第29話 一騎打ち。
シルヴィスは戦場を飛ぶリナリーを見て、感心したように呟く。
「いい度胸だな……。俺の攻撃に合わせて。お前等、狙え」
シルヴィスの指示を受けて、シルヴィスの後方に居た騎乗した部下達が弓、投げ槍、魔法を準備する。
「【炎絶剣】」
シルヴィスの掲げた黒剣から大量の炎が噴き出した。
炎を纏った黒剣をリナリーへと、風を巻き込むほどに鋭く振るう。
黒剣の刀身から、圧縮された炎の刃がリナリーへ。
更にシルヴィスの後方の部下達が矢、槍、魔法を放つ。
大量の攻撃が迫る中、リナリーは精神統一するように目を閉じた。
リナリーの体が、うっすらと白い光を帯びていく。
「【龍連】っ!」
リナリーがカッと目を見開く。
構えていた青い長槍が……パッと消した。
いや、消えたと、感じるほどに素早く鋭い突きだった。
リナリーの突きは無数の鋭い風の刃となって、シルヴィス……いや、黒剣傭兵団が放った大量の攻撃とぶつかり合う。
その攻撃がぶつかり合う衝撃たるや、地面が大きく揺れて、周囲の兵士が吹き飛ぶほどであった。
辺りの兵が吹き飛んだことで、戦場に空白地帯が。
リナリーは空白地帯の真ん中あたりに、スタンッと立った。
空白地帯には四番隊と黒剣傭兵団とが走り込んでくる。
リナリーとシルヴィスとが相対する形で顔を合わせる形になった。
シルヴィスは黒剣を担ぎ、ニヤリと笑う。
「相変わらずいい女だな。リナリー」
「お前のような粗暴なヤツに褒められてもうれしくないな」
リナリーがつまらなさそうに、鼻を鳴らした。
「おいおい。会うのは久しぶりなのに、つれないなぁ。これも相変わらずだが……」
「なんだ? よくしゃべる。このまま舌戦でもするの? お前等を止めろと命令を受けた私はそれでもいいけれど?」
「いやー少し話したい気分だったんだよ」
「……何を?」
「エドワード・ホワイトだ。ヤツは今何をしている?」
リナリーはあからさまに不機嫌となる。
「田舎に帰っているわよ」
「そうか……」
「それが何か?」
「アイツ、うちの国に来る気はないかな?」
「絶対に行かないでしょうね。お師匠様は地位にも金稼ぎにも基本興味ないし」
「残念だな。絶対に稼げると思うんだが」
「ふん。お師匠様が本当に金と地位を欲していたら、アンタでは想像できない稼ぎと地位をとっくに得ているわよ」
「そうか。では、もっと勿体ないなっと……さてそろそろ戦いを始めようか。日が暮れちまう」
シルヴィスが馬から降りた。重さに地面が凹む。
馬を後ろの部下に任せ、「お前達も戦え」と一言。
リナリーとシルヴィスの周りで、四番隊と黒剣傭兵団と戦闘が始まった。
黒剣を構えて、リナリーへと鋭い視線を向けた。
「下馬するの?」
「あぁ。お前相手では馬が邪魔で、勿体ないからな」
「そう」
リナリーは小さく頷き、青い長槍を構えた。
リナリーとシルヴィスとは互いに武器を構える形。
立場も武器も性別も歴も違えど、互いに幾千と修羅場を潜り抜けた国きっての一流の武人。
周りでも戦いが始まれど、二人は武器を構えたまま動かない。
二人の間の空気が張り詰めている。
先に動いたのはシルヴィスだった。
グッと地面が凹むほどに、踏み出した。黒剣を振るおう……とした瞬間。
リナリーも一歩踏み出した。目にも止まらない速度で長槍を連続して突き出す。
「【連】っ」
出だしは一瞬遅かったもののリナリーの攻撃は殺傷性こそ低いものの、とにかく早かった。
よって、シルヴィスは攻撃を止め、連続して突き出されたリナリーの長槍を黒剣で受けるしかなかった。
「戦えよ」
「悪いな。さっきも言ったが、私の仕事は……この場にお前を食い止めてればいいからね」
「ちっクソが。お前もかよ」
「……もしかして、お師匠様にも同じようなことをやられた?」
「師弟は似るようだなっ!」
シルヴィスは素早く太ももに巻くように装備されていた八センチほどの短剣を抜き……そのまま、投擲した。
投擲された短剣はリナリーに向かって……いや、リナリーから逸れ、後方の地面へと突き刺さる。
リナリーは眉間に皺を寄せて、怪訝な表情を浮かべる。
「何のつも……っ」
リナリーの言葉の途中、後方でボンッと小規模な爆発が。
爆発の衝撃はリナリーの後方にあった透明な壁に阻まれ……リナリーに被害自体はない。
ただ、爆発は先ほど、投擲された短剣によって起きた。
つまり、シルヴィスが意図的に起こした爆発……。
つまり、リナリーの意識が一瞬後方の爆発に向くことがシルヴィスには分かっていた。
シルヴィスは爆風によって巻き上げられた砂埃の中、一歩前に踏み出した。黒剣を上段の構えから思いっきり振るう。
「高かったんだがな。後ろに【シールド】張ってやがって、用心深い」
「っ!」
リナリーはギリギリ……長槍で、振るわれた黒剣を受けた。ただ、強烈な一刀に軽い体が後方三メートルほど吹き飛ばされる。
焼け焦げた匂い。
黒剣の一刀を受けた青い長槍が、焼け焦げ若干凹んでいた。
シルヴィスは一気に方を付けよう、地面を踏み出してリナリーを責め立て始めた。
リナリーとシルヴィスとの一騎打ちは……一進一退の攻防が繰り広げられ、決着を付かず日が暮れるのだった。




