第2話 S級ギルド。
一年と少し、時を遡る。
ここは大きなお城を真ん中に多くの建物がひしめき合う大きな街……ハンブルク王国の首都に当たる王都エルブサロウ。
多くの人が通りを行き交っていて、人がいないところを探す方が難しいほど賑わっていた。
「ひくっ。あー飲み過ぎたぁ。よっと」
古ぼけた冒険者服を身に付けた初老の男性……エドワードが酒を飲んでいたのか顔を赤くして千鳥足でよろよろと大通りを歩いていた。
「酒が足りねぇーって持っていたわ。クハハ」
エドワードは手に持っていた酒瓶に口をつけて、ごくごくと飲み干していく。
ちなみに大通りは多くの人が行き交っていて、昼間から酒を飲んで酔っ払っているエドワードのことを不愉快そうに見ていた。
周りの目など気にする様子もなく、エドワードは歩いていると……屈強そうな男性達がエドワードを取り囲む。
「探したぜ。昼間から飲んでいたのか? エドワードさん」
「んあ?」
「ギルマスがアンタを連れてこいだとよ」
「ぶはぁーなんだぁ? 堅苦しい顔してぇー。なんだ、お前等、酒が足りてねーんじゃねぇかぁ? 今から飲むか? いい店を知っているんだぜぇ?」
「はぁー本当に聞いていた通り酔っ払いが……ギルマスの命令なんでねぇ。ちょいと強引だが連れていくぜ」
屈強そうな男性達がエドワードの両手両足を掴むと持ち上げ、担ぐように連れて行ってしまう。
ただ、当のエドワードは陽気に笑っている。
「なんだか知らんが楽ちん楽ちん」
エドワードが連れていかれたのは王都エルブサロウの中央にある王城の近くにある建物群は一等地とされていた。
その建物群の中でも一際大きな円形の建物の一室。
エドワードは男性達に担がれながら、その部屋の中へと入っていく。
エドワードを担いでいた男性の一人が、部屋の奥のデスクで何やら書き物をしていた茶髪の男性へと問いかける。
「マーシャルさん……どこに座らさたらいいですかね?」
「……連れてこいと言ったが、持って来いとは言った覚えは……いや、まぁいい。そこのソファに座らせろ」
「はい」
「お前達は下がっていいぞ」
「はい」
男性達はエドワードを二人掛けのソファの上に座らせると、そのまま部屋から出て行った。
エドワードは部屋をきょろきょろと見回す。
「えっとよぉ。んーここはどこだっけ? それでアンタは誰よ? ひく」
「っ!」
エドワードの言葉を耳にしたマーシャルが額の血管を浮き上がらせた。マーシャルはデスクチェアーから立ち上がると、スタスタと歩いて、エドワードとローテーブルを挟んで置かれた一人掛けのソファにドシリと座る。
「俺が誰かだと? 本気で聞いているのか?」
「ひく、あん? そうだねぇ」
「俺はお前の属しているS級ギルド『十字星』の現ギルドマスターのマーシャル・ファン・アベルトだ。そして、ここはギルドマスターの執務室だ」
「んあ? ギルドマスターはイザベラだった。あぁあぁ、そういえば死んじまったんだっけかぁ。そうだっけ……そういやぁ、それで飲んでたんだぁ。オラぁーイザベラぁなんで死んじまったんだよぉ」
酒で呂律の回っていないエドワードが肩を落として、表情を暗くした。悲しみを紛らわすためか、持っていた酒瓶をごくごくと飲んでいく。
「けぷーうい」
酒を飲んだエドワードがゲップを漏らす。
マーシャルは酒臭いエドワードに顔を顰める。
「エドワード……アンタが過去にいくら戦場や魔物の討伐で功績を残していても……歳をとった今のアンタは国に認められたS級ギルド十字星の第四団長の座に座るに相応しくない。……アンタをこのギルドから追放する!」
「んあ?」
「だから、アンタをこのギルドから追放する」
「んー?」
「なんだ、ようやくことの重大さを理解したのか? しかし、もう遅いからな。ギルドマスターの権限で決定したことだ。覆らん」
「んー俺、ギルドやめていいのか? 本当に? ひぐ……そっかそっかぁ」
エドワードの表情からはマーシャルが期待したような悲痛な表情など浮かべていなかった。どちらかと言うとにこやかに笑みを浮かべているように……見えたのだ。
マーシャルは不気味に思ったのだろう、眉間に皺を寄せて問いかける。
「どうした? あまりのショックにおかしくなったか?」
「いやいや、確かにだよ。確かに俺みたいな爺さんはこのギルドには相応しくない。本当。本当。正直運動不足解消の為になんとなく始めた冒険者活動なのに国からの面倒なクエストを受ける羽目になって時間が取られるわでさぁ。なかなか酒飲む時間が取れないし、まほ……趣味の時間も取れなくてさぁ。嫌でさぁ。俺も思っていたよ。お前等、若い世代に任せるべきだとずっーと思っていたんだぜ? 前のギルドマスターにも、その前のギルドマスターにも言っていたんだ」
エドワードがソファの手すりをパンパンと叩きながら上機嫌で言った。対してマーシャルは戸惑いの表情を浮かべる。
「お、おう。そうか?」
「そうだ。そうだ。えっと……名前はなんて言ったか?」
「マーシャル・ファン・アベルトだ」
「そうか。マーシャル……いや、ギルドマスターさんよ」
エドワードがローテーブルを乗り越えて、マーシャルの手を取ってガシッと握った。
手を握られたマーシャルは体を少しのけ反らせ問いかける。
「な、なんだ?」
「ギルド運営は大変だと思うが、がんばって」
「あ、あぁ」
「そんじゃあ、邪魔者の俺はさっさと帰って飲み直すとするよ。今日はいい日だ。宴だな。ひゃほーい!」
パッと手を離したエドワードは、ポカンとした表情を浮かべたマーシャルに見送られて足早に……スキップをしながらS級ギルド十字星のギルドマスターの執務室から出て行った。
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小説を読んでいただき感謝。
それでお手数ですが、作者のモチベ維持のために小説の評価、ブクマをどうかよろしくお願いします。
作者太陽クレハ