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第35話 商談商談。


 エーヴィーの説明を聞いたフレデリックは魔導具の一つ、ナイフに手に取る。


「……二回しか使えない魔導具? それに利が?」


「もちろん、利はあります。特殊な技法を用いていますので、本来の魔導具に比べて、かなり安く提供できることにあります」


 フレデリックは目つきが真剣なモノ……目の色を変える。


「ほう。なるほど、二回しか使えない……。つまり安く抑え、使い捨てだから、安物の武具を魔導具にしたという訳か。それで、どのくらいの価格を考えている?」


「剣が二十万ルーブ、盾が二十四万ルーブ、ナイフが二十万ルーブ、お守りが二十八万ルーブです」


「……悪くないね。魔導具としては安すぎるくらいだ。二回しか使えないにしても……価格的にいうなら、四分の一から五分の一ってところか。後は性能か……使ってみせてくれるのは可能かい? 性能を見ないと」


「ええ、もちろん。どれが見てみたいですか? どれも下級相当の魔法ですが。盾が【ブロック】、ナイフが【ウインド】、お守りが【シールド】」


 フレデリックは顎を擦り、考えを巡らせながらブツブツと呟き始める。


「攻撃魔法をこの部屋で使われたら困る。とりあえずの【シールド】だな。【シールド】の魔法を魔導具にすることは、超一流の魔法技師でも難しいと聞いたことがある。それが、どれだけの【シールド】が再現できているか、まず確認しなければ……いや、どうせ後ですべて見ることになるんだ。ここは場所を変えて、彼等と魔導具の動作確認をするのが効率的だな。場所を変えて動作確認をしたんだが。いいかな?」


「……」


「はい。よろしくお願いします」


 フレデリックの問いかけに、ゴウィンは無言で頷き、エーヴィーはニコリと笑って立ち上がった。


 フレデリックは途中、部下を一人呼び、ゴウィンとエーヴィーと共に商店の屋上へと移動した。


 魔導具……スターチスシリーズの動作確認を行う。


 最初は「忙しいんですがねぇ」と渋っていたフレデリックの部下も目を輝かせて、燃え盛る剣……スターチスの剣を持っていた。


「おぉ、炎の剣です。格好いい」


 フレデリックの部下がスターチスの剣を構えた。


 ごおっと迸る炎の音を響かせ、剣を振う。


 フレデリックは魔導具に対して感心した様子で。


「どれも素晴らしい。下級の魔法と言っていたが。中級に近い魔法の性能だ。あくまで商品を扱うために得た魔導具に対する知識しかない私でも分かる。この魔導具技師の力量はかなり高いな」


 顎先を擦りながら、考えを巡らせる。


 二回しか使えないが、値段が安く、性能は十分。


 スターチスという魔導具。


 そこで気になるのは魔導具には必ず必要になる魔石を加工して作る魔晶石。


 魔晶石はどんな小さくても、安くない。


 最低価格は五万ルーブにはなる。あくまで最低価格がだ。


 あのレベルの魔法を使える魔導具となると相場は百万から……上を上げたらきりがないほどに高額。


 たまに売り出される魔導具の相場は中古でも五十万から。


 対してスターチスシリーズの値段は二十万から七十万……。


 普通の魔導具が高すぎて、比較できないが……五倍以上の値段。


 もちろん、二回しか使えないという欠点があるものの……。


 普通の魔導具だって繰り返し使えるとは言っても、魔晶石に蓄えられているマナが無くなったら、知り合いの魔法使いか、魔導具を購入した店舗に行って魔晶石にマナを補充しないと使えないのだ。


 魔晶石にマナを補充するのも、もちろんタダという訳にはいかない。世の中、タダ程に怖いモノは何のだから。


 そう考えると、使い捨てだが、安く手に入って高出力の魔法が使える魔導具というのは、使い勝手がいいのかも知れない。


 やはり気になることが、最低価格五万ルーブの魔晶石を使ったとはいえ、人件費などの諸経費が掛かって利益どころか赤字では?


 しかし、魔導具を売りに来た……更に今後も定期的にということは、魔導具技師は利益を出すことが出来ているということなのだろう。


 どうやって?


 この魔導具技師は何かすごい技術を隠しているのではないか?


 うむ、魔導具技師に会いたい。ぜひとも、我が商家の専属にできないだろうか?


 フレデリックは窺うようにゴウィン、エーヴィーに視線を向けた。


「……」


「おー凄い」


 ゴウィンは相変わらず、無言。


 次いでエーヴィーは感心したように呟いた。


 エーヴィーの様子にフレデリックは怪訝な表情を浮かべる。


「ん? 初めて見たのかな?」


「売れる量が減ってしまうので。すべては見てないんですね」


「なるほど」


 フレデリックは納得したように頷く。


 そこで、エーヴィーはバツが悪そうに。


「あ、一つ言い忘れていたことが」


「そういうのはやめて欲しいのだが……なんだね?」


「いえ、そのお願いを聞いてくれるなら、少し融通を効かせるということらしいんですが。えっと……出来たら、戦争に行く兵士の人には安くするか、何かおまけを考えて欲しい事です」


「その理由は?」


「なんでも、戦場で目立ってもらって、軍部からすごく高く買い取ってもらえるようになりたいとか?」


 フレデリックは顔に手を当てて、笑い出す。


「ハハ、なるほど……ずいぶんとぶっちゃける。まぁ、それは私にも利がありそうだからのむけど」


「私が聞いたことは言っても構わないとのことなんで」


「?」


「それで、どうですか? 魔導具は」


「いや、素晴らしいよ。二回しか使えないとはいえ安く、これだけの性能……魔導具技師が凄腕なんだね。是非お会いしたいんだが」


「ハハ……。申し訳ありません。その魔導具技師は顔を出すつもりはないと聞いています」


「そうか、それは残念だね。ん? 聞いているとは?」


「あぁ、私も実際に会ったことはないんですよね。私のしゃべっていることは基本的に渡された手紙を通してなんで」


「ほう。それはずいぶんと変わった人のようだね。しかし、それではお金の管理とか、魔導具の受け渡しが面倒だと思うが」


「そこら辺は、こっちのゴウィンが全部やっていますよ。私は交渉をやるだけで」


 フレデリックはゴウィンへと視線を向ける。ただゴウィンは無言で頷くだけだった。


 エーヴィーは苦笑を浮かべる。


「すみません。ゴウィンは無口なヤツで。不器用ながらすごく真面目に仕事をするヤツです」


「ふむふむ。ある意味、彼は口が固く。金の管理を任せられる男ということになるのか……人選から見て、この魔導具技師は何としても表に出てくる気はないというのが伝わってくるな。残念だ」



 フレデリックが残念そうに視線を下げた。ただ、すぐに気を取り直し続ける。


「……あ、そうそう。この魔導具の性能で先ほどの金額に我々の取り分を乗せても問題なく売れるだろう。ただ、魔導具は……どのくらい用意できるのかな?」


「剣、盾、ナイフは二十。お守りは三十……。それで納品ペースですが。依頼主曰く、冬以外は三十日に一回のペースでこれくらいの量を納品できるとか」


 フレデリックは視線を流した。


「ほう、魔導具技師が個人だとすると多い。しかし、これだけの魔導具を安く売れるとなると……少し物足りないな。本当に他にはないのかな? 他の商人に売る分とかあるんじゃないか?」


「鋭いですね。一応、あります。剣、盾、ナイフ、お守りのそれぞれ二十。それから……ブレスレットが十。ただブレスレットは込められた魔法がより強く、値段が高いですよ?」


「……」


 エーヴィーの視線を受け、ゴウィンは無言のまま鞄から……ブレスレットを取り出した。


 ブレスレットは青色のガラス玉が付けられているものの、作りは安物に見える。


 フレデリックは怪訝な表情でブレスレットを受け取る。


「これが……高いのか。このブレスレットはそこの市場で売っていた物じゃないか? 確か子供の小遣いでも買えるほどに安かった。他の魔導具と同様に魔導具だと頭ではわかっていても、視覚的に安く見えるな。いや、それよりブレスレットは何ができるのかな?」


「えっと……ブレスレットの付けた手を向けた方に【ウォーターブレット】が一度に五発打ち打ち出せます。水魔法とは言え中級程度の威力にしているとか。下手な人に持たせるには高威力過ぎるために、売る人は十分選んで欲しいと」


「【ウォーターブレット】が五発か……本当か気になるところだが。製作者の魔導具技師が高威力というのなら、この屋上でも危険かな」


「そうですね。空に撃っても、大量の水が落ちてきますからね」


「それで? いくらなんだい?」


「えっと、七十万ルーブですね。さすがに高いですよね。ちなみに、このブレスレットも二回しか使えないとのことです。七十万ルーブなんて、いい家が建てることが出来ちゃいます」


「……いや、威力を確かめてからになるが。君が言った魔法が本当に使えるなら、確かめた後、問題なければ購入したい。それよりも」


「それよりも?」


「その魔導具技師に……手紙を預かってもらえるかな」


 この後、打ち合わせをし、いくつかの書類に目を通して、ゴウィン、エーヴィーはフレデリックとの商談を無事終えたのだった。




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