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第20話 縁起でもない。



 アルブゥの森に入って三十分。


 エドワードは振り返ってシルビアへと視線を向ける。


「大丈夫か?」


「大丈夫です。それよりフィリー君は大丈夫なのでしょうか」


「まぁ、まだフィリーの遺体が落ちてないから」


「物騒なことを言わないでください」


「と言っても……ホワイトヘッドボアに追いかけられているからなぁ。危ないんじゃないか?」


「……そうですか」


「ふすん。そのことじゃが」


 チョビが鼻を鳴らして、エドワードとシルビアの会話に入った。


 エドワードは前を向いて、チョビに声を掛ける。


「どうした? フィリー見つかったか?」


「すんすん。いや、どうやら、追われていたホワイトヘッドボアは撒いたようじゃ」


「おーそうか。それはよかった」


「うむ。ただ、この辺りに大量の魔物の匂いがするがな」


「そうか。フィリーの血の匂いはしないんだよな?」


「それは大丈夫だの……む」


 チョビが何かに反応して、ピクンと体を震わせた。


 少し遅れてエドワードも何か感じ取ったのか立ち止まった。前方右の草むらへと視線を向ける。


「近づいてきている」


「あのでっかいゴブリンが三、四ほどかの」


「シルビア、戦闘態勢……右草むらよりホブゴブリン接近中」


 エドワードが持っていたランプを地面に置き、シルビアへと小さく声を掛けた。


 シルビアは懐から青い結晶の杖を取り出して構える。


「私が【ウォーターエッジ】でけん制します」


 シルビアの杖が青白く輝きだした。杖をクルリと回す。


「タイミングを教えてください【ウォーターエッジ】」


 シルビアが【ウォーターエッジ】と呟くと、周囲に水が集まって十つの水球が出現した


 少し間をあけてエドワードは口を開く。


「三……二……一……撃て」


「っ」


 エドワードの合図を受けて、シルビアが杖を前に突き出した。シルビアの周りの水球が鋭く突起して、草むらに飛んでいく。


「「「「「ぎゃあああ」」」」」


 少しの間の後、草むらから五体のホブゴブリン飛び出してきた。ホブゴブリンには一様に突起した水球が突き刺さって、血を流している。


「いくぞ」


 エドワードがいつの間にか抜いていた黒い剣を持ってスタンと地面を蹴った。


 一瞬でモブゴブリンとの距離を詰める。


 身のこなしの速さはフィリーとの剣の稽古で見せていた、それとは別モノと感じるほどであった。


「片付ける。さっさと追わないとフィリーが死んでしまうからな!」


 エドワードが一番前に居たホブゴブリンへ黒い刀身の剣を振るった。対してシルビアは苦笑して、再び杖を突きだして魔法の準備を始める。


「だから、縁起でもないことは言わないでください【ウォーターボール】」






「はぁ……はぁ……ここなら見つからないよね?」


 フィリーが疲労した様子で大きく息を吐いていた。


「あの豚から逃げて……だいぶ走って疲れちゃった」


 草に隠れている木へと体を預けてしゃがみ込んだ。


 息が整ったところで心細そうな表情を浮かべ……木の間から覗く空を見上げる。


「どこだろう? 森の奥の方まで来ちゃった」


 一度、目を瞑って、下……折れ短くなった木刀へ視線を向ける。


「エドワードさんからもらった。木刀も折れちゃったな」


 フィリーが膝を抱えた。俯き、目元に溜まっていた涙を服の裾で拭う。


「くぅ。こんなことなら、エドワードさん達にあの綺麗な結晶を取りに行きたいって……いや、大人達に言ったら絶対に反対されるんだ」


 フィリーは十分ほど膝を抱えて、その場から動かなかった。


 ただ、気づいていない。


 フィリーの周りに魔物が集まっていることを……。


 ガサッと少し離れたところにあった草むらがガサガサっと音をたてて揺れる。


「っ!」


 フィリーが体を震わせた。恐る恐る揺れた草むらへと視線を向ける。


 草むらからは……。


「ぐるるるるううぅ」


 茶毛の狼が低く鳴きながら姿を表した。更に一匹姿を表すと、ぞろぞろと茶毛の狼がフィリーの周りに姿を表す。


 フィリーの顔が強張る。


「う、逃げ」


 フィリーが逃げようと周りに視線を向けた。


 ただ、茶毛の狼に囲まれていることに気づく。


「うあっ」


 フィリーが恐怖のあまり体が動かなくなってしまった。


 茶毛の狼はジリジリと近付き、フィリーへの包囲を狭めてくる。


「「「「「ぐるるるうぅ」」」」」


 フィリーに飛び掛かれる位置にまで近づいたところで、正面にいた茶毛の狼がタンと地面を蹴って、飛び掛かる。


「うわあああああああああああああ!」


 茶毛の狼が飛び掛かられたタイミングで、体の硬直が解けたフィリーが大きな声を出して逃げた。


 ただ、フィリーに逃げ道などなかった。


 茶毛の狼の一体の前足の鋭い爪がフィリーの背中を切り裂く。


「ぐあっ!」


 フィリーが背中を大きく切り裂かれて、その勢いで地面をドロンドロンと転がった。


 フィリーの体は転がって木にぶつかって止まる。


 傷口からドクドクと血が流れ出て、地面に広がっていく。


「うぐぅ」


 土で汚れた顔を起こして……ぼやける視界で飛び掛かってくる茶毛の狼へと視線を向けた。


 視界がぼやける。


 意識がぼやける。


 大きく傷を受けて痛いはずなのに痛みがない。


 こんな死ぬかも知れない状況なのになんだか、起きていられないほどの眠気が襲ってくる。


 母ちゃん。


 父ちゃん。


 カーラ……。


 エドワードさん。


 シルビア姉ちゃん。


 ごめん……言うことを聞かなくて。自分勝手やって……。


 フィリーは体からガクンと力が抜けて、意識を失った。


 次の瞬間、茶毛の狼達がフィリーの体に飛び付いたのだった。





「クハハ、ギリギリだった」



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