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クマちゃんと森の街の冒険者とものづくり ~ほんとは猫なんじゃないの?~  作者: 猫野コロ


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第485話 ヴェールを照らす光。リオの言葉に応えるクマちゃん。かの地では。

 クマちゃんは湿ったお鼻にキュッ! と力を入れると子猫っぽい腕に精一杯の力を入れた。



 地面には色とりどりの宝石のような氷砂糖が、無造作に転がっている。

 朝露で煌めく森を、大人達がゆっくりと歩く。

 まるで、愛らしい子猫と共にする、早朝の散歩のように。


 穏やかに流れる時間。

 マスターは片手に手帳、片腕にクマちゃんという、いかにも癒しが欲しい仕事人間のような格好で、最愛のもこもこと戯れていた。


「クマちゃ……」


 まちゅた……。と、甘える子猫のような声がする。

 クマちゃんは小さな猫手でボロボロの手帳を引っかこうとしている。

 が、短い腕では届かなかった。


「ん? お前も見たいのか? ……そんなに顔を近付けたら何も見えねぇだろ」


 マスターの優しい苦笑が、ふっと空気にとける。

 クマちゃんは手帳の綴じ目に湿った鼻を突っ込んでふんふんしている。


「マスター手帳読むならクマちゃんこっち渡して」


 リオは怪しい手帳ではなく手帳に挟まっているクマちゃんを求めた。

 増えた謎と運が悪そうな国王のことは考えないようにしていた。

 寝不足な体に必要なのは癒しだけだ。


 目的地である真っ白なヴェールまであとわずか。といったところで、妖精で両手が塞がった精鋭が「あ、マスターあれ凄くないっすか?」と、空を見上げる。


 呼ばれたマスターが「ん?」と精鋭の視線をたどる。

 他の大人達も足を止めぬまま、何気なく空を見た。


 紺色を薄紫で薄めたような空。

 そこにはなんと、神々しい光の線で、驚くべき文字が綴られていた。


〝超ビッグベビーサークル。血統書付き赤ちゃん用〟


 王冠の絵と矢印が、〝血統書付き赤ちゃん〟と〝王冠〟とのただならぬ関係を匂わせている。


 ――?!!?!


 良識のある大人達の心臓が、激しく跳ねた。

「無い無いナイない」「おいまさか……」「完全にイカれてやがる」


 リオの頭に、まだ暗い時間に聞いた我が子の言葉がよみがえる。


 ――クマちゃんが、拾って育てまちゅ……――。


 そして思い出す。

 一点を見つめ続ける猫ちゃんのようなクマちゃんに、『国王を拾って育ててはいけない』とはっきり告げなかったことを。


 リオは血統書付き超ビッグベビーを想像しながら「育ち切ってる」と正直な感想を漏らすと、何も見なかったことにして、もっちり滑らかな手触りのヴェールに魔力を流した。


『凄い医務室』はどうなったのか、とクマちゃんに質問する者は現れなかった。



「遅くなってすまんな。変わったことはなかったか」


 と、変わったことしか起きない場所で、マスターは尋ねた。

 悪役顔の商業ギルドマスターリカルドは、敵船に囲まれた悪役のごとき表情で「そう……ですね。ええ、特、には」と、奥歯に物が挟まったような、前歯に松の葉が刺さったような答えを返した。


 超ビッグベビーサークルの中央付近では、見つかると確実に没収され、騎士に連行されるであろう立体パズルを、精鋭達が仕事よりも真剣な顔で組み立てていた。


 パチ――と微かな音がなる。


 精鋭達はエルフ族のように形が整った指を格好良さげに掲げ、妙に良い声で言った。

「はっ、俺達の仕事に間違いはないぜ」

「完璧すぎるな」

「見よ、クマちゃんの野菜ジュースの力を」


 どうやら、〈野菜と果物のジュース・改〉まで使って自分達の能力値を引き上げ、パズルを完成させたらしい。


 リオは遊びに全力を尽くしすぎな精鋭達へ、バナナの黒い部分を見るような眼差しを向けた。

 が、すぐにパズルに視線を戻す。


「うわ、マジで本物の城じゃん。すげぇっつーか凄すぎてヤバい。ヤバいからどっかやった方がいいよね」



 ――どっか、やった方が、いいよね――という言葉をきちんと聞いていたクマちゃんはハッとした。

 そして現在クマちゃんを抱えているルークに、つぶらな瞳で思いを伝える。


 大好きな彼に小さな鞄を出してもらったクマちゃんは、可愛い猫手でごそそ……! と中身を漁った。

 目的のものはすぐに見つかった。

 どこかの変態が持っていた『玉のようなもの』に似ているそれは、癒しの力でぼんやりと輝いている。


 ふんふんふん……ふんふんふんふん……。


 先の丸い両手と湿ったお鼻でしっかりと玉の丸さを確かめたクマちゃんのお目目が、キリッと吊り上がる。

 そうして、気合を入れたクマちゃんは、可愛い猫手を前に突き出し、「クマちゃ……!」という掛け声と共に『玉のようなもの・改』を投擲(とうてき)した。


 どこにも届きそうにない投球フォームで手放された『玉のようなもの・改』が、一瞬闇色の球体に飲み込まれ、クマちゃんの視線の先にシュッ!! と勢いよく投げ出される。


 真っ白なベビーサークルにまばゆい光が満ちるのと、リオが「なんか変な玉飛んで来たんだけど」と言うのはほぼ同時であった。



 その頃、王都では何気なく空を見上げてしまった者達が、似たような表情で、同じ言葉を呟いていた。


「なんだあのクソド変態は……」

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― 新着の感想 ―
やっと読めたー。謎の忙しさの元凶を八つ裂きにしようと思ってた心が、クマちゃんの可愛さと癒しの力で、始末するだけでいいかと思えるほどに優しくなれました。
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