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第208話 熱烈な歓迎とかすれた何か。 

 クマちゃんは現在、別荘へ戻って来た彼らを大歓迎している。


「クマちゃ……! クマちゃ……!」


 幼く愛らしい声はルーク、ルークと大好きな彼を呼んでいるようだ。


「何この扱いの差」


 新米ママリオちゃんは何事にも動じない男に抱かれ興奮状態の我が子へ、新米派からベテラン派へ寝返ったもこもこを見るような視線を向けている。

 あそこで鳴いているのはただの可愛いもこもこではない。

 残酷な裏切もこもこである。


「大好きな彼から離れて頑張っていたのだから、仕方がないのではない? クマちゃんとずっと一緒にいる君と扱いが違うのは当然だと思うのだけれど」


 ソファに座ったウィルがシャラ――、と装飾品を鳴らし、

「僕の代わりに会議に出てみる?」ふ、と静かに笑いながら本気なのか冗談なのか分かりにくい問いかけをした。


「……俺が代わってやろう」


 氷の紳士は紳士的に子守りを引き受けると名乗り出たが、

「……いや……危険か――」お預かりする赤ちゃんクマちゃんが頑張り屋さんで可愛すぎることに思い至った。


 鋭すぎる眼を長いまつ毛で隠し、彼は葛藤した。

 もしもクマちゃんの愛らしさで彼の心臓が止まれば、心優しいもこもこは『クマちゃ……!』と悲しみ倒れてしまうかもしれない。

 お留守番一時間で死傷者一人と一匹である。


「……頑張ったな」


 ルークは子猫のようなもこもこを指先で優しく撫で、労った。

『すげぇな』眼差しで想いを伝える。 


 彼がクマちゃんニュースを観てくれたことに気付いたクマちゃんがキュ! と嬉しそうに鳴いた。


「……何かみんなの『クマちゃんめっちゃ頑張ってた』みたいな言い方すげー気になるんだけど」


 裏切もこばかりを気にしていたリオが人間不信の金髪のような声を出す。

 もこもこも人間もいつの間にかソファで寝ているお兄さんも何故か戻ってこないゴリラちゃんも森も樹も草もなんなら自分も全部信用できない。


 擦り切れた金髪は手負いの金髪のように全森の街すべてを疑っている。

 何故会議をしていたはずの彼らは『頑張っていたクマちゃん』を知っているような言い方をするのか。


 ルークがリオの服装ごときを気にしないのは納得できるが、ウィルまで何も言わないのはおかしい。

 もこもこのような白いシャツとお兄さんのように黒いネクタイを着用してしまったリオが見えないのか。


「親切なお兄さんが会議室にいる僕たちへ魔道具を届けてくれたのだけれど、君は知らなかったの?」


 穏やかな声は穏やかでない男の毛羽だった心の毛を雑にむしった。


 

 むしられボサボサになった心の扉――。


 むしられた門番リオがボサボサの扉を固く閉め、ソファで横になり己を癒していると、元凶の愛らしい声が聞こえてきた。


「クマちゃ、クマちゃ……」


『クマちゃ、お風呂ちゃ……』と。


 綺麗好きな赤ちゃんクマちゃんは、一緒にお出掛けしてボサボサなリオちゃんと戻って来た皆でお風呂に入りたいらしい。

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