた便箋を笑いながら読み飛ばす。


「なっが……毎回長くなっていく」


「会えないと言っているんだが」


 ゴウィンは難しいそうな表情で腕を組んだ。


「これは顔出ししなくて正解だったな。それで……ここからが改善要望か。今回は面白いのが上がって来たかな?」


 商人からの便箋には魔導具の改善要望が書かれていた。


 ・二度使用できる魔法を一度に集約することでの威力向上。


 ・魔導具に使われている武具の軽量化。


 ・魔法の使用回数の上限増……などなど。


 エドワードは数分で商人からの便箋の内容を読み終える。便箋をテーブルに置くと、足を組んで、視線を上げる。


「なるほどな。最初の二回の魔法を一回集約するというのは出来なくもない。ただ二回分の魔法を一度に出すとなると共鳴し合って、魔法の効果が相殺されたりしないかな? そこの試験と調節がいる。一度しか使えないのなら、投擲武器とかがいいかな? それとも装飾品かな? あ、そうだ。アレは? いや、精度的に作れるか? んー次の武具の軽量化は……。使い捨てゆえに大量に持ち込みないは分かるが。何かいい方法があるか? まぁ俺だけでは、どうしようもないな。それで……次、魔法の使用回数の上限増は勝手に俺が二回と決めたからな。取り付ける魔石の数を増やしたら……まぁ普通の型打ちの剣では強度的にできないんだよなぁ。グレゴリーの作る型打ちの武器なら五、六回は耐えられるかだろう。んーしかし、アイツには別の武器製作を頼んでいるからなぁ。その武器を流してもいいか? しかし、アレはなかなか……一個使ってみたら威力が強すぎて……。威力を押さえればいいか? 時間がないよなぁ。それで次……ハハ、この要望は無理だなぁ……。しかし、種類が多すぎるな。俺の時間がとられ過ぎる。俺の酒を飲む時間が……いや、そうではなくグレイソンの依頼があまり進んでいない。一応グレイソンには調査が遅れると許可は取っているものの……。先に受けた依頼をないがしろにするのは……何とか、魔法使いでなくても魔導具が作れるようになる魔導具を作らなければ」


 エドワードが一人の世界で思考を巡らせながらブツブツと呟き……時間が過ぎていった。


 一時間ほど経ち。


 エドワードはハッとした表情を浮かべた。目の前に居たゴウィンへと視線を向ける。


「おっと、すまなかった。時間をとらせたな」


「もう慣れた」


 ゴウィンが首を横に振った。


 いつの間にか用意されていた紅茶の注がれたティーカップをテーブルに置き、立ち上がる。


「お、帰るのか? 酒……いや、お前は酒が苦手だったか」


「酒は苦手だ」


「じゃあ、飯を食っていけよ。今日は子供達がいるから多めに作るぞ?」


「すまない。今日は遠慮する」


「珍しいな。何かあったか?」


「……家にあるから」


 ゴウィンの表情は硬いまま変わらなのだが。若干……若干だが顔が赤くなったような……。


「ふっ、噂には聞いていたよ。そうかそうか……最初は上手くいってないと聞いていたが。いやはや」


 エドワードには何か思い当たることがあったのか、ニヤニヤと笑みを浮かべた。商人の手紙を片付けていく。


「無口のお前が、どうやって仲良くなったんだ? アレか? 街に行く途中で野営する時になんかあった? もしかして、襲った? いや、お前は襲えないよなぁ。じゃあ、お前の方が襲われたのか? それなら、ありえるか?」


「っ! 手紙の返事は、明日取りに来る」


「あんまり女に溺れないようになー」


 顔を赤くしたゴウィンはエドワードから逃れるように椅子から立ち上がって、足早に帰っていった。




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