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第206話 クマちゃんニュースのエンディングと鍋

 もこもこは猫界とクマちゃん界で人気のふさふさした草で、謎のもや事件を解決してしまったらしい。


「えぇ……」絶対あの草関係ないでしょ――。


 リオは言いかけ、言葉を飲み込む。 

 何度言っても無駄だ。

 もこもこはあの草が大好きなのだろう。

 猫が遊びそうな、あの草が。


 凄いのはクマちゃんと癒しの力だ。

 草ではない。


 偉大なもこもこはつぶらな瞳で彼を見上げ、「クマちゃ……」と悟りを開いたように語った。


『えぇちゃ……』


 えぇ、本当に凄い草です……、と。


 彼は奇跡を起こしたもこもこへ、静かに想いを伝えた。


「いやそっちの『えぇ……』じゃないから」



 奇跡のもこもこが「クマちゃ……」と彼に甘え、もこもこを撫でまわした彼が「いや『のえぇ……』はおかしいでしょ」といつも通り仲良く過ごしていた頃。



 癒しの魔法で煌めく街を見下ろすように映していた『生中継』が、元の映像へと切り替わった。 

 金髪の現地人リオが腕の中のもこもこリポーターへ、不審なもこもこを見るような視線を向けている。

 最初と同じだ。

 あの金髪は世の中に不満があるのだろう。


「戻ったか……随分目つきが悪いな」


 優しいマスターが金髪の画面映えを心配し――。

 チラ、と左上を見る。やはり

『全森の街同時放送!』

らしい。


 もこもこ的な何かを察知した冬の支配者が、カッ――と鋭い目つきでもこもこを睨む。



 映像のもこもこがゆっくりと頷き、子猫のような声で歌い出した。


『――クマちゃーん!――』――クマちゃんニュース!――。


 

 盛り上がる会議室。

 冒険者達が「可愛いー!」「クマちゃんニュース!」と喜んでいる。

 

 

『――クマちゃん、クマちゃん――』キュ――、キュ――、キュ――、キュ――。


 ――クマちゃんニュース、お時間ちゃん――。



 愛らしい歌声と共に、映像の中の便利な草が光る。


「ああ、なるほど……これで力が増したのか」


 マスターは渋い声で分析すると、国家機密を知ってしまった人間のような顔で「声が可愛すぎるな……」と続けた。


『何その変な歌』クレーマーの衝撃的なクレームが混じり、会議室が吹雪く。


 正義のもこもこのおかげで挫けぬ心を手に入れた冒険者達は、不満を漏らさず歯をガタガタさせた。


 映像が一瞬ぼやけ、


『――俺の名前は入れてくれ――!』


クレーマーの声だけが鮮明になる。


「主張が強い」「強いな」「さすが悪の組織……」ざわめく冒険者達。


 正義のリポーターは最後まで、清く美しくもこもこしていた。


『――クマちゃーん!――』――クマちゃんリオちゃんニュース!――。


『――いい――!』喜ぶ悪党。



 最高のエンディングに沸く会議室。


「クマちゃん最高ー!」

「クマちゃん優しいー!」

「クマちゃん格好いいー!」


 こうして森の街を救った素晴らしいリポータークマちゃんへ、盛大な拍手と喝采が贈られた。

 


「いや全部おかしいでしょ! ぼやけてたじゃん! 俺だけ継ぎはぎみたいになってたんだけど!」


 悪のクレーマーが吹きこぼれた鍋のようにクレームを吹いている。

 映像の一部が改ざんされたと主張しているようだ。


 彼の膝で愛らしくもこもこしているシンガーソングライターは、お昼寝中の子猫のように仰向けのまま「クマちゃ……」と真摯に答えた。


『へー……』と。

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