第18話 勘のようなモノ。
エドワードがルトック村に住み始めて四カ月が経った。
時刻は早朝で、朝の陽ざしが雲の隙間からのぞいていた。
そんな朝の時間、エドワードの家前では一定のリズムで薪を割る音が辺りに響く。
ガスンッ!
ガスンッ!
ガスンッ!
エドワードが丸太の上に置かれた薪に対して斧を振り下ろしていた。
三十分ほど薪を割っていたエドワードだが、薪の山が出来たところで持っていた斧を丸太にガスっと突き刺す。
「ふうー」
エドワードが斧を放した両手の汚れを落とすようにパンパンと叩いた。
ちょうど家の扉が開いてシルビアが姿を表す。薪の山を目にして、小さく笑う。
「いやはや、これまた大量ですね」
「こういうのは一度で一気にやった方が楽なんだよ。クハハ」
「ですか。朝食の準備が終わりましたよ?」
「そっかー。分かった。朝食。朝食。何かなぁ? 先日アルブゥの森での調査していた時に捕らえたラージ・ワイルドボアの焼肉かなぁ。あの豚の肉は最高に上手かったんだよなぁ。口の中でとろけるっていうか」
エドワードが上機嫌で朝食を想像しながら歩きだした。シルビアは小さく微笑む。
「野菜サンドですね」
「しかし……あの肉はうまい。酒が飲みたくなるんだよなぁ」
「あと野菜スープですね」
「……野菜多いって。野菜」
「せっかく村でお肉と物々交換してもらったんです。食べてください。長生きできませんよ?」
「物々交換すなし。肉のまま食べればしいじゃない」
「前にも言いましたでしょう。ご主人様には長生きしてもらわないと。更に言うなら、アルブゥの森の調査中は新鮮な野菜がなかなか取れないのです。家に帰った時くらい多く食べていただかないと」
「はぁー」
エドワードが大きなため息を漏らした。シルビアに続いて家の中に入っていった。
リビングにて、エドワードとシルビアは向き合って食事を始めた。
エドワードは野菜スープを一口すする。
「野菜多いなぁ」
「やはり新鮮な野菜は美味しいじゃないですか」
シルビアが野菜と焼かれたハムの挟まれたパンを小さく齧りながら答えた。
「そうかな? 変わらないと思うが……ん? ところでチョビは?」
「チョビは一瞬……目を離した隙に朝食を食べられてしましました。今はおそらく朝のお散歩中かと」
「そっか、まぁいいや」
「ふふ。ところで今日は何をいたしますか? 予定はなかったかと思いますが」
「今日か? 今日は……今から酒を飲んで、のんびりする」
「はい。最近、森の調査と魔法の研究をしていたので、のんびりするのは賛成ですが。お酒は夕方からですよ?」
「夕方? さすがに昼からだろう?」
「何がさすがになんですか? 駄目ですよ? 朝からお酒なんて」
「えー」
エドワードは不満げにシルビアに続き、家に入っていった。
ここはエドワードの家のリビング。
エドワードとシルビアが雑談しながら食事をしていた。
その時、バンっと家の扉が開いてカーラが飛び込んでくる。走って来たのかカーラは息を切らしている。
「はぁはぁ、エドワードさん! シルビア姉ちゃん!」
「ん? カーラか? 朝早くからどうした? 今日も遊びに来たのか?」
エドワードがカーラへと視線を向けた。
「えっと……はぁはぁ……あの……お兄ちゃん、こちらに来ていませんか?」
「? 来てないな?」
エドワードがシルビアへと視線を向けた。
シルビアは首を横に振る。
「こちらには来ておりませんよ。何かあったのですか?」
「えっと、朝起きたら、どこにもいないんです」
「そうですか。とりあえず、こちらに来ていないので……。他に行きそうなところは調べたんですか?」
「はい。村の中は一通り見て回りました」
「……そうなってくると村の外ですか? ちなみにカーラさんのご両親は何も知らないと言っていましたか? 一緒に探しているんですか?」
「え、あ、はい。お母さん達は知らないと。それに、夕飯には帰ってくるだろうと言っていて……」
「私でもそう考えると思います。見つけられていないだけで村の中にいるのではと……。ただ、カーラさんには何か心配に思う理由があるんですか?」
「えっと。えっと。変な……感じがするんです」
「変な感じがするんですか。それは兄妹でつながるモノがあるのでしょうか? それとも勘のようなモノでしょうか?」
シルビアが当惑して頬に手を当てて考える仕草を見せる。少しの間の後でエドワードへと視線を送る。
「ご主人様、どうなされますか?」
「んー朝に居なかっただけで、探しに行くのは過保護すぎる気がする。それにフィリーは俺が剣の稽古をつけて、それなりに筋力も剣術も鍛えられている。実際に集まるようになった村の子供達の中でも一番強くなっている。よっぽどのことがない限り大丈夫だろう……と普通は考える。ただ冒険を長くやっていた俺は予感的なヤツを何よりも信じている」
「では」
「行くか。人探しにはチョビがいる」
エドワードが野菜スープを一気飲みして立ち上がった。
シルビアは窓へと向かって窓を開け放つ。ポケットからベルを取り出してチリンチリンと音をたてて鳴らす。
カーラはパアァと顔を明るくする。
「あ、ありがとうございます」
「まぁ。とりあえず、これを食べておけ」
エドワードが机に置かれていた野菜サンドをカーラに手渡した。
「は、はい」
「じゃあ、俺は着替えてくるかな」
エドワードはローテーブルから離れて、寝室へと向かった。




