表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/44

第36話 グレゴリー・コダード。

 エドワードがルトック村に住み始めて九カ月が経った。


 季節は秋になっていた。


 苗付けされた麦が黄金色に。


 風が吹き麦の穂を揺らしている。


 メーヌ川近く作られた長屋と、その隣に作られた小屋。


 カンッカンッ!


 カンッカンッ!


 カンッカンッ!


 小屋からは甲高い金属音が響いていた。


 そこに、馬に跨ったエドワードが現れる。


 慣れた様子で長屋の前で馬を止めると、隣の小屋の中に入っていった。


 小屋の中では、少しくすんだ赤髪を短くした男性が。


 かまどの前で、赤く熱を持った剣に汗を垂らしながらトンカチを振り下ろしていた。


 ……まだ昼なのだが、どこか顔の赤いエドワードは酒瓶を掲げて声を掛ける。


「ういー元気? グレゴリー」


「……」


 赤髪の男性……グレゴリーはエドワードが家に入り、声を掛けたことにも気付かない様子だ。


 エドワードはフンッと鼻を鳴らすと、床に胡坐をかいて座った。


 酒瓶に口を付けてゴクゴクと飲みはじめる。


 十五分ほどして、赤髪の二十代前半の女性が姿を表した。


「うわ。エドワードさんか……びっくりした。どうしたんです?」


「んー? シャノーラか。武器を取りにきた」


 エドワードが酒瓶を掲げ、答えた。


「あーすみません。できている物を持ってき……いや、この作業場熱いでしょう? 居間に行きましょう。そこに出来上がった武器もあります」


 エドワードは赤髪の女性……シャノーラに連れられ小屋を出ると、住居となっている長屋へと向かう。


 長屋に入ると、シャノーラはエドワードの前に武器を詰めた籠をおく。


「遅くなって、すみません。私も少しずつ手伝っているんですが……まだまだ未熟で」


「いや、構わんよ。今回の納期分は終わっている」


 申し訳なさそうにするシャノーラに対して、エドワードが気にする様子もなく、首を横に振った。


 武器……型打ちの剣を手に取って、鞘から抜きモノを確かめるように眺め始める。


「けど、エルグランドの街の商人達は急かしているんでしょう? この前の戦争で活躍したとか。それで需要が上がり、高く買い取ってくれていると、エーヴィーが話していましたよ?」


「んーそんなことを聞いたようなぁ? 聞いてないような? 酒に酔っていて覚えてないなぁ。まぁーお前等がいくら頑張っても、魔導具技師のヤツが忙しくて、無理なんだけどな」


「え、そうなんですか?」


「そうそう。魔導具技師は夜しか寝ない勢いで、すごく頑張っている。うん、頑張っている。けど、それで間に合わないなら、仕方ないよねぇ。クハハ」


「健康的ですね」


「それで、お前等はちゃんと夜に寝ているか?」


「あー少しは」


 シャノーラはバツが悪そうに、視線を左右に揺らした。


 対してエドワードは分かりやすいと思いながら、武器から視線を外してシャノーラを見る。


「あんまり寝てないのか? ちゃんと寝ろよ? 体に悪いからな」


「しかし、納期が」


「納期かぁ。もう少し量を減らすか? 魔導具技師のヤツは良いと言うと思うぞ?」


「いや、それは……どうか。私達でどうにかしますから」


「そうか? 無理は良くないぞ? グレゴリーも仏頂面で、ずっとトントンやっていたし。もう少し……」


「いや、兄貴は……アレで楽しそうにやっているんですよ?」


「楽しそう? 嘘だぁ。ただの仏頂面にしか」


「いやいや。楽しそうですって……農具の修理や農作業をしていた時とはずいぶん違いますし」


「そうなのか? 俺にはよく分からんが……アレは楽しそうにやっているのか」


「ええ。楽しそうにやっています。それに兄貴は少し前に言っていましたよ。鍛冶の仕事を与えてくれた魔導具技師様には感謝しかないと」


「……うむ」


 エドワードが不意に体をグッと伸ばし、ブルブルと震わせた。


「ど、どうしました」


「いや、なんでもない。ちょっと背中がむず痒かっただけ。楽しんで仕事をしているなら、良いのだが……」


 エドワードは言葉を切って籠に入っていた武器へ視線を向けた。


 型打ちの剣を掲げて、続ける。


「素人の俺が見ても分かる安い型打ちの武器の品質じゃない……やっぱりお前等に型打ちの武器作りを依頼するのは、やめだな」


「え、えええ!? そんな! いきなり! やっぱり納品が遅いからですか! 何とかしますので! 頑張りますので! どうか!」


 シャノーラが取り乱し、詰め寄った。


 エドワードは首を横に振る。


「いや、落ち着け。話を最後まで聞けって」


「落ち着いていられますかって」


「別に作りたいなら作ってもいいが。お前等にはもっと作るのが難しくて、余っている魔物の素材をふんだんに使った、値の張るモノを作ってもらおうと思う。それを作るのが忙しいと思うが大丈夫? 過労で死なない?」


「えっと……えっと……」


「まぁ、グレゴリーが居る時にでも話そうか。スターチスシリーズを応用したら、なんか面白い魔導具になりそうなんだよ……って魔導具技師が言っていたような気がするから。うん」


 シャノーラは胸に手を当てて、安堵したように息を吐く。


「はぁー私達に不満がある訳ではないんですね……分かりました」


「どう見ても型打ちの武器の質じゃないからな。これを使い捨てにするのは勿体ない」


「質にこだわってしまうのは……末端とは言え、大昔から続く鍛治の一族……コダードの血ですかね。拘りが強いんです」


「そうか……うむ。ん? コダード? コダード……どこかで聞いたような?」


「聞いたことがありますか? まぁ鍛冶師の世界では有名ではあるので武器屋に行った時にでも聞いたのでは?」


 エドワードが考えて巡らせるように視線を上げた。少しの間の後、ぽそりと呟く。


「ダニエリック……ヤツの家名がコダードだったか? 最初にダニエリック・コダードと名乗っていたような? そういえばヤツは珍しい赤髪だったなぁ」


「えっ」


 シャノーラはエドワードの呟きに、目を見開く。エドワードへとどこか興奮した様子で詰め寄る。


「ええ、どうして……どうしてエドワードさんが、その名前を?」


「あ、あぁ。昔、剣を作ってもらったことがある」


「ほ、本当ですか。しかも剣を!」


「あ、あぁ……そんな興奮することか。剣を作ってもらっただけだぞ?」


「そりゃ、あのダニエリック・コダードですよ? 鍛冶師の間で伝説として話されるほどの鍛冶師。父さんが生きていた時、よく話していましたよ。魔法も扱え魔導具技師としても、鍛冶としても一流。ただ、仕事に追われるのを嫌い、定住することなく世界を旅しているのだと」


「ふーん」


「薄い。なんか反応が薄いですね?」


「まぁ伝説の鍛冶師と言ってもな。ただのおっさんだぞ? いや、今は爺さんか」


「むー。いや、それより、ぜひ……その剣を見せてください。お願いします」


 シャノーラがエドワードの肩を大きく揺さぶった。


 エドワードはヤレヤレと言った感じで、持っていた武器を置く


「分かった。分かった。仕方ないな」


「あ、待ってください」


「んあ?」


「兄貴を呼んできます」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ