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第31話 七カ月。

 エドワードがルトック村に住み始めて七カ月が経った。


 季節は夏になっていた。


 夏のクリムゾン王国は暑い。多少高地にあるルトック村は比較的に涼しくはあるものの、暑いのはかわらない。


 そして、今は昼前でとにかく暑い。


 ここはエドワードの家……その前の庭。


 エドワードは屋根の付けられた木製の椅子に腰かけていた。


 エドワードの前ではフィリー達……ルトック村の子供達が剣の稽古、弓の稽古をそれぞれしている。


「んーん」


 エドワードがエルグランドの街で大量に買い込んでいた型打ちの剣や盾、ナイフ、ネックレス等を持ち替えつつ、品定めするように見ていた。


 木刀で試合していたフィリーと試合相手であったが近づいてくる。


 ちなみにフィリーは以前勝手に魔物の森……アルブゥの森に入った罰で坊主にされ髪が無くなっていたが、今はずいぶん生えてきている。


「エドワードさん」


「んーなんだ?」


「どうだった? 俺の試合」


「んー……もうちょっと真剣にやった方がいいな」


「ちゃんとやってるぞ」


「そうか? この試合に負けたら死ぬくらいに真剣だったか?」


「いや……そこまでじゃないけど」


「じゃあ、次はそのくらい真剣にな。本当の戦いは基本的に生死が関わるから、それくらいじゃない意味がない。それから、フィリーの試合の相手は二人な」


「え、それじゃ俺が不利になるじゃん」


「お前が何に成りたいのか分からんが。戦場や魔物の領域では一対多数で戦うことがあるから。慣れておくのは良い事だぞ?」


「んー分かったよ。それで? 出来たの?」


「うん。魔法の威力の調節に手間取ったが、一通りできたかな? 魔剣……名前は……何にしようか。この本来使い物にならなかったクズの魔石を魔導具にした方式のことを変わらぬ心という花言葉のあるスターチスとでも呼ぼうか。スターチスの剣、スターチスの盾……って感じか?」


 エドワードが持っていた型打ちの剣を空へと突き立てた。


 型打ちの剣のつばのところには五ミリにも満たない小さな魔石二つと透明な結晶が埋め込まれていた。


 光に照らすと、刀身に掘り込みがされているのが分かった。


「本当か。本当か。欲しい。欲しいな」


 フィリーがエドワードの服を掴んで、ぐいぐいと揺さぶり催促した。ちなみに、エドワードとフィリーが話していると他に稽古していた子供達も集まってきて……同様に欲しそうな表情を浮かべていた。


「お前にはこの剣は早すぎる。危ない」


「えーエドワードさんが作った魔導具が欲しい」


「いや、本当に危ないから。それから、一応シルビアが作ったってことにしといて」


「うー」


「そもそも、これは売り物だしな」


「うー」


「唸っても、駄目だ。こういうのは自分で稼げるようになってから、自分で買うんだな」


 エドワードはフィリー達の物欲しそうな視線を気にすることなく、魔導具を鞄……ダーリラムの鞄へと仕舞っていった。


 仕舞っていく途中で三センチほどの大きさの青色の巾着袋を手に取って、止まる。


「俺の魔導具が欲しいって言ったな。じゃあ、これを……お前等全員にやろう」


 エドワードは青色の巾着袋をフィリーの前に持っていった。


 当のフィリーは怪訝な表情で、青色の巾着袋を見る。


「これ? 魔導具なの?」


「あぁ。二、三人くらい入れる……魔法使いの力量的には下級クラスの【シールド】を張ることが二回出来る。発動するには……巾着袋の真ん中あたりを強く押す。そして……【シールド】って呟く」


 エドワードは青色の巾着袋の真ん中を押すと、すぐにポイッと庭の……先ほどフィリー達が稽古していた場所へと投げた。


 青色の巾着袋は空中で薄く輝き……円形の光の壁【シールド】を発生させて、庭の地面に落ちる。


 フィリーを始め子供達は【シールド】の周りに集まって興味深げに触れたり、覗き込んだり、していた。


 当のエドワードは若干渋い表情を浮かべる。


「発動までにラグがあり過ぎるな。そのラグが生死を分けることがあって……。ただ、あの魔晶石にも加工できない……本来なら燃料以外に使い道のなかった……豆粒のサイズの魔石で出来るのはこのくらいが限界か。いや……逆に豆粒のような魔石のサイズをこのように有効活用できる俺ってやはり天才なのでは?」


「そうですね。天才です」


 いつの間にかエドワードの背後にいたシルビアが、カーラと共に飲み物を乗せたお盆を持ってきていた。


 カーラはお盆を持って、フィリー達に飲み物を配りにいった。


 シルビアはお盆をエドワードの座る椅子の隣にあった木製の机の上へと置く。


「ご主人様は天才ですから」


「やっぱりそうだったか……って俺の呟き聞いていた? 恥ずかしいな」


「ふふ、恥ずかしがる必要はありません。本当の事なんで。ただ、魔石には何かを塗って隠した方がいいかも知れませんね」


「なんで?」


「もし、今回、ご主人様の考えた魔導具製作の技法がバレたら……」


「バレたら?」


「王国に拘束されて、残りの人生を魔導具作りに捧げることになるかも知れません」


「……そこまでかな?」


「ええ。燃料にしかできなかった魔石を活用できる魔導具を作ったんですから。この技術だけで一生食べていけ……後世、何世代に渡って優雅な生活ができるでしょう。いや逆に王宮に技術を供与させられるかも知れませんね」


「それは。大変だ。一応、シルビアの名前を彫り込んでおいてよかったな」


「何をやっているんですか!!」


「ハハ」


「笑い事じゃないんですけど……。何も知らない私のところに魔導具技師の人達が集まってきたら、どうするんですか」


「意外と簡単だから。次からはシルビアにも手伝ってもらえる」


「それなら……まぁ」


 シルビアが渋い表情を浮かべながらもお盆に乗せられていたポットを手に取った。ティーカップに紅茶を注ぎ入れるとエドワードの近くに置く。


 エドワードは頷き、ティーカップを手に取る。


「……ありがとう」


「アイスティーにしました」


「それはいい。今日は暑いからな」


「そうですね。暑くて倒れちゃいそうです」


 エドワードとシルビアとは【シールド】を大きなボール代わりに元気よく遊びだしたフィリー達を眺めながら、椅子に座っていた。




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