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第11話 剣の稽古。


「……すんすん」


 辺りには香ばしく焼かれた肉の良い匂いが微かに漂っていた。


 エドワードは金槌と釘などを片付けると……シルビアと共に歩きだす。


「家の方は何とかなったな」


「さすがはご主人様です。魔法を使うのかと思っていましたが、まさか数日でこんな立派な家を作ってしまうとは」


「ふふ、さすがだろう? 冒険者として駆け出しの時に大工のクエストが回ってきたことがあってな」


「なるほど、そうでしたか」


 エドワードとシルビアが家の正面側に回ると、豚丸まる一頭が焚火の上で香ばしい匂いを漂わせて焼かれていた。


 豚が焼かれている焚火の前に椅子三つとテーブル一つが並んでいた。エドワードはドシリと椅子に腰かける。


「よっと、スゲー量だな」


「この後、グレイソンさんが来られるんでしたよね? 多めに食事を準備しましたが」


 シルビアが焚火に薪をくべながら、エドワードの呟きに答えた。


「クハハ、アイツはちょくちょく来て酒と肉を飲み食いして帰っていくな。それから、軍略チェス」


「ふふ、そうですね」


「……ん? ちょうど来たか?」


「本当ですね。話し声が聞こえて……今回は奥さんも連れてきたのですかね?」


「あーそうかも。前に来た時に浮気を疑われたとか言っていたが……そういうの持ち込んで欲しくないんだけどなぁ。酒は楽しく飲まないと」


「ご主人様にはお酒を控えて欲しいのですが」


「クハハ、仕事の後に酒を飲まんでは生きていけんだろう」


「もう」


「しかし、問題は持ってきた酒が少なくなってきていることだろうか? あ、いっそのこと作ってみるか?」


「お酒を造るんですか?」


「燃えるような自家製の火酒を……そうと決まれば蒸留するための器具を作らんと」


「待ってください。次は大きなお風呂を作ってくださると」


「あぁーそうだった。迷うところだな」


「迷わないで欲しいですね」


 シルビアが苦笑しながら豚の丸焼きを回して上下をひっくり返した。豚の焼け具合を目にしたエドワードが顔を綻ばせる。


「あと少しってところか。飴色の皮がパリパリ、滴る肉汁、焼ける肉の香り……食べなくてもわかる美味しそうなヤツや。やっぱりシルビアは料理の才能があるな」


「ふふ、ありがとうございます」


 シルビアが笑みを浮かべて、エドワードから見て右側の椅子に腰かけた。エドワードは唇を指先でなぞる。


「コイツは赤ワインだな」


「もう。またお酒の話ですか?」


「クハハ」


 エドワードとシルビアとが談笑を続けていると、フィリーがルトック村からエドワード達が暮らし始めた住居を繋ぐ道から飛び出してきた。


 フィリーは途中で拾った木の枝を手に持って、構える。


「悪魔め!!」


「「?」」


 突然のことにエドワードとシルビアは首を傾げていた。


 少し遅れてチョビを抱えたカーラが不安げな表情を浮かべて姿を現す。


「お兄ちゃん……」


「なんか知らんが、俺に構えるとはいい度胸だ。クハハ」


 エドワードは敵意を向けられたにもかかわらず、笑みを浮かべていた。


 椅子から立ち上がって、焚火に使う薪を一本手に取った。戦う場を変えようと焚火から離れる。


 フィリーはエドワードに付いていき、木の棒を構え直した。


「クハハ、構えが固すぎ。そんなんじゃ、うまく剣は振れんぞ?」


「ぐっ」


 余裕そうな笑みを浮かべているエドワードに対して、フィリーは眉を顰めた。


 カーラがチョビを抱きしめながら、呟く。


「お兄ちゃん、大丈夫かな」


「ふん、大丈夫に決まっているだろう」


「ほんと?」


「エドワードが本気になったら、一瞬で頭と体が離れておるて」


「……それって大丈夫なの?」


「ふふ、ご主人様は子供には優しいですから」


 いつの間にかカーラの後ろに立っていたシルビアが答えた。突然に声を掛けられてカーラはビクンと体を震わせてシルビアへと視線を向ける。


「貴女達はルトック村の子供ですか?」


「は、はい。すみません。お兄ちゃんが変なことを言い出して」


「それはいいのですが。ルトック村からここまでの道にはまだ獣が居て危ないので……出来たら大人と来た方がいいですよ? ねぇ? グレイソンさん?」


「んお? 何をやっているんだ?」


 これもまた、いつの間にかやってきていたグレイソンがシルビアの隣に立って問いかけた。


 カーラは突然現れたグレイソンを目にして「そ、村長」とギョッとした表情を浮かべている。


 シルビアはグレイソンの問いに対して首を傾げる。


「さぁ、私もよく分かりませんが、子供達が遊びに来たみたいです。それでアレは……剣の稽古か何かでしょうか?」


「そうか。そうか。まぁ、一流の冒険者のエドワードさんに剣の稽古を見てもらえるなんて羨ましいな」


「そうでしょうね。歳を取られてもご主人様は剣の腕はこの王国では片手で数えられると言われているとか」


「なんと……そうなのか?」


「まぁ私は剣士ではないので剣術の強さほどがどのくらいか分かりませんが」


「なるほど。なるほど……うちの農民に毛が生えたレベルの兵士も面倒を見て欲しいところだが、エドワードさんにはアルブゥの森の探査があったな」


「そうですね。ただ、まだ家を建てるので忙しいですが」


「あぁ、そうそう……立派な家が建ったな。村長である私の家よりもかなり大きいんじゃないか?」


「……気のせいでは? 新しいから大きく見えるんですよ」


「そうかなぁ。二倍くらい大きい気がするんだが……エドワードさんは本当に有能だな。家まで建ててしまうとは」


「ふすん。そうでしょう。そうでしょう。ご主人様は凄いのです」


 シルビアが自慢げに鼻を鳴らして、胸を張った。


 そのシルビアの様子を目にしたグレイソンは笑い、小さく呟く。


「これは……我が息子の恋は儚く散ってしまうな」


「ん? 何か言いましたか?」


「いや、なんでもないよ。それよりも……フィリーには剣の才能があるのかな」


 グレイソンが首を横に振って、エドワードとフィリーの方へと視線を向けた。


「私にはわかりません。後でご主人様に聞いてみましょう……えっと、たぶん長くなりそうなので椅子を持ってきて観戦しましょうか」


「だいぶ長くなりそうか? 先ほどから、豚のいい香りが……」


「ふふ、あの豚の丸焼きはあれが終わってからですね」


「そうだな……ある意味この匂いは拷問に近いが」


「そうだ。私が軍略チェスならお相手をしますよ?」


「ほう? シルビアも軍略チェスを?」


「ええ、御爺様に習っていましたし。ご主人様と指すことがありましたから」


「それは楽しみだ……カーラはどうする?」


 グレイソンがカーラの頭にポンと手を乗せて問いかけた。カーラは視線を左右に漂わせて、考えを巡らせる。


「え、あ」


「ふふ、とりあえず、ずっと立っているのもなんですし。座りますか……王都のお菓子や果実水とかもありますよ」


「お菓子?」


「はい。贈り物が多くありまして、私もご主人様もそこまで多く食べることはないのでいつも余ってしますのよね」


 シルビアがカーラに向けてニコリと笑みを浮かべた。ただ、カーラに抱きしめられていたチョビは不満げな表情で声を漏らす。


「吾輩は肉が食べたいぞ。腹が減った」


「我慢ですよ。チョビ」


「むうう」


 チョビが不満げな表情を変えず、それ以上は何も言わずにカーラに抱っこされていた。


 シルビア、グレイソン、カーラの三人は椅子とテーブルを持ち出した。そして、エドワードとフィリーとの戦いを観戦し始めた。




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