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第10話 フィリーとカーラ。

 エドワードがルトック村に住み始めて二十日が経った。


 ここはルトック村から東側へと繋ぐ道の途中。


 その道は真新しい馬車の轍と馬の足跡が残っているだけで雑草がボーボーと生えて荒れていた。


 草を踏みしめながら歩く、二人の十歳前後の少年少女の姿があった。


 少年……少年が後ろを振り向く。


「こっち。こっち」


「うっと……お兄ちゃん、お母さんが近づいちゃ駄目だって」


 少し遅れていた少女が舗装されていない道に転びそうになりながら口を開く。


 少年は茶髪を短く切り揃え、我の強そうな顔立ちの少年であった。


 少女は小柄で長く伸ばした茶髪で目元を隠れている、気弱そうな雰囲気のある少女であった。


 気弱そうな少女が静止を口にした。ただ、短髪の少年はムッとした表情を浮かべる。


「なら、カーラは来なくていいぞ」


「えーけどけどお兄ちゃん一人じゃ危ないよ」


「俺一人でも行くんだ。村を根城としようとしている危険な悪魔をやっつけて村の平和を守るんだ」


「私、その人達を見たけど、普通のお爺ちゃんとお姉ちゃんだったよ?」


「そんなの……アレだ。人の皮をかぶっているに決まっているだろう。だから正体がバレないように村の真ん中から離れた場所に家を構えたんだよ」


「ひ、人の皮……それなら、尚更やめた方が。私達だけじゃ無理だよ」


 気弱そうな少女……カーラが短髪の少年の服をキュッと掴んだ。ただ、短髪の少年はカーラの静止を振り払う。


「ルトック村の男がそんなことで、逃げたりしないんだ」


「むー」


 カーラが不満げな表情を浮かべていた。


 その時、黄緑色の綺麗な毛並みの猫……チョビが木から飛び降りて、短髪の少年とカーラの前に姿を現した。


 チョビを目にするやカーラは顔を綻ばせる。


「わぁー可愛い。猫ちゃんおいで」


「む? 吾輩の縄張りに入りおって……お前らはエドワードの客人かの?」


 手招きされたチョビがトトッとカーラの元に近付いていった。


 チョビの言葉を耳にした短髪の少年とカーラは目を見開き驚きの表情を浮かべる。


「え、今しゃべったの? 猫ちゃん」


「ば、化け猫だ! この先に居るのはやはり悪魔で……コイツは悪魔の化身か?」


 短髪の少年の化け猫発言にチョビはムッとした表情を浮かべる。


「む、ガキ共が化け猫とは失礼な。吾輩は、世界でも尊き存在である十二種の聖獣が一種……アントリスキャットなるぞ。ふしゅー」


「ふふ。怒っているのも可愛い。名前はアントリス? アンちゃんって呼んでもいい?」


 カーラがチョビの前でしゃがみ込むと、チョビの顔を覗き込んだ。


「アントリスは種名じゃ。名はチョビと言う」


「チョビって言うの?」


「気高く、素晴らしい名前であろう?」


「うん。可愛い。えっと、チョビちゃんって呼んでも良いかな?」


「うむ、仕方ないの。敬意を持って呼ぶが良い」


「分かった。あ、私はカーラ。で、こっちのお兄ちゃんがフィリー。よろしくね」


 カーラがチョビの頭を撫でた。チョビはゴロゴロと喉を鳴らして、目を細める。撫でられるのはまんざらではない様子である。


「……はっ! そんなことをしている場合じゃねぇ。俺はこの先を住処にした悪魔をやっつけに行くんだ!」


 チョビの登場で目的を忘れていた短髪の少年……フィリーがハッと我に返って声を上げた。そして、一人、先に歩きだした。


「ま、待ってよ」


「む? 悪魔?」


 カーラとチョビがフィリーを小走りで追いかけた。カーラが隣を歩くチョビへと視線を向けて問いかける。


「チョビちゃんってここで暮らしているの?」


「む? 吾輩はこの先で住んでいるぞ?」


「じゃあ、じゃあ、もしかして最近移住してきた黒髪のお爺ちゃんとメイドのお姉さんと一緒に?」


「うむ、吾輩がエドワードとシルビアの世話を見てやっているのだ。アイツ等は吾輩の家来みたいなものだな」


「え? そうなの? チョビちゃんって偉いの?」


「先ほど言っただろう。吾輩は聖獣と呼ばれる尊き存在であるのだ」


「じゃあ、お前を人質にしたら、あの悪魔は村を追いだすことが出来るのか」


 フィリーがチョビの首の辺りをムズっと持ち上げる。そして、自分の目の前にチョビを持ってくると睨みつける。


「む? 悪魔となんのことか?」


「あの黒髪の爺のことだ」


「悪魔とはエドワードのことか? ふむふむ、確かにアイツは悪魔かも知れんか……」


「やっぱり!」


 フィリーはチョビをポイっと投げた。投げられたチョビをカーラがキャッチする。


「む、吾輩を投げるとは何事か、ガキ」


「チョビちゃん、大丈夫? お兄ちゃん!」


 チョビとカーラが苦情を口にするも、フィリーには届かず急ぎ歩きだした。




 トントントン。


 トントントン。


 エドワードはもくもくと金槌を手に持ち、板に釘を打ち込んでいた。


 エドワードの前……以前まで草木で覆われていた土地が平たく慣らされて、十五平方メートルはありそうな木造平屋の建物が建っていた。


 エドワードは額の汗を袖で拭うと、息を吐く。


「ふうーこんなもんかな? 後は扉と……屋根をもう少し補強した方がいいか? あ、いたいた」


 腰をトントンと叩いていると、シルビアが近づいてきた。


「ご主人様……お食事の準備が整いましたので、休憩にしませんか」


「おーそうだな」





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