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第10話 マスター

 現在クマちゃんは忘れ物チェックをしている。

 白魚よりも美しい手で、す、す、と指をさし、うむ、と深く頷いた。



 二人と一匹の一日は、暗闇から始まる。


 其処はどの部屋よりも暗く、そして森の中のような香りが漂う。

 闇の中であっても、空気はまるで神殿のように澄んでいる。

 壁際に寄せられた倒れたままの木が、枯れる気配もなく、元気に茂っていた。



「これ絶対そのうち怒られるって」


 暗い部屋の中から、リオのかすれ気味の声が聞こえる

 今は問題なくとも、夜になれば明かりが並ぶなか一室だけ暗い窓に気付かれないわけがない。

 部屋の確認に来られたら、床に倒れたまま生い茂る木についても聞かれるだろう。


 その際『気付いたらこうなってました』『じゃあしょうがないですね』で済むとは思えない。


「気にし過ぎだろ」


 暗闇に溶け込む低音の美声の彼は、一般の人間とは何か違う生き物なのだろう。

 問題しか起こさないあのクマの飼い主は、これくらいじゃないと務まらないのかもしれない。



 二人が朝の支度をしている間、クマちゃんも一緒に出掛ける準備をする。

 リュックの中に昨日作ったアイテムと杖と魔石が入っているのを確認し、うむ、と頷いた。

 後はルークに抱えてもらえば完璧だ。

 クマちゃんはリュックを引きずり、ルークの足元で待機した。



「ルークさん、ちょっと良いですか」


 朝食を済ませ、片手でクマちゃんの口元を拭いてやっていたルークに、ギルドの女性職員から声が掛かる。


「マスターから伝言です。その、クマちゃん? も一緒で良いので出来るだけ早く来るように、との事です」


 彼女はクマちゃんが非常に気になっているようだ。

 熱い視線を送っていたが、急ぎの仕事があるらしく足早に去っていった。


「絶対部屋のことでしょ」


 リオはいっそどうでもよさそうに、テーブルの隅を無表情に見ている。


 ルークが慣れた仕草で――彼の膝でもこもこしている――クマちゃんを抱え、若干面倒そうに席を立つ。

 長い腕を伸ばし椅子に掛けてあった荷物を取りながら、急ぐ様子もなく、彼はふらりと歩き出した。


 横目で見ていたリオも怠そうに立ち上がると、少し遅れて彼らの後を追った。



 関係者以外立入禁止の区画へ進み、奥の部屋へ入る二人と一匹。


「おいクソガキども。この忙しい時期に問題を起こすな」


 深みのある渋い声は落ち着いているが、言葉は荒い。


 声の持ち主である男性は、ギルドマスターという立場の人間だ。

 ――大体雑な冒険者達は彼を酒場のマスターだと思っている。

 少し荒く後ろに流したグレーの髪と同じ色の顎髭、黒いベストと白いシャツ、黒いズボンという格好は、確かに酒場のマスターらしい。


「ふざけた内容の始末書だのぬいぐるみだの色々と言いたいことはあるが、それよりも仕事だ」


 リオの予想通り、マスターの耳に色々入っているようだ。

 今すぐ叱られるわけではないらしい。


「昨日会議で話した通り、森で大型のモンスターが何体か発見されている。そのぬいぐるみはここで預かってやるから、お前らも確認に行って来い」


 マスターである彼が、渋い声でいう。

 確かに大型のモンスターとクマちゃんを同じ空間に居させてはいけない気がする。


「了解」


「了解でーす」


 ルークとリオは雑に承諾の言葉を返すと、マスターにクマちゃんを預け仕事に向かった。

 空き巣の容疑者クマちゃんであっても、あの暗い部屋に長時間閉じ込めておくのは可哀相だ。


 ここであれば、マスターもいるし人の出入りもある。

 寂しくはないだろう。

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