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第220話 クマちゃんの砂。どうこうされたアレ。

『クマちゃ……!』――こうすれば……! ――と砂を投げたクマちゃん。

 前に飛ばない砂。


〈クマちゃんの砂〉落下を察知し、魔法を使う魔王。

 砂浜との融合を免れた〈クマちゃんの砂〉は現在、空中待機中である。



「クマちゃ……!」


 クマちゃんはハッとして叫んだ。肉球に砂が挟まっている。

 挟まった砂を取りたいクマちゃんは目的を忘れ、猫がお手々を振るときのようにピピピピ、とお手々を振った。


 密林に隠れもこもこを見守っていた死神が、ガーデンデザイナーの愛らしい仕草に動揺する。

「――にく……!」


 放たれた冷気と肉球から飛んだ砂は奇跡のように一体となり、己の手元に夢中なリオの元へ運ばれた。


 目に入るクマ砂。

「いっ! ちょっとクマちゃん砂飛ばしたでしょ!」

 叫ぶ男。


 そのとき、クマちゃんの頭に女性のような高い声が響いた。


『――リオちゃんレベルアップ!――』


 驚き、叫ぶクマちゃん。


「クマちゃ!」『リオちゃんレベルアップ!』

 

「『リオちゃんレベルアップ!』じゃないでしょ! 人の顔に砂飛ばしちゃ駄目!」


 悪い子な我が子を『メッ!』と叱る新米ママ。


「ん? レベルアップ? もとはいくつだ?」


 細かいことを気にするマスター。


「リオちゃんレベルアップ? ……前は確か、三だったのではない?」


 クマちゃんの寝言をしっかりと聞いていたウィル。


「三だろ」


 もこもこの言葉は聞き逃さないルーク。


「リオちゃんレベルアップ……? まさか四に――」


 密林で呟く死神。


 飛び交うリオちゃんレベルアップ。


「三とか四とか言うのやめて欲しいんだけど」


 砂ではなく目をどうこうされてしまった男は『――んだけど』と心の扉を閉めた。


 心優しい〈クマちゃんLv.1〉は仲良しなリオちゃんの裏切りレベルアップに「クマちゃ……」と震え、祝った。


『おめちゃ……』


 痛み癒された左目は一瞬だけ輝いたが、お怒りちゃんなリオちゃんにそれを伝える者はいなかった。



 密林前に立ち「クマちゃ、クマちゃ……」と仲間達へ大切なことを伝えるクマちゃん。


『砂ちゃん、なんでもちゃん……』


 実はこの砂は、こうすれば何でも願いが叶うのです……、という意味のようだ。

 ――聞き覚えのある言葉だ。


「それさっき言ってなかった?」


『こうすれば』に敏感な暫定レベル四。


「そうか……ゆっくりでいいぞ」


 軌跡をたどるクマちゃんにマスターが優しい言葉を掛ける。

 

「クマちゃ……」


 深く頷くガーデンデザイナー。

 ゆっくりと、ルークの魔力で待機中の砂を掴んだもこもこは、ヨチヨチと目的地までそれを運んだ。

 もこもこが無事、肉球で砂を掛ける。



 肉球を離れた砂がきらきらと輝き、ひかりが密林に道を作ってゆく。

 きらめきと共に樹々が消え――まるで元からあったように――真っ白な砂と板、石畳が現れた。


「え、まじで? 砂かけるだけで? クマちゃんの砂やばすぎじゃね?」


 かけられただけでどうこうされた男がもこもこの新魔法に驚嘆した。


「……白いのの魔法は本当にすげぇな。砂から魔力は感じないように思うが」


 マスターが独り言のように渋い声で呟き、顎髭をさわる。


「どういう魔法なんだろう……。素材はここにあったものだけなのかな。凄いねこれは……」


 南国の鳥が不思議そうに道を眺めた。

 木の板も石畳も、この島に合わせて作られているようにしか見えない。

 古木のような風合いの板が、彼らを奥へと誘っているようだ。


「行くか」


 自然な動作でもこもこを抱えたルークはスタスタと、出来たばかりのクマノ道を進んで行った。


「砂やばすぎる……」


 不可解なものを見てしまったリオは、死守した砂を道具入れに仕舞う。

『クマちゃんみたいな可愛い砂』は凄くなくていいのだ。可愛いだけでいい。

 リオは真剣な顔で頷いた。

 ――部屋に飾るまで、安心はできない。



「いやまじでどうなってんの? クマちゃんが掴んでた砂ひとつまみくらいだったじゃん」


 数分歩いた先にあったのは、『さぁ、ここに何でも建てていいですよ』と言わんばかりの、空地のような広場だった。

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