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第27話 話が変わって。

 ここはエルグランドの街の中央にあった一際大きな屋敷。


 その屋敷はエルグランドの街やルトック村を含めた近辺の統治をおこなっているリンガイル伯爵の持ち物であった。


 屋敷の中で見晴らしの良いところに作られた部屋では小太り中年の男性が……まだ日が高いにも関わらず酒瓶を片手に酒を飲んでいた。


「ごくごく……ういぐ……糞親父から爵位を引き継いでから、私が何をやっても、うまく行かん」


 酒瓶から直接に酒を飲んでいた中年男性は顔を赤くして、デスクの上に突っ伏した。


「どうしてなのだぁ。ウォルダム川の貯水工事は……盗賊の所為で資材が流されて大損をこいた……糞がぁ」


 中年男性がデスクに置かれていた茶色い紙をバッと払い除けた。茶色い紙が辺りに散乱した。


 デスクチェアーに背中を預けて、デスクの上で足を組んで乗せる。


「ふうーいっぐ……いっぐ……こうなったら……こうなったら……仕方ないかぁ……ごくごく」


 中年男性がしばらく酒を飲んでいると、部屋の扉がノックされた。


「んあ?」


「お館様……また飲んでおいでなのですか」


 執事服を着た初老の男性が部屋に入って来るや、呆れた表情を浮かべながら、中年男性へと視線を向けた。


「飲まずにいられるかってんだよ」


「やれやれ、だから……貯水工事に精通した優秀な人材を確保してから、工事を慎重に進めるべきだと進言したのです」


「なんだと? 貯水工事自体は問題なかったんだろう。アレは盗賊の所為だ」


「違うようです。現場責任者であった家臣を問い詰めたところ……増水した時に壊れて流されたんだと証言が取れました」


「なんだと? 盗賊が資材を奪ったと聞いているが」


「あぁ、確かにあの盗賊……『暁一族』は資材を取っていきましたが。川に流されたモノを取って行っただけです」


「ぐ……その現場責任者を連れてこい。ヤツの家に貯水工事の損害を払わせてやる」


「分かりました。ただ彼は虚偽の報告をしたことに対しての罰は必要でしょうが……。増水によって貯水地が壊れたなら、誰が現場責任者になっても今回の貯水工事はうまく行かなかったでしょう。なので、損害をすべて払わせるのは……」


「ぐっ」


「だから、貯水工事に精通した優秀な人材をと進言しましたのに」


「ふん、高金で優秀な人材など雇わなくとも、本に書いてある簡単な貯水工事にすぐに着手した方が金も掛からずに済むんだ……ひく……ひく」


「それでうまく行けばよかったのですが、貯水の工法は川の形……水量などによって変わるモノなのです」


「おい。それを早く言えよな。バカが」


「そういうのを調べるために高金で貯水工事に精通した優秀な人材を雇う必要があったのです。そのように進言したんですが」


 初老の男性……レクシルがヤレヤレと言った様子でおでこに手を当てて、首を横に振った。


 中年男性……リンガイル伯爵は手に持った酒瓶に口を付けて、勢いよく飲み始める。


「うぐっ、ごくごく」


「お館様……お酒はそのくらいにしていただけると」


「糞が、飲まずにいられるかってんだ。こうなったら、年貢をもっと上げるしかないな。貯水は急務である」


「ガーディナ鉱山の鉱脈を掘りつくしてしまい……今となっては特に名物も何もない領でこれ以上年貢を上げるのは、領民が他領に流れ出してしまうでしょう」


「ぐっ、前に上げた時も随分と他領に流れたと言っていたな」


「……はい。結局、領内の利は減ったでしょう。ところで今回の本題に入らせて欲しいです」


「本題? なんだ、また問題でも起こったのかぁ? ひく」


「いえ。本日は冒険者組合より上がってきた報告に気になるモノがあって急ぎご報告に来たのです」


「冒険者組合だとぉ?」


 リンガイル伯爵が眉間に皺を寄せて、レクシルへと視線を向けた。レクシルは懐から茶色の紙を取り出して、目を通しながら話し始める。


「はい。先月に一人の冒険者が訪れたそうです。その冒険者とはエドワード・ホワイト……ご存じでしょうか?」


「エドワード・ホワイト?」


「S級ギルド十字星の幹部メンバーであったエドワード・ホワイトです」


「そのエドワード・ホワイトのことは知らんが、S級ギルド十字星のことは聞いているぞ。たしか……ギルドマスターと副ギルドマスターの派閥争いが激化しているんだったか?」


「ええ、この国で古くからあるS級ギルドが存続の危機あると」


「くく、良いざまだな。幾ら王族すら配慮するほど巨大組織になったとしても所詮は冒険者風情よ」


「……すみません。話が逸れました。そのS級ギルド十字星の幹部メンバーであったエドワード・ホワイトですが。この領内のルトック村に隠居のために移住してきたそうです」


「なんだと!? それは本当か?」


「ええ、彼はもともと出生地がルトック村で……これは好機でしょう。彼は引退したものの一流の冒険者でした。高金で招いて、彼の人脈を活用し、他の領との交流を活発化させるように」


「バカ、冒険者など、雇うよりも……S級ギルドの幹部メンバーならば大金を持っていよう。どうにか搾り取る方法を考えよ」


「お館様。それは……一流の冒険者を敵に回す行為をやるべきではないかと」


「では、敵対しない形で金を搾り取る方法を模索すればよいだろう。そうだな、隠居ということは……そのエドワードとやらは年老いているのでは? 女でも送って婚姻を結ばせろ。どうせ、すぐに死ぬだろう。遺産をうちで確保したい」


「しかし、一民に貴族家の娘を。それに無理に近づけるというのは周りから声が」


「ふん、我らに周りの声など気にしてはおれんのだ。しかし……お前の言う通り貴族家の女をたかが冒険者に近付けるのは……うむ、とにかく呼び出せ。ソイツを」


 レクシルは不承不承に思いながらも、頭を下げて。


「……かしこまりました」



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