第28話 話は変わって。
エドワードがルトック村に住み始めて六カ月が経った。
ここはハンブルク王国とレスラーネ共和国との国境付近にあるイースター平原。
平原と言いつつ、小高い丘、荒野、密林と様々な地形があった。
平原ではハンブルク王国とレスラーネ共和国……それぞれの軍が布陣して戦っていた。
イースター平原の小高い丘……丘の麓で戦う兵士達を一望できる場所に人間や馬の形をした駒が並べられている大きなテーブル。そして、そのテーブルを兵士達が囲んでいた。
「くそっ、どこもかしこ押されている」
「第一軍を下げて、予備隊を」
「いや、第一軍よりも、第二軍だろう。千将がもう三人も……」
「くそくそ」
「好機とみるや、黒剣傭兵団が前に押し出てきて止めるのに兵が割かれたのが」
「いつもなら頼りになる冒険者の一団も相対している敵をとどめるので手一杯」
テーブルを囲む兵士達が話していると。
「伝令! 伝令!」
兵士が馬を走らせ、丘を駆け上がってきた。
「またか」
テーブルを囲む兵士達が忌々しいモノを見るように伝令と叫んだ兵士……伝令兵へと視線を向けた。
伝令兵は馬から飛び降りて膝を付く。
「右軍。前線が壊滅。かなり押し込まれていると。援軍を求めています」
伝令を耳にした天幕にいた兵士達がザワザワと騒がしくなる。
「今度は右軍か」
「前線が崩壊したのは敵の誘い込みに引っかかったからだろが」
「こちらも大変だというのに……足を引っ張るのもいい加減にしてほしい」
「子らを役職に就けたいのは分かるが、貴族連中も困ったものだ」
「今は頭の中お花畑のヤツらのことを論じていても仕方ないだろう」
「そうだ。右軍、左軍ともに頼りない……。両翼ともに押し込まれると、挟撃される恐れが」
「本陣の後退も検討しないと」
「優位のある丘を捨てるのか」
「……どうされますか? ルトヴィヒ将軍」
テーブルを囲む兵士達の視線が、頬に傷跡がある四十代後半の渋い男性……ルトヴィヒ将軍へ。
ルトヴィヒ将軍は眉間に皺がよる。
「右軍に援軍を二千。指揮は……」
ルトヴィヒ将軍の命令で、周りの兵士達が動きだした。
ちょうどその時、ズドンッと地面を揺らすほどの衝撃が走った。
「っ!」
ルトヴィヒ将軍がテーブルに手を置いて、戦場へと視線を向けた。
黒い刀身の大剣を振るってハンブルク王国の兵士達を切り……吹き飛ばしている黒い鎧を身に付けた騎士がいた。
黒剣の騎士を先頭に一様に黒い鎧を着こんだ一団が、ハンブルク王国の兵士の塊を両断するように切り裂いていく。
「黒剣傭兵団団長シルヴィスか」
「いきなり、ヤツが前に出てくるとは……」
「第一軍が切り裂かれている。なんて、突破力だ」
「本陣も危ないやも……ルトヴィヒ将軍。本陣の後退を」
テーブルを囲む兵士達がルトヴィヒ将軍に後退を進言していく。ルトヴィヒ将軍は首を横に振る。
「落ち着け。後退はしない。十字星の四番隊を呼べ」
ルトヴィヒ将軍の命令を受けて、部下が走った。五分としない内に青髪の女性……リナリー・シャルロットが一人現れる。
ルトヴィヒ将軍の前でリナリーが膝を付く。
「ルトヴィヒ将軍、呼ばれましたでしょうか? 私、十字星副ギルドマスターのリナリー・シャルロットです」
「すまんな。早々に出番だ。黒剣傭兵団の進軍を止めてくれ」
「畏まりました。ただ、あまり期待しないでくださいね」
「? 何かあったのか? それと四番隊隊長エドワード・ホワイト殿はどうした?」
ルトヴィヒ将軍は訳が分からいと、首を傾げた。
「まぁ、世代交代……引継ぎの最中なもので」
「世代交代? 引継ぎ?」
「ええ。報告には上がっていませんか? 四番隊隊長エドワード・ホワイトに関して」
「……いや、聞いてないな」
「エドワード・ホワイトはギルドから離れました」
今まで表情を大きく変えなかったルトヴィヒ将軍だが、エドワードがギルドを離れたことを聞き、目を見開き驚く。
「はんっ!? 確かに歳を召されていたが……いや、その話は後で詳しく話を聞く。すまんが、出てくれ」
「畏まりました」
リナリーがその場を急ぎ離れていった。
装備が様々で統一性はないものの、それぞれ一線級の武人、達人の雰囲気のある百人ほどの集団。
彼らを前に、馬に跨ったリナリーが青い大槍を掲げる。
「いくわよっ! シルヴィスは私が受け持つ!」
リナリーの号令で、一斉に走りだした。
「四番隊が出るぞ! 四番隊が出るぞ!」と兵士達が叫び、道を開ける。
開けた人の道をリナリーの一団……四番隊が素早く疾走していく。
彼等の向かう先は……黒剣傭兵団。
四番隊と黒剣傭兵団との間はまだ少し距離があるというのに、彼等の正面が開いた。
先頭をいくリナリーと黒剣傭兵団団長のシルヴィスとの視線を合う。
シルヴィスは口角を上げてニヤリ。
黒剣を掲げるように上段に構える。
黒剣の刀身が若干、輝き始めた。
リナリーは眉間に皺を寄せる。
「いきなりか。せっかちね。しかし、アレをここで使われたら周りが死んじゃうわね」
後ろを走っていた四番隊の少し馬が可哀想になる巨漢の男性へと視線を向ける。
「ダンガル、私を投げて」
「……ん。分かった【パワード】」
巨漢の男性……ダンガルが大きな鉞の横……平たい方を上に構えた。
足のように太い腕の筋肉が大きく膨れ上がる。
リナリーは苦笑する。
「手加減してよね?」
「俺、不器用」
「……戦場の外れまで飛ばされては困るわ」
「努力する」
「頼むわよ。ほんと」
リナリーが走り揺れる馬の背で立った。後ろに飛んで、ダンガルが構える大きな鉞の上に。
「重くなった」
「おい。殺されたいのか?」
リナリーから、どす黒いオーラのようなモノが醸し出されて強烈な殺気が。その殺気は歴戦の戦士である四番隊の者であってゴクリと息を飲む。
「……いく」
ダンガルは若干背中に冷たい汗をかきながらも、鉞を振るった。
リナリーが吹き飛ぶように、シルヴィスへと向かって行く。
体勢を整えつつ、大槍を構える。
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小説を読んでいただき感謝。
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作者太陽クレハ




