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第368話 クライヴちゃんとクマちゃん。『何やってんのこの人』

 現在クマちゃんはクライヴちゃんと――。



 変な服を着ているということは、わざわざどこかで着替えたということだ。

 が、女性冒険者の服装に口出しをして、良いことなどひとつもない。


 それよりも――。リオは伝え忘れていたアレについて話すことにした。


「その子達に『クマちゃんアイス』買ってあげて欲しいんだけど」


「クマちゃんアイス……?! それは、この子達を手の平にのせて『ほーらアイチュでちゅよー』と言いながら一口ずつ食べさせてあげる感じのやつですか?」


 女性冒険者は興奮し、混乱している。


「……まぁ大体そんな感じ。ちょっと待ってて。『クマウニーちゃん』から持ち運び用のカタログ貰ってくる」


 リオは様子のおかしい女性冒険者から目を逸らしたまま、出来立ての『海色ラムネストリート』を歩き、人魚の宮殿風アイスクリームハウスへと戻った。


 背後から聞こえる雄叫び「ク、クマウニーちゃん?! わ、私も会いたいんですけどー!!」を聞かなかったことにして。


 つられたクマちゃんの「クマちゃーん」という歌声に「クマちゃん可愛いねー」と返しながら。



「これ。このページのアイス。ここにある『肉球ボタン』押せば買えるから」


 リオはそう言いながら、ポチ――と購入ボタンを押した。

「あぁぁぁ私も押したいんですけどぉ」という苦情は無視する。あとで好きなだけできるだろう。


 作業を進めつつ待っていると、可愛らしい配達員が――宅配ちゃんですちゃーん――とやってくる。

 感動のあまり口を閉じた女性冒険者を放置し、紙袋をひとつ渡す。無言の彼女にサインの仕方を教えると、何故か涙をこぼした。「幸せなサインって存在するんですね……」と。


 いったい彼女の過去に何があるのか。リオの勘は言っていた。くだらぬことに違いないと。

 彼の勘は良く当たるのだ。


 もう一つは自分達の分である。可愛いクマちゃんを抱えたまま、巨大な切り株テーブルへ。

「あれ、何か入ってる……」「クマちゃ」


「冷たっ」


 リオは紙袋の中から一つずつ、取り出したものを並べていった。

 最初は小さなアイス。次に氷の貝殻。氷のサンゴ。丸いのは氷の真珠だろうか。


「クマちゃ……」


 切り株テーブルの上で冷たい貝殻にふれたクマちゃんは、お手々の先をピピピピピッと振りながらハッとした。


「クマちゃ……」

『クライヴちゃ……』と。


 丸い真珠を転がしながら、クライヴちゃんと遊んだあの日に思いを馳せる。


 あれは、はじめて一緒におままごとをした日のこと。

 クライヴちゃんはクマちゃんのために、氷でパンを作ってくれたのだ。

 とってもきれいな一輪のバラも。花びらに蝶が止まっている素敵な芸術品には、クマちゃんへの温かい気持ちがたくちゃん詰まっていた。

   

 目の前の氷からも、クライヴちゃんの温もりが伝わってくる。

 クマちゃんのために、丹精込めて作ってくれたのだろう。


 もこもこのお胸がいっぱいになったクマちゃんは、凄くクライヴに会いたくなり、テーブルの上を駆け出した。


「クマちゃ……!」と。


「あぶなっ……」


 アイスのフタをあけていたリオが顔を上げる。

 しかし彼がヨチヨチを止める前に、冷たい空気が彼らを包み込んだ。


「大丈夫か――」


 テーブルの端をヨチヨチしていたもこもこを抱き上げたのは、たったいま、クマちゃんが会いたいと思っていたクライヴだった。



 何やってんのこの人。という気持ちは、心の扉にそっとしまった。

 リオの目の前で、一人と一匹が温かな気持ちを分け合っている。


「白き天使――」


「クマちゃ……」

『クライヴちゃ……』  


 震えながらもこもこを抱える男。感動と振動でガクガクする一匹。

 冷たく甘い再会を果たした彼らだったが、残念ながら時間のようだ。

 

「いつか、お前と――」

「クマちゃ……」『いちゅかちゃ……』


 恐ろしい表情で一言だけ呟き、死神(クライヴ)は今度こそ、仕事へ向かった。


「クマちゃんアイスたべよー。あ、お兄さんこれとけないようにしたいんだけど」

「クマちゃ……」『アイチュちゃ……』

 

 リオはアンニュイなもこもこを抱え、アイスを食べさせた。

 高位で高貴なお兄さんへ氷細工を渡しつつ。



「そろそろ二軒目建てる? それとも店?」


「クマちゃ……」

『バイトちゃ、お家ちゃ……』


 一人と一匹がカタログを見ながら話し合う。

 もこもこは告げた。

 

 バイトちゃんのお家が必要ちゃんでちゅね……と。


「いやバイトに家はいらないでしょ」


 リオは目を糸のように細めた。

 バイトを始めて三十分足らずで家を買ってもらうなど甘い、甘すぎると。

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