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第57話 占い師クマちゃんのクマちゃん占い

 頭にキュッと締め付けを感じたクマちゃんは、ハッとした。

 これぞまさに……と。



 クマちゃんの『休憩のお時間ですよ』の放送を聞き、湖へ戻ってきた冒険者達。

 

「さっき『クマちゃん』て聞こえたよな?」


「さすがだな」

「まさか人の言葉まで話せるとは……」

「まぁクマちゃんだから……」

「あぁ……」


「それより、お前らモンスターどこまで追いかけた?」

「あー。ニャーが聞こえないくらい?」

「僕も」

「私たちもかなぁ。でも戦いやすくなったよね。回復薬で強化出来るし、囲まれたりしないし」


「わかる。後方が安全だからすごい楽」

「ルークさん達とかクライヴさんとか、強い人達には関係なさそうだけどねー」

「他の強い人たちって今どこにいるの?」

「あー最近みないよね」


「お前らが会議でマスターの話聞いてないからだろ」

「あんただっていつも目開けたまま寝てるでしょ」

「閉じて寝るよりいいだろ」

「いや、お前口も開いてっから」


 クマちゃんの太陽は皆の戦闘を無事助けたが、敵が遠くへ逃げ過ぎる、という別の問題が起こってしまっていた。


 極大な森の奥にどれだけの大型モンスターが潜んでいるのか。

 街から離れた場所で増えているモンスターがどうなっているのか、放っておいたらどうなるのか、それは誰にもわからない。

 とにかく追いかけて倒す、という原始的な方法のままで本当にいいのだろうか。



 皆が湖に戻ってきてご満悦なクマちゃんは、湖畔の別荘で休憩中だった。

 ご機嫌なもこもこはルークに撫でられ興奮し、鼻をふんふんしながら彼の長い指をくわえ、甘えている。

 

「あのクマちゃんの太陽すげー遠くまで効果あるけど、奥に逃げたモンスターって倒さなかったらどうなんだろ」


 リオは、可愛いクマちゃんがもこもこの両手を使ってルークの指を抑え込み、くわえているのをぼーっと眺め、言う。


「うーん。良くはないだろうね。――大きな攻撃魔法をたくさん使ってもいいのなら、僕が奥までいって少し減らしてくるけれど、マスターはどう思う?」


 一人掛けのソファにゆったりと座り、美しく透き通った声で物騒なことを言う、南国の青い鳥のような男ウィルがマスターに尋ねる。


「……どこか一か所、場所を決めてやるならそれでもいいかもしれんが、敵の分布がどうなってるかもわからん。一度偵察に行く必要がある。――森を護る俺たちが必要以上に森を破壊するわけにはいかねぇだろ」


 ソファで書類に目を通していたマスターはウィルに視線をやると、眉間に皺を寄せ話し出した。

 森がモンスターを生んでいるわけでないのなら、森ごと破壊して解決するとも思えない。


 どこか決めた場所で、ならまだしも、あちこちで特大の攻撃魔法をぶっぱなすのは問題しかない。

 なぜ普段は比較的穏やかなのに、思いつくことは過激なのか。

 ――この森の側に街が出来た理由は、ここに出るモンスターと関係するが、森以外、世界中にモンスターは存在する。


 この湖は例外だが、樹のない場所にもモンスターはいるのだから、あの過激な男に森の破壊を許可するとしたらそれは、森、又は樹や他の植物、がモンスター発生の原因であると特定されたときだけだろう。



 皆が何か真面目に話している気がするが、クマちゃんは思い出した。

 自分のカードが欲しいのだった。

 ただのカードではなく、占いもできるやつだ。

 名残惜しいが、ルークの指から口を離し、お絵描きセットの袋から絵の具を探そう。 魔石は先ほどルークから貰ったやつを使えばいいだろう。


 クマちゃんは絵の具を取り出し、紙を探そうとつぶらな瞳で室内を見る。

 マスターの木の机の上にたくさんあるようだ。

 

  

「あー。紙が欲しいんだな。ほら、この白いやつなら持って行っていいぞ」


 書類を置いている木の机の端に、もこもこの可愛いお手々がスッと乗せられたのを見て、危険を察知したマスターが素早くクマちゃんに紙を渡す。

 

「何、クマちゃんまたなんか描くの?」


 胡坐をかいて床に座り、また、ぼーっとクマちゃんを見ていたリオが、もこもこの怪しい動きを見て言う。

 彼は意外と真面目だが、真面目な話は得意ではない。 


「お絵描きならスケッチブックがあるのだし、何か作るのではない?」


 森を傷つけずに使えるでかい攻撃魔法について考えていたウィルが、お絵描きセットの袋の前に置かれた、クマちゃんのスケッチブックに気付き、答えた。



 マスターに紙をたくさん貰い、床に並べ、その上に魔石を置いて絵の具を少しずつしぼりだす。「直で? 直でいっちゃうの?」また風のささやきがクマちゃんの邪魔をする。


 全色少しずつ魔石や紙の上に掛けたら、ルークがリュックから出してくれた杖を受け取り、もやもやとカードを思い浮かべながら杖を振る。

 占いも出来るカードとはどんなカードなのか。

 一応想像して杖を振ったつもりだったが、どんな物が出来たのか、クマちゃんにもよくわからなかった。


 

「……普通のカードっぽくね?裏の模様がクマちゃんなのがクマちゃんのカードっぽいけど」


 光と共に素材が消え、残ったのは床に置かれたカードの束。

 重ねて置かれているため裏側一枚しか見えないが、緑色で塗られたカードの真ん中に、真っ白な可愛いクマちゃんの顔が描かれている以外は、よく街の人間が遊ぶカードと同じに見える。



 占いとはなんだ。

 どうすれば占えるのか。

 クマちゃんは考えた。

 そして、なんとなく思い出す。


 ――裏返して、誰かに引いてもらえばいいのでは無いだろうか。

 なんとなくそんな気がする。


 まずは準備が必要だ。

 ルークを見つめ、占いをする人のような格好にして欲しいと念じた。

 

 ルークがクマちゃんの頭巾を一度ほどき、ヴェールのようにふわりともこもこ頭に広げる。

 マスターが座っているソファの下に置かれた〈クマちゃんお世話セット〉から細いリボンを取り出す。

 そして、ふわふわな布の上からクマちゃんの頭を、鉢巻のようにキュッとリボンで結んだ。


「え。なにその恰好。今なんで見つめあってたの。まじで意味わかんないんだけど」


 胡散臭い占い師風クマちゃんを見てリオが言うが、もこもこはその恰好に満足したらしく、深く頷いている。


「なんだかどこかの占い師のような恰好だね。もしかしてクマちゃんが何か占ってくれるのかい?」


 ウィルは怪しい恰好のもこもこに『胡散臭い』とは言わなかった。

 占い師クマちゃんを楽しそうに見つめ、尋ねる。



 完璧な準備に満足したクマちゃんは、早速占ってみることにした。

 近くにいるリオからでいいだろう。

 

 もこもこの手で床にカードを並べていく。

 何枚並べればいいのかわからない。

 これくらいでいいだろうか。

 リオを見つめ、肉球を上に向けたまま手を差し出す。


 どうぞ、という意味だ。



「何その肉球。かわいいんだけど。まさか俺に引けってこと? ……選択肢少なくね? カード三枚しか無いんだけど」


 目の前に並べられた三枚のカードと、どうぞと差し出されたピンク色の肉球。

 肉球が可愛くて断れないリオは真ん中のカードを引き、裏返す。


「俺占いとかやったことねーんだけど。これ自分で裏返していいの? ……牛乳?」


 裏返したカードには、光る瓶に入った牛乳の絵が描かれている。


 それを確認した占い師クマちゃんがルークを見つめ手を出すと、彼はリュックからそれを取り出し、ピンク色の肉球の上に置いた。

 頷いたクマちゃんは今受け取ったばかりのそれを、スッとリオに差し出す。


 どうぞ、という意味だ。


「あ、くれんの? ありがとう。…………これ占いじゃなくね?」


 クマちゃんから牛乳を貰い、何かに疑問を感じたリオだが、目の前のもこもこの手が、再びピンク色の肉球を上に向け、スッと差し出される。


 どうぞ、という意味だ。


「何その肉球。まさかまた俺が引くの? 二枚しかねーんだけど」


 二枚しかないカードを仕方なく引くリオ。

 占いをしたことがない彼には、これが正しいのか、違うのかがわからない。

 占い師クマちゃんの言うことを信じるしかない。

 裏返すと、青とピンクの縞々の実が描かれている。

 先程と同じように、ルークから占い師クマちゃん、そこからリオへと木の実が渡される。


 そしてまた目の前にピンク色の肉球。


「……ありがとう。いやもう全部じゃん。……これ裏返す必要なくね?」


 占い師クマちゃんの並べたカードをすべて引くことになったリオ。

 クマちゃんに運命を決められてしまったリオがカードを裏返す。

 そこには湖から裸で水を汲むリオが描かれていた。


「…………風呂入れってこと?」


 裸で水を汲む理由が他に思いつかないリオは、そのまま占い師クマちゃんに尋ねた。

 つぶらな瞳の占い師クマちゃんは、何も考えてなさそうな顔で頷いている。

 リオは「えぇ……」と思いつつ、牛乳と木の実を持ったまま本日三回目の露天風呂に入るため、ひとり家を出て行った。

 

「なんだか楽しそうだね。僕も占ってもらおうかな」

 

 子供の遊びのような、くじ引きのようなクマちゃんの占いを見ていたウィルが、装飾品の音と共に立ち上がる。

 シャラ、と占い師もこもこの前へ座る。


 そしてまた先程と同じように、占い師クマちゃんがもこもこの手で三枚のカードを並べ――可愛い肉球を見せるように、ウィルへ差し出した。


「うーん。これは……なんだろう。洞窟のように見えるのだけれど」


 よくわからない何かの入り口のような絵は、洞窟と言われれば洞窟に見える。

 占い師クマちゃんにも何の絵かわからないらしく、可愛らしい頭を横に倒していた。

 

◇ 

 

 一人外に出てきたリオは、輝く瓶のクマちゃん牛乳と怪しい木の実をもって露天風呂へ向かっていた。


「あ、リオさんそれもしかして回復薬ですか? 俺朝買えなかったんで、使わないなら売ってほしいんですけど」


 花畑に敷かれた敷物の上に座っていた冒険者が、リオに声を掛ける。


「ん? もしかして怪我してんの?」


 声を掛けてきた冒険者に目をやったリオが、心配して尋ねる。


「まぁ、そんなひどい怪我じゃないんですけど、どうせならクマちゃんの作ったやつ飲んでみたいんで」


 それを聞いたリオは、今すぐ飲んで瓶を返すなら金は要らないと言った。

 怪我をしたらしい冒険者に牛乳を飲ませると、瓶だけ回収し、ふたたび風呂へと歩き出した。



 占い師クマちゃんとウィルは最初のカードの意味が解らず、ルークとマスターに助けを求めた。

 マスターがカードの絵を見て、顎髭をさわり何かを考えるように言う。 


「洞窟……。洞窟か。……近くにそんなもんあったか?」 


 遺跡ならいくつか思い浮かぶ。

 が、はっきりと洞窟だと言えるような、動物が少し掘った穴とは違う、奥まで進める洞窟となると思い浮かばなかった。


「……探すか」


 カードを見たルークもその場所に見覚えは無い。

 いつものように抑揚に乏しい色気のある声は、まるで簡単なことのようにそう言った。

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