第26話 鹿角亭。
エルグランドの街に到着して五日目。
エルグランドの街の街中。
今日はエドワードとシルビアの二人で歩いていた。
エドワードはいつも通り、動きやすい白いシャツにジャケット、黒の長ズボン。
シルビアはいつも着ている白と黒のメイド服ではなく、町娘が着るような空色のワンピース。金色の髪をサイドで結んでいた。
いつもより少しテンションの高いシルビアは、エドワードの手を引く。
「ご主人様、こっちです」
「そんなに急がんでも」
エドワードは苦笑を浮かべた。
「時はお金では変えれないのですよ」
人通りの多い通りをエドワードとシルビアは歩いていった。
ちなみに……エドワードとシルビアの様子を遠くから見ていた冒険者と思われる屈強な体躯の男性二人組が「まぁまぁ、これから飲みに行こうや。女なんて、いっぱいおるよ」と離れて行ったのだが……また別の話。
エドワード達はいくつかの店を見て回った後……時刻は昼が過ぎた。
人通りの多い通りを一本出たところにあった『鹿角亭』というレストラン兼喫茶店に訪れていた。
エドワードはメイドに案内されて席に座るとメニューを手に取る。
「どんな酒があるかな?」
「まだ昼ですよ。早いです。それに、せっかく良いレストランなのです。お酒を飲んだら、料理の味が分からなくなってしまいますよ」
「えー。一杯もダメ?」
「……一杯だけにしてくださいよ?」
「いっぱい?」
「ん? なんか今、言葉違いませんでしたか?」
「? 何のことだ? さっぱり分からないなー」
「一杯ですよ? 一杯」
シルビアが人差し指を立てて、念を押した。
エドワードは頷き、メニューを開く。
「分かった。分かった。肉がメインだとのことだから、赤にするかな」
エドワード達は料理をいくつか注文したところ。
エドワードは注文を取ったメイドを見送り、小さく息を吐く。
「余った魔物の素材と魔石をどうするか」
「ご主人様が作った魔導具は……」
「ん? 俺の作る魔導具に何か問題がある?」
「いや、ご主人様の作る魔導具は性能が高くて、売れると思います。ただ、性能が高すぎて、本職の魔導具技師が廃業する恐れが……いや、そうじゃないですか。凄い騒ぎになるでしょう。この魔導具を作ったヤツ、誰だぁー!って」
「それは言い過ぎじゃ?」
「昔、古くなった魔導ストーブを売りに出した時に騒ぎになったのをお忘れですか?」
「あぁ、古代遺跡の発掘品と言って何とか逃げた。しかし、魔導ストーブは凝った作りだったからだろ?」
「結局、あの魔導ストーブはオークションにまで掛けられて……王族が金貨百枚で無理矢理買い取っていったんでしょう?」
「……そんなこともあったな。しかし、俺が使い古した魔導ストーブが王宮で大事にされていると思うと不思議だよな」
「王宮にあるその魔導ストーブよりも、今私達が暮らしている家にある魔導ストーブの方が性能がいいですよね?」
「そりゃ。よりいい魔晶石と魔物の素材で作ったからな」
「……」
「……騒ぎになるかな? 面倒になるかな?」
「先ほど言った通り、絶対にこの魔導具を作った魔導具技師は誰だぁーって騒ぎになると思います。今回は魔石や魔物の素材を活用するためということなので……魔導具を売り出す度に古代遺跡からの発掘品と誤魔化すのは苦しいです」
「確かに苦しすぎる」
「ちなみにどんな魔導具を考えているんですか?」
「特に考えていない。何が欲しいかな?」
「んー一番は先ほど話に出した魔導ストーブなどの暖房ができる魔導具でしょう。この辺りは温暖と言われるハンブルク王国国内の中でも寒い方なので」
「しかし、それを作るとまた騒ぎに……」
「ですね。次は魔剣や魔装の類ですか? 冒険者の皆さん、お金を持っていますから、買ってもらえると思います」
「俺、鍛冶師の仕事はさすがにやってないんだが?」
「剣を一から作らないと魔導具にはできないのですか? 例えば型打ちの剣を加工して魔剣にはできないのですか?」
「できなくもないな。ただ型打ちの剣や盾だと、魔導具として使ったら威力に耐えられずに一度か二度でダメになってしまうな」
「……それ、いいのでは? 二回しか使えないのであれば、騒ぎにもなり難いでしょうし。魔石だって安いヤツを二つ付ければいいですし」
「二回しか使えないって魔導具として売れるか? てか怒られない?」
「売るときに『二回までしか使えません』ちゃんと言って……威力を見せれば」
「実演販売か。ちょっと面白いかも知れん」
エドワードが顎に手をあてて、頷いた。丁度、そのタイミングでメイドが台車に乗せた前菜……チーズと人参、パセリソースの和え物が届けられる。
「これは……白ワインだな」
「もうメインの肉料理と一緒に赤ワインを届けてもらえるように頼んでありますが?」
「やっぱりワイン一杯じゃ足りなくない?」
「足りますよ。うん」
「そーかなぁ。料理もお酒と一緒に食された方が喜ぶぞ?」
「気の所為です。美味しそう……食べましょう」
シルビアに急かされ、エドワードはフォークを持って食事を始めた。
それから談笑しながら食事を進める。
一時間ほどして、エドワードとシルビアが鹿角亭から出てきた。
「「ふうー」」
エドワードとシルビアとは満足げな表情で、息を吐いた。
シルビアがお腹を擦る。
「予想以上に美味しかったですね」
「あぁ。肉料理の白鹿のステーキは柔らかく……噛むと肉汁が溢れて美味かった。アレはどうやって作るのか」
「オーブンで焼いたんじゃ?」
「んーどうかな? 蒸した後に、鉄板で焼いた……とか?」
「それ、今度試してみましょう。ステーキを食べれていない留守番のチョビが可哀想ですから」
「そうだな。これはいろいろ試してみる必要がありそうだ……とりあえず、白鹿の肉を買いに行くか」
「そうですね。行きましょう」
エドワードとシルビアは足早に市場のある方へと歩いていったのだった。
エルグランドの街に到着して六日目。
エルグランドの街で泊まっていた宿屋近くの馬小屋前。
「さてさて、忘れ物はないな」
エドワードは馬車の荷台に荷物の入った木箱を乗せた。馬達に人参をあげたシルビアが近づいてくる。
「ええ。頼まれたモノも買いましたし」
「じゃ、そろそろ行くかな」
「よろしくお願いします」
エドワードはグーっと体を伸ばして、馬車の御者台へと歩いていった。馬車を走らせて、エルグランドの街を出発したのだった。




