第21話 強くなれ。
「ううぅ」
フィリーが眉間に皺を寄せた。
ん、なんだか温かい。
温かい……アレ?
どうしたんだろう?
確か、あの茶毛の狼に噛みつかれて。
そうか……死んだ?
俺は死んだのかな?
じゃあ、次に目覚めたらどうなるんだろ?
死んだ後のことなんて考えたこともなかった。
いや……それよりも、もう家族には会うことはできないのか。
フィリーは寝返りをうつように体を動かした。
動いたことで全身に痛みが走ってうめき声が上がる。
「いつ……あ」
フィリーが目を覚ました。
目の前に広がったのは、木々が生い茂る森。
夜なのだろう。木々の隙間から見える空は暗くなっていた。
夜になり、森の中ならば、暗く視界などある訳がない。
近くでは焚火が炊かれて辺りを照らし、ほのかに熱が伝わっていた。
焚火の前には肉にかぶり付くエドワード、焚火で温めているスープをかき回しているシルビア、丸くなって眠っているチョビが居た。
状況が呑み込めないフィリーは戸惑いの声を漏らす。
「え、ええ」
「んお?」
フィリーの声を聞いて、エドワードがフィリーへと視線を向けた。
「え?」
「起きたか」
「エ……エドワードさん」
「クハハ、運がよかったな。結構ギリギリだったぞ」
エドワードがニヤリと笑った。持っていた骨付き肉にガブリとかぶり付く。
フィリーは状況を理解できないのか、呆けた様子でエドワードからシルビア、チョビの順で視線を送る。
「シルビア姉ちゃんも……チョビも」
「ふふ、なんですか? ここが死の世界とでも思っているのですか?」
シルビアがクスクスと笑った。
「死……痛いっ」
動いたことで痛みが走ったのかフィリーの顔が歪んだ。痛みが走った体に手を当てて、ハッとした表情を浮かべて声を上げる。
「あ、あの狼は?!」
「狼? あーサグウルフか?」
「そ、そう! 森……ここは危ないよ!? どこかに隠れないと!」
「まぁーこの森は全体的に危なくて、隠れたところであまり変わらないがな。ちなみに……そのサグウルフならそこに居るぞ?」
エドワードがフィリーの体の辺りを指さした。フィリーはきょとんとした表情で、エドワードが指さした方へ視線を向ける。
「そこ? え?」
フィリーの体に掛けられていた茶色の毛布……サグウルフの毛皮がパサリと落ちた。
「あーこの肉もそうだな。うまいぞ? 食うか?」
「え?」
「クハハ、何をキョトンとしている? 全部狩ったに決まっているだろうが」
エドワードが可笑しそうに笑った。対してフィリーは声も出ないと言った様子で黙った。
「……」
「まったく」
シルビアが木の皿にスープを注ぎ、フィリーの前まで行きしゃがみ込んだ。
笑っていたが、目は笑っておらずに……圧力のある笑みを浮かべてフィリーをまっすぐに見る。
「子供が、魔物の森に入るなんて危険な真似を……。エドワードが間に合っていなかったら、今頃貴方は死んでいたんですからね? 反省してください」
「は、はい」
フィリーがシルビアの笑顔の圧力を受けて、動揺しながらも頷いていた。
エドワードは特に気にした様子もなく、肉を食べている。
「クハハ。フィリーが一人で魔物の領域に入るのは十年早かったな」
「エドワード、子供には駄目なことをちゃんと教えないといけませんよ」
シルビアがムッとして、エドワードへと視線を向けた。
エドワードはバツが悪そうなに頬を掻く。
「俺、人のことは言えないんだよなぁ」
「?」
「俺、魔物の森にはフィリーより小さいころから入り浸っていたからなぁ」
「……今は普通でないエドワードを論じている訳ではないのです。普通の少年の話をしているので、先人として注意してくれて大丈夫ですよ」
「そうかな? うむ、フィリーよ」
エドワードがフィリーへと体を向け、真剣な眼差しを向けた。
フィリーはゴクリと喉を鳴らす。
「……はい」
「強くなれ」
「っ」
「両親が、妹のカーラが心配しなくなるくらいにな」
「は、はい」
「まぁー俺からはそれ以上言うことはないな。死にかけて自分の弱さを理解できないとか……馬鹿か、相当な大物だよ」
エドワードが肉を食べて骨だけになったモノを焚火に放り込んだ。
ニヤリと笑って続ける。
「それに説教は家に帰ったらされるだろうしな。クハハ」
「うっ」
家に帰った後に怒られることを想像したのだろうフィリーがブルリと体を震わせた。
シルビアは息を吐く。
「ふう……そうですね。これ野菜スープです。温まりますので飲んでしまってください」
「あ、ありがとう」
フィリーが野菜スープの注がれた木の皿を受け取って、頭を下げた。
「おい。フィリー。こっちにまだ肉があるぞ。肉食え。肉」
エドワードが焼けていた骨付き肉を手にするとフィリーに声を掛ける。
「む、エドワード。フィリーは消化系が弱っているでしょうから、スープを飲んだ方がいいのです」
「そうか? 傷を負って、血がだいぶ抜けただろうし。肉食った方がいいだろう。肉」
「いいえ、ここはスープが一番です。と言うかエドワードも野菜スープ飲んでください」
「えー」
この夜、エドワード達は夜遅くまで、焚火を囲み話していた。
次の日、エドワード達は無事アルブゥの森から帰還する。
もちろん、フィリーは両親によってこってり怒られ……数日後坊主になって表れたとか。




