第19話 アルブゥの森へ。
三十分後。
エドワード達……エドワードとシルビア、カーラ、チョビの三人と一匹はフィリーを探すためにルトック村を訪れていた。
エドワードがルトック村に訪れるのは珍しく、遠巻きに村人達が見ていた。
ただ、当のエドワード達は周りを気にすることなく鼻をスンスンとならして先頭を歩いていたチョビを追いかけている。
「広くなった縄張りの見回りに忙しいと言うのに」
チョビが不満げな声を漏らした。
カーラはどこか申し訳なさそうな表情を浮かべる。
ただエドワードは気にする様子なく口を開く。
「一枚」
「……六枚じゃ」
「二枚」
「五枚じゃ」
「……三枚」
「うむ、大き目のヤツを三枚なら。良いだろう」
「仕方ないな」
「ふふ、ついて来い。こっちじゃ」
急にやる気を見せたチョビは小走りで走りだした。
エドワードとチョビのやり取りを見ていたカーラが首を傾げる。
「?」
「干し肉の数ですね」
カーラの疑問に対して、隣を歩いていたシルビアが答えた。
「干し肉ですか?」
「ええ、チョビは食い意地がはっているので……おやつの時間にもらう干し肉の数で人探しを手伝うように交渉していたんですね」
「ふふ、なるほど」
カーラがくすくすと笑った。
「おっと、話していたら遅れてしまいますね。カーラさん、行きましょう」
「はい」
エドワードとチョビから少し距離が出来てしまったのに気づいたシルビアとカーラが歩を速めて追いかけた。
「本当にこっちからフィリーの匂いがしているのか?」
エドワードが信じられないと言った様子で目の前に居るチョビに問いかけた。
チョビはスンスンと動かす。
「うむ、そうだが。何か問題があるのか?」
「いや、ここは……橋」
エドワード達の目の前にはメーヌ川渡す一人幅のつり橋があった。
そのつり橋の先にはうっそうとした森……アルブゥの森が広がっている。
アルブゥの森は普通の森ではないエドワードがグレイソンの依頼によって以前から探索していた魔物の領域であった。
魔物の領域である。
魔物は人間にとって天敵とも害悪とも言われている存在であった。魔物と戦うのを専門とする冒険者が居る程で。
少なくとも、多少剣術を齧ったとは言え八歳の少年が踏み入って良い領域ではない。そもそも、ハンブルク王国では未成年の魔物の領域へ入ることを禁止されている。
シルビアが視線を橋の先……アルブゥの森へと向けて口を開く。
「この橋の先って……アルブゥの森しかないですよね?」
「そうだな。つまり、フィリーがこの橋を渡ったとしたら、向かう先はアルブゥの森」
「どうなされますか?」
「……とりあえず、カーラを連れて行くわけにはいかない」
エドワードが後ろにいたカーラへと視線を向けた。
「え、私も……お兄ちゃんを助ける」
「お前を連れて行ったら、俺達が怒られるからな。分かってくれ」
エドワードがカーラの頭の上にポンと乗せた。
カーラは少しの間の後、俯く。
「……はい」
「そうだな。カーラを届けるついでに、一度グレイソンへと報告しに行かないと」
エドワード達はグレイソンの元へ……報告とカーラを預けに行った。
結局、グレイソンにフィリーの捜索を依頼され、エドワードとシルビア、チョビの二人と一匹はアルブゥの森へ入ることになった。
アルブゥの森に入って二十分。
チョビ、エドワード、シルビアの順に隊列を組んで歩いていた。
暗い森を照らすためのランプを持ったエドワードがキョロキョロと辺りを見回す。
「本当にフィリーの匂いがしているのか? 結構奥にまで入ってきたが」
「ふむふむ。汗の匂いも交じっておるから走っておるのではなかろうか? フィリーの匂いと同じ道をあのー……干し肉にすると美味しい豚なんだったかな? あの白いヤツ」
「ホワイトヘッドボアか?」
「そうそう。その豚が追いかけているようだの」
「そうか……もう魔物と遭遇しているのか危ないな」
エドワードが渋い表情を浮かべた。振り返って後ろを歩いていたシルビアへと視線を向ける。
「少し急ぐが大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。ご主……エドワード」
「ふ。まだ呼び捨てには慣れないか?」
「……慣れないですね。やはりご主人様を呼び捨てにするなど」
「指揮は俺が取るにしても、命を預け合って危険な魔物の領域を冒険する冒険者があまり上下関係など作るべきではない。しかも、こんな少ないパーティーメンバーで」
「言いたいことは分かりますが」
「まぁ、慣れてくれよ。さて急ぐぞ」
エドワード達は歩を速めた。




