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『東京八猫伝』~せっかく復活したのに猫探しの旅ですか!?~  作者: J・P・シュライン
第一章 猫江親兵衛 編
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第19話 猫江と但馬守

「やっぱ味噌ラーメン美味しいね〜」


 がらんとした店内の四人がけの座敷席を一人で占領したみどりは、キャリーバッグの中の猫の馬琴ばきんに話しかける。


「お主、これから猫江ねこえ但馬たじまを引き合わせての作戦会議じゃというのに、よく呑気のんきにラーメンなんぞすすっておられるのぉ」

「腹が減っては戦は出来ぬよ!あれから三日間山下課長の説得資料作りでホテルに缶詰だったんだからラーメンくらい良いじゃないの!」


 ラーメンを啜りながら壁の時計に目をやると、針は21:30を指していた。

 約束の22:00まではまだ間があるので、餃子を一皿追加する。


「それにしてもやっぱり本場は違うわね〜、こんなにガラガラのお店なのに凄く美味しい」

「これ、ガラガラは余計じゃ、店主に聞こえるぞ、ほんとにガサツな女子おなごじゃて……」


 慌てて店主の方を確認するが、カウンターでラーメンをすすっている客の陰になってよく見えない。

 だが、せわしなく鍋を振る音を聞く限り、聞こえてはいないだろう。


「それにしても、あの山下がよく四億に許可を出したものじゃ、お主も意外とやるのぉ」

「課長は書類上のリスク回避さえ出来ていれば問題ないのよ、とにかく自分の責任が問われない文章になってれば良いの」

「では、お主に責任が行くのか?」


 馬琴の指摘に、スープを飲むみどりの手が止まる。


「まさか! 責任の所在が明らかな様で誰にも責任が及ばない文章の書き方があるのよ、これぞ《《お役所文章》》ってヤツね!」


 馬琴は丸い目を更に丸くして得意げな顔のみどりをまじまじと見つめて、意外そうに呟いた。


「お主は左様な姑息こそくな真似を嫌うておるのかと思っておったが……」

「も、もちろん好きじゃないわよ! でも仕方ないでしょ!」


 憮然ぶぜんとした表情でスープを口に運ぶが、一口飲んで笑顔になる。


「ん〜、美味しい!」

「現金な奴じゃて、それで、他の八猫士の所在については何か言うておったか?」

「それはまだ掴めてないみたいよ」


 スープを堪能しているみどりに、店の入り口から声が掛かる。


「ふむ、服部も存外だらしないのぉ」

「あ!但馬さん!? お早いですね」


 但馬守たじまのかみは、立ち上がって礼をしようとするみどりを手で制すると、靴を脱いで座敷に上がり、みどりの向かいに腰を落とす。

 と同時に、不愛想ぶあいそな店主が餃子と水を運んできた。


「ほぅ、気の利いた娘じゃな」


 但馬守は目の前に置かれた餃子の皿を自分のための注文だと勘違いをしたようだ。


「あ……、こ、ここの餃子はとても美味しいらしいんですよ、どうぞ召し上がって下さい!」

「では、頂くとしよう! ……むぅ、これはなかなか美味じゃのう! 十兵衛じゅうべえおい兵庫助ひょうごのすけ()()()()と称して日ノ本中を飛び回っておるのも、存外かような美味を求めての事かもしれぬのぉ」


 笑顔で餃子を頬張り軽口をたたく但馬守に親近感を覚えたみどりは、猫江が来るまでの間、他愛もない世間話をして過ごす。

 約束の22:00を少し過ぎた頃、ようやく店の窓越しに猫江が姿を表した。


「あ、猫江さん、来ましたね」

約定やくじょうの時刻も守れぬとはやはり胡乱うろんな男よ、して、あの娘は?」


 不機嫌そうな視線の先で猫江に肩を抱かれている女は、地味な顔に似合わない派手な化粧が夜目にも痛々しい。

 恐らくはホストクラブのカモなのであろう。

 店の前でひと言ふた言会話を交わすと、名残なごり惜しそうな女の視線を無視して猫江は一人で店に入ってきた。

 みどりと但馬守の姿を認めると、不愛想な店主にチャーハンを注文してからお冷を片手にみどりの隣に腰掛ける。


「やぁ! みんな早いね」

「そなたが猫江か、女連れで遅刻とは噂にたがわぬ胡乱な男よ」


 軽薄な挨拶を受けた但馬守は、いら立ちを隠すことなく猫江に食って掛かる。


「んー、あなたが、()()()()さん?」

柳生やぎゅうじゃ!」

「これは失礼、柳生()()()のかみさん? あんた顔色悪いね、寝てなくて大丈夫?」

但馬たじまじゃ! 貴様! 愚弄ぐろうしておるのか!」


(え~、ちょっと! 何いきなり喧嘩はじめちゃってるの!?)

次回・【Kovirー21】

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