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礎の聖女

作者: 千子

聖女はこの地を救う。

それは何百年と昔から伝えられてきたお話。

聖女とは、異世界から召喚されし救国の乙女が枯れ果てたこの地に豊穣をもたらし魔物を追い払ったという伝説からなっている。

礎の聖女のお話はこの地では誰もが知るおとぎ話であり、真実である。




今年も数十年振りに聖女が召喚された。

それはこの地の安寧の約束であると飢饉で飢えた民衆は喜び活気が溢れ、召喚の日は祭日とし喜ばれた。


召喚された聖女は十数歳の乙女であった。

見慣れぬ衣装を身に纏い「もしかして異世界転生…?」「ヒロイン?」とぶつぶつと自身の置かれた状況に戸惑いつつも、聖女のために誂えた若手の聖職者を見て黄色い声を上げた。

やはりどこの世界でも顔のよい若い男に乙女の関心は向くらしい。




同性の聖職者が基本的に聖女の世話役とされたが、聖女は異性の見目良い者にしか関心がなかった。

聖女召喚の説明を受けても「そういう設定なのね!わかったわ!」と本当に分かったか聞きたくなる軽さで答えた。


数日が経ち、この地の生活にも慣れた聖女は王子の存在の可否を訊ねてきた。

いらっしゃることを告げると詳細をせがまれ王太子殿下と会いたいと言い出した。

これにはさすがの聖職者も止めたが、聖女は反発し、王子様と会わせないなら聖女としての仕事なんてしない!と騒ぎだした。

困り果てた聖職者達は王城に使いを出し、指示を仰いだ。




「やあ。きみが今代の聖女だね。初めまして」

聖女はようやく会えた王太子殿下に歓声を上げ、思わずといった風に抱き付こうとして城の兵に止められた。

また騒いだが、そのまま聖女は部屋に下げられた。




「おかしいじゃない!乙女ゲーか小説の話じゃないの!?軟禁状態じゃ話も進まないじゃない!」

「第一、聖女なんて言っても何もやらせないの?なんかすごい魔法とか出来るんじゃないの!?」

「そもそも、礎の聖女とかっていうのなんだからもっと敬いなさいよ!」

騒ぐ聖女に聖職者達は王に儀式を早めることを嘆願した。

聖女が望み、またこのままでは聖職者達の仕事にも支障が出る。いや、既に出ている。




「聖女様。礎の聖女となる儀式の日取りが決まりました」

聖職者が淡々と告げる。

「ようやくイベントスタート?随分長かったけど取り逃しあったかな?」

またも訳の分からない言葉で返される。

聖女は言葉を交わすことのない世界にいたのだろうか。

いや、自分には既に関係のない話だ。

聖女が礎になれば。




公爵家の令嬢、王太子殿下の婚約者が訪れたのは儀式の前日だった。

この頃には聖女への面会も緩やかになり、お会いして拝みたい方には礼拝堂で好きにさせていた。

皆から拝まれ聖女はとても満足していた。

最後の面会は令嬢だった。

黒いドレスに黒いベールを被り、まるで最期の別れに来たかの令嬢の姿に聖女は首を傾げたが、それでも王太子殿下に婚約者がいたことにショックを受けた聖女は口汚く令嬢を罵った。

「一番推せるって思ったのに!」

しかし、令嬢は微笑み聖女に問い掛ける。


「聖女様はこの国がどうやって栄えてきたかご存知?」

この言葉に側に仕えていた聖職者が動きそうになるが令嬢が小さな仕草一つで留める。

「それは…礎の聖女が聖なる祈りとかして民衆を守るんでしょう…?」

聖女が聖職者から聞かされていたことを言うと公爵令嬢は小さく笑い、明日の天気でも話す口調で残忍な手法を聖女に告げる。

「簡単なお話ですわ。召喚された聖女をこの地に与えれば良いのです」

「聖女を与える……?」

「察しの悪い方ですのね。つまり、あなたを殺して大地にその血を染み込ませれば、聖女の聖気が宿り魔物も活発化しなくなり世界に平穏が訪れるというわけですわ」

その言葉に聖女は慄いた。

「そんな!そんなの、聞いてない!!」

「誰も後味悪く聖女様に死んでほしくないですからね」

そこで聖女はどんな我儘でも通ったことを思い出す。

あれは、儀式の日には殺され死んでしまう自分へのせめてもの償いだったのでは?

「礎の聖女が、そんな存在ならやりたくない!元の世界に返して!!」

泣きながら聖女は懇願したが、側に仕えていた聖職者も令嬢も顔は変えない。

「だって、でも、この世界にもあなたが元居たあちらの世界にもあなたを想う方はいませんでしょう?」

にこりと令嬢が微笑む。

「聖女は必要ですが、あちらにもこちらにもあなたは不要なのです」

聖女は絶望した。

「だからこそ、異世界からわざわざ召喚するのですわ。同じ国から選んで殺したら後でその身内になんと言われるか…反乱が起きかねませんもの」

歪む口元を扇で隠しながら令嬢が笑う。

「だからね、聖女様。世界のためにその身を捧げてくださいな。わたくしと王太子殿下が住むこの世界の礎になり、治世を穏やかなものにしてくださいませ」


令嬢は王太子殿下がとても好きなので、聖女にはちょっとおこで嫌味を言いに来ました。


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