第07話 いざ、北海藩へ!
今日から再開します!
またよろしくお願いします!
「わぁ、美味しそう!」
東京駅の老舗弁当屋で購入した『牛肉重』の蓋を開けると、香ばしい香りが新幹線はやぶさの指定席を包み、みどりは黄金色に輝く艶やかな牛肉に目を輝かせている。
「おい、滝沢! ワシの飯を忘れるでない!」
「あ、馬琴ちゃん! ダメだよ勝手に出てきちゃ!」
みどりが咎めるのも気にせず、キャリーバッグの蓋を開けた愛猫・馬琴がちょこんとみどりの膝の上に乗り、潤んだオッドアイでエサを懇願する。
「もぉ! しょうがないなぁ」
みどりは言葉だけは渋々従う感じを出しながらも、嬉々として鞄からチュールを取り出して馬琴に与える。
猫好きとはそういうものだ。
みどりと馬琴は、『猫探し』の勅命を受けた翌日、早速、北海藩に向かう為に新幹線に乗り込んでいた。
空席が目立つ……というより、乗っている人が稀なはやぶさを新函館北斗駅で乗り換え、特急北斗で札幌駅へ向かう。
チュールで満足し、ゴロゴロと喉を鳴らして膝の上でくつろぐ馬琴の黒々とした毛並みを撫でながら、『牛肉重』を堪能していたみどりがふと呟く。
「こんなガラガラで経営成り立つのかなぁ?」
「今は仕方なかろう、もう少しの辛抱じゃ」
「でも、JR北海道……北海藩はそもそも経営厳しいって言うし」
「じぇいあーる? 何を言うておるのじゃ、日ノ本の鉄道は天皇家直轄じゃぞ」
「え? そうなの?」
「まったく、常識のない女よのぉ、ほれ、昨日中池が征夷大将軍の話をしておったじゃろ?」
「うん、してたね」
「征夷大将軍になって幕府を開けば、鉄道も航空も幕府直轄となるのじゃ、さすればその富は計り知れまい。
じゃからこそ中池も東京藩の秘宝を献上する決心をしたのじゃろうが……迂闊な奴じゃて」
話を聞いてみれば、中池の判断にも頷ける所はあるが、それで危険な目に合う方はたまったものではない。
「だからってさぁ」
頬を膨らませるみどりを馬琴が窘める。
「まぁ、そう言うな、そのお蔭でおぬしは伴天連の秘薬を使うて命拾いしたのじゃぞ」
「それはそうだけどさぁ」
「そんな事より、おぬし、山下から八房の写真をもろうておったな? 見せてみい」
「写真? どうして?」
みどりは胸ポケットから探し猫・八房の写真を取り出して、馬琴に見せる。
「おぬしら人間には見分けが付かぬであろうが、ワシなら誰の八房か分かるかもしれぬ」
オッドアイを光らせて写真を覗きこんでいた馬琴が、呻く様に答えた。
「ふぅむ、これは恐らく猫江の八房じゃ」
「猫江!? 猫江親兵衛?」
「多分じゃがのぅ」
満足そうに毛づくろいを始めた馬琴に、みどりが問いかける。
「そうだ! 馬琴ちゃんって仔猫だった十年前に八猫士に会ってるのよね?」
「いかにも」
「その猫江さんってどんな人なの? 会えば分かる? 強い人なの?」
「一遍に聞くでない! まぁ八猫士の者どもは皆恐ろしく強いのは確かじゃの。
猫江はその中でも猫塚と並んで最も若い、確か当時十八になったばかりであったか……それはもう男前でのぉ、ほれ、おぬしが熱をあげておるジャニーズであったか、あの連中の中に入ってもまず引けはとるまいて」
(こいつ! 猫のクセにそんなの見てたのか)
「わたしは別に熱をあげてなんかいません!」
みどりは馬琴の額を親指でグリグリしてささやかなお仕置きを済ませる。
「それにしても、馬琴ちゃんって仔猫だった頃の事なんかよく覚えてるね」
「ワシら八房はの、生まれた時から成人……いや、成猫なのじゃ。
もっと言えばワシらは代々記憶を引き継いで生まれる」
「だから、そんなジジくさいんだ……きゃぁ、痛い!」
指を噛まれたみどりが非難がましく睨むと、馬琴はペロペロと指を舐めだす。
「それはそうと、おぬし、いい加減に役所言葉で話したらどうじゃ?」
「役所言葉!?」
「本当に常識のない女じゃのぉ、ワシや中池や山下も使うておるじゃろ、おぬしの言葉使いでよく役所務めが務まるものじゃ」
みどりはようやく合点がいった様に頷いた。
「そっかぁ、それで病院とか電車の中の人たちは普通で、都庁の中だけおかしかったのね!」
(よーし、色々慣れてきたぞ! まずは猫江さんだ!)
みどりはキョトンとしている馬琴の頭を撫でながら『牛肉重』の最後の一切れを口の中に放り込んだ。
次回・再会、八房!