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クマちゃんと森の街の冒険者とものづくり ~ほんとは猫なんじゃないの?~  作者: 猫野コロ


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第237話 朝の砂浜。もこもこの愛と癒し。美しい時間。

 お風呂に入りサラフワで美しいクマちゃんになったクマちゃんは、現在仲良しなみんなと仲良く砂浜へ来ている。



 南国風の中庭、真っ白なビーチ。

 ザザ――と打ち寄せる波の音。


 新米ママリオちゃんはルークの手で美しく整えられたサラフワでもこもこな我が子を、切なげに見つめていた。


「俺のクマちゃん……」


 本当は自分でクマちゃんを抱っこしたい。

 だが最高のもこもこサラフワ術を習得出来なかった己に『俺のクマちゃん返して』と魔王に物申す資格はあるのか。


 リオの葛藤『クマちゃん抱っこしたいけど……』に気付かない仲間達。


「可愛らしいクマちゃんは砂浜で何をするつもりなのかな」


 ウィルはルークが抱えるもこもこの頬をそっと撫でた。

 クマちゃんは濡れたお鼻を彼の指先にくっつけ「クマちゃ……」とお返しをしてくれた。

 とても愛らしい。


 クマちゃんは『可愛らしいクマちゃん』と涼やかな声をかけたウィルの優しい指に夢中になっている。

『砂浜で何を――』はもこもこした頭から抜けてしまったようだ。


 本日ルークがクマちゃんに着せたお洋服は、スイカの帽子とスイカのスカーフだった。

 緑と黒の縞柄で丸い頭を可愛らしく飾り、赤地に種柄の布が首元をふんわり彩っている。

 愛らし過ぎてなんでも似合ってしまう副村長にぴったりな装いだ。


「白いのは、毎日輝いているな――」


 もこもこスポンサーのクライヴが、魔王の腕のなかのスイカちゃんを視線で射貫く。


 愛らし過ぎる。

 深い色合いの帽子のせいか、白いもこもこの白い部分がますます際立って見える。

 美麗な被毛のせいで輝いて見えるのか、それとも内面の美しさが――。


 ミステリーが詰まったもこもこのとりこなクライヴ。


 

 もこもこが輝いて見えるのは彼の気のせいでは無かった。

 今日のクマちゃんは、物理的に輝いていた。


 癒しの力が溢れる地で過ごし、癒しの砂で遊び、癒しの湯で洗われ、癒しのベッドで眠り、癒しの菓子を食し、癒しの湯で洗われ、仲良しな仲間達と大好きな彼の愛情をたっぷりと注がれたクマちゃんは、愛と癒しの力で白い被毛が輝いているのだ。


「クマちゃ……」

『しあわせちゃ……』


 クマちゃんは毎日とても幸せです……という意味のようだ。

 もこもこは両手の肉球を胸元でそっと交差させた。

 幸せな気持ちを嚙みしめるように、小さな黒い湿った鼻でキュッと鳴く。



「クマちゃん……、俺も……!」


 新米ママリオちゃんは愛らしい我が子の言葉に感動し、片手で口を押えた。

 クマちゃんは今日も最高に可愛い。

 可愛すぎてあやうく泣いてしまう所だった。


 もこもこと見つめあい、頷きあう。


 リオの心の中で水入り花瓶を倒したりキノコ爆弾で壁を壊したりしていた『ときどき問題を起こすクマちゃん』は『いつも可愛いクマちゃん』で『クマちゃ……』と隠された。


 純粋なもこもこの愛と癒しの波動にやられた彼の心は、癒しの毛でもこもこになった。


「そうか……」


 マスターは滲んだ涙をごまかすように俯き、こめかみを揉んだ。


 赤ちゃんクマちゃんが独りぼっちで暮らしていた話を思い出してしまったらしい。


 因みにクマちゃんは目覚めて数分以内に家から出て犬に襲われルークに助けられたため、孤独でキュオーと鳴いたことはない。



 マスターが悲しんでいる――。

 周りの影響を受けやすい赤ちゃんクマちゃんは


「クマちゃ、クマちゃ……」


ハッと肉球で震える口元を押さえた。


『まちゅた、お仕事ちゃ……』


 まちゅたーたちはクマちゃんたちを置いてお仕事へ行ってしまうのですか……、という意味のようだ。


 赤ちゃんなクマちゃんの心が、突然襲ってきた寂しさと空腹感で乱れる。


 キュオ……、キュオ……――。

 二分ほど前までは毎日幸せだったもこもこの湿った鼻から、悲しみと空腹を訴える鳴き声が響いた。



「クマちゃん……俺仕事いかないから大丈夫だって!」


 人に聞かれると大丈夫ではない大声が『おれ しごと いかないから――!』と大空へ羽ばたく。


 叫ばずとも彼はもこもこの『クマちゃんたち』に含まれている。


「…………」


 片手を腰の横に当てたマスターは、目元を隠し項垂れた。

『何故己はいま、この時間帯にもこもこを泣かせたのか』

 離婚した仕事との再婚を考えていた彼が、より重いテーマと向き合う。


「そうだね。もしかすると、僕たちも行かなくても良くなるかもしれないね」


『もこもこを悲しませた彼が責任を――』マスターに追い打ちをかける南国の鳥。


「……今日は我々がいなくてもどうにかなるだろう」


『奴らならば――』酒場の冒険者の能力を過信するクライヴ。



 もこもこの状態に気付いた無表情な魔王が、無駄に色気のある低い声で告げる。


「――メシだな」


 ルークにあやされ元気になったクマちゃんは


「クマちゃ……」

『メチゃ……』


子猫のような声で大好きな彼の真似をした。


「クマちゃんまさか朝ごはん釣って食おうとか考えてないよね」


『砂浜』『朝飯』『クマ』『まさか――』とクマ差別をしてもこもこを


「クマちゃ……クマちゃ……」

『クマちゃ……釣りちゃ……』


まさかクマちゃんは朝ごはんを釣ってはいけないのですか……? と泣かせたリオは魔王様な男に頭をコツンとされ、寂しげな表情で釣り竿を用意する物静かな男になった。

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