つちのこうやのラブコメ (それぞれ別々にお読みいただけます)
自習スペースで勉強していると、隣に座ってきてグミを一つくれる後輩が可愛い
帰宅部の僕は、放課後は自習スペースに行くのが日課だ。
高三の人に交じって勉強していると、なんか意識高い人みたいに自分でも思えてくるけど、実際はそんなことはなくて、ただしたいことがないからいるだけである。
しかし、最近は少し楽しみにしてしまっていることがあって。
「あ、先輩今日もいるんですね」
後輩、真愛梨である。
中学の時は、演劇部の先輩後輩だった。
今は僕は帰宅部で、真愛梨は、新入生なので今何の部活に入ろうか考えているところだろう。
「先輩、今日もグミあげます」
「ありがと」
僕はグミを受け取った。
今日は、マスカット味か。
そう食べる前に、判断して、そして、食べてたしかめる。
マスカットだった。
グミと言えば、思い出がある。
小学校の時の遠足とかだと、なんかすごい紐みたいにながいグミとか、変な味のグミとかを、みんなで交換していたりしたなあ。
まあそれだけだけど。
今は、遠足とかの概念もないゆっくりとした時間に、グミは突如として、真愛梨と一緒に現れる。
「真愛梨、はい」
「え、先輩、これは、グミですか?」
「そう、いつももらってばっかりだから、今日から交換」
「あ、ありがとうございます。なんだか小学生の遠足見たいですね」
「そうだな。僕もおんなじことを思い出してた」
そして、その時に、少し戻りたいと思ったりもした。
僕は、自分で持ってきたグミをひとつ、口に入れた。
「……そういえば、私、入る部活決めました」
「お、まじか」
「はい。私、やっぱり演劇部に入ろうと思うんです」
「そうか、やっぱ、続けた方がいいと思うよ、真愛梨は」
「先輩も……一緒に今からでも入りませんか?」
「うーん……僕は結局演劇にあんまり一用懸命になれなかったからなあ」
そのまま、一年何もせずに来てしまったんだけど。
確かにほんとにそれでよかったのかな。
「先輩、そんな一生懸命やらないとダメとは限りませんよ。私だって、演劇にすべてを費やしてなんか全然ないですし、そもそも、入ろうと思ったのだって結構てきとうだし」
「そうなのか。なんかいつもちゃんと来てたから……」
「まあ、来てはいましたね」
真愛梨はうなずいた。
そして続けた。
「とにかく、私は演劇部入りたいなって思うんです。だから今から、見学に行ってきます」
「うん」
「中学の時もそうだったんですけど、意外と緊張するんですよね」
「そうかもな」
「中学の時は、すごく優しく説明してくれた先輩がいたからよかったです」
「それはよかったな」
「はい。今日もそんな人がいてくれたらいいなって思います」
「……」
「……じゃ、先輩、また今度会ったらグミを……」
「行く、僕も」
「ほんとですか?」
「うん」
僕は立ち上がった。
そして、グミの袋をポケットにしまう。
口のなかには、二種類のグミの甘さが、残っていた。