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Orb Of Infinity—百面相さんの『オブオブ』プレイ日記—  作者: 藤乃リュー
第一章・NPC救出編『彼と少女とその狂気』
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第六話『休息』

 狩りを再開してから2時間程度。標的は変わらずブラウンボアだ。不意打ちや突然のポップなどを抜きにしても、何度か死にそうになったが……今のところ、順調に狩りができている。


 現在のレベルは3と3分の1程度。2時間狩りをしていたにしては上がり幅が控えめだ。『オブオブ』自体が、元からレベルアップしづらいゲームだということと、やはりソロの狩りでは効率が悪いということが原因だろう。


 だが、それでも着実に経験値は稼げている。レベルアップはたったの2だが、少しは火力も上がって、狩りも楽になった。稼いだ金で新たに頭と腕の防具も購入し、防御力もアップした。


 もっとも……いまだ、ブラウンボアの突進では一撃で死に戻りだが。



「……あとちょっと戦ったら、一旦ログアウトして休憩するか」



 プレイ時間は4時間弱程度。画面と向き合ってプレイする従来のゲームでは、休憩を入れずとも問題ない範囲だが……VRゲーム、特にスポーツゲームやアクションゲーム、MMORPGなどのジャンルは、自分が想像している以上に脳への疲労が大きい。一応、メーカーでは『2時間から3時間に一度、ログアウトして休憩を』という目安が設定されている。


 現在の時刻は午後3時42分。そうだな……4時半まで狩りをしたら、1時間ほど休憩しよう。まだまだゲームは始まったばかり。今から根を詰めすぎるのも良くない。




 そうと決まれば……目標は、4時半までにレベル5だ。一度も死なずに狩り続ければ難しい話でもない。気合を入れろ、気合を。






   * * *






「うぁぁ……体は疲れてないのに、なんか疲れてる感じがする……」


 ログアウトして『C.C.M』を外すと、久し振りに『あの現象』が体を襲った。リアルの体はこれっぽっちも動かしていないのに、脳からの命令でゲームの体を動かしているから、疲労は溜まっていないのに疲れたように錯覚する現象。これが、メーカーが定期的な休憩を推奨する理由だ。


 久し振り……ということは、それだけ熱中していたということだ。一度のプレイで4時間半。その半分以上は巨大猪と戦っている。疲れないはずがない。




 午後4時半。お腹が空いたような空いていないような、微妙な時間帯。あまり食べ過ぎては、また中途半端な時間に空腹になる。


 確か、棚に菓子パンがあったはずだ、それを食べながら、1時間ほど、脳を休めよう。これは俺の持論だが、休憩無しでぶっ続けで作業をするよりも、間に少し休憩を挟んで作業した方が、結果的には効率が良い。レアアイテムのドロップ率も高くなる気がするが、そちらはただの偶然だろう。


 VRゲームに慣れているとはいえ、本格的なアクションゲームを休憩無しでプレイするのは、精神的に疲れてくる。あれ以上続けていれば、くだらないミスでデスペナを食らっていたことだろう。


(まあ……面白いから、熱中してしまうのも分からなくはないが)


 『オブオブ』……『Orb Of I nfinity』。事前情報や高まった期待を裏切ることなく、このゲームはハードルを飛び越えてきた。ネット上で感想を探していても、やはり痛覚の緩和レベルについては否定的な意見も多かったが、それ以外ではこれといったものが見当たらない。『やることがない』という意見はあったが、それは自分で楽しみを見つけられない弱小ゲーマーのくだらない文句だ。




 菓子パンの袋を開け、かぶりつく。糖分が脳に染み込んでいくような感じがして、いつもより美味しく感じた。


 菓子パンを頬張りながら、『オブオブ』の情報をネットで集める。攻略情報などには頼りたくない性分だが、サービス開始からこの4時間半での、ユーザーの進捗度合いなどが知りたかった。やはり、ゲーマーたるもの、多少は他のプレイヤーよりも先に進みたいという欲があるものだ。


「へえ、もうレベル8に到達した奴もいるのか。相変わらず、廃人連中は早いな……」


 俺はゲーマーだが、廃人というほどのものではない。そこまで狂ったように1つのゲームを極めることはまずない。そんな連中と比べると、やはり腕はワンランク落ちてしまう。


 だが、見ている感じ、レベル一桁台後半に達しているプレイヤーは少数。他は俺と同じくらいか、俺よりも低い位置にいる。出遅れている……わけではなさそうだ。


 それに、まだゲーム自体が大きな進展を迎えているという情報はない。初日は皆、様子見程度なのだろう。町やフィールドの散策、或いはレベリング……大きな騒ぎを起こしたプレイヤーもいなさそうだ。



 更に画面をスクロールしていくと、ゲーム内で撮影したスクリーンショットの投稿もあった。これは……ガルドラではない。大きな船と港がシンボルなのは、確か……商人や職人の暮らす国、バーレン。その首都である『ピューラ』という港町だ。



 なるほど、ガルドラ以外の国はこうなっているのか。王都アギニスは内陸にあって、海は見られない。その代わりに、あの広大なガルディール大平原がある。あれはあれで趣深いが、あの規模で描かれる海も気になるな。いずれはガルドラを出て、他の2つの国の名所巡りでもしたいものだ。



 他にも、『美少女NPC発掘し隊』や『イケメンNPC発掘し隊』といった謎の団体によるNPCの写真、更には『モンスターコレクター』という、超至近距離でモンスターの写真を撮影し、投稿する謎の団体まである。


 複数プレイヤーで結成する『レギオンシステム』は、レベル25から解放されるため、彼らはシステムで繋がった団体というわけではないのだろう。恐らく、システムが解放されるまでは、SNSやフレンド機能を用いて自称しているのだ。


「……いや、こんな至近距離からスクショって、よく死なないな」


 中には、俺が狩り続けていたブラウンボアの写真もあった。スクリーンショットにはズーム機能もあるが、こんな目と鼻の先の写真となると、敵のアクティブ範囲内には入らないといけない。


 その写真をよく見ると、隅の方に、『この後死んでペナルティ受けました。良い子の皆さんは真似しないでください』と、注意書きがあった。だろうな。




「……はあ、レギオン、か」




 レギオンシステム。他のゲームでも、『ギルド』や『クラン』といったシステムがあるだろう。あれと似たようなものだ。


 ただし、『オブオブ』の集団システムは、他のそれよりも少しだけ細かい。




 まずは、通常4人で攻略を共にする『パーティー』に似た、2人から8人で結成される、『チーム』と呼ばれる最小単位の同盟システム。『超小規模のギルド』、と言い換えてもいいだろう。


 『チーム』を組んだプレイヤーには、専用の『チームチャット』や『チームメッセージ』といった、チーム全体との連絡網システムが与えられたり、チームメンバーと『パーティー』を組むと追加でボーナスが得られたりと、様々な特典がある。



 そして、この『チーム』が複数集まり、30人以上50人以下の集団になると、『チーム』同士で結託し、『ギルド』という集団を作ることができる。


 この『ギルド』には、『チーム』と同じ機能の他、『ギルドホーム』と呼ばれる専用の拠点を購入する権利が与えられる。個人で物件を購入する『ハウジングシステム』とは異なり、この『ギルドホーム』には個人宅にはない様々な機能がある。『ギルド対ギルド用攻防システム』や、大規模な食堂、工房などがそれにあたる。




————更に、この『ギルド』と呼ばれるチーム連合が結託し、100人以上の同盟を結ぶと……『オブオブ』における最大単位の同盟システムである『レギオン』と呼ばれる組織になる。


 基本的な機能は『ギルド』の上位互換。受けられる恩恵やサービスが向上する。それだけ聞けば単純な話に聞こえるだろう。


 だが、この『レギオン』と呼ばれる組織にはある制限がある。それは、三大国と呼ばれるガルドラ、セルセリカ、バーレンに、それぞれ『3組』ずつしか存在できないということ。『オブオブ』全体で言えば、たったの『9組』しか存在できない。


 では、既に3組存在している場合にはどうなるのか。それは……大規模なレギオンの座の争奪戦。『レギオンリング争奪戦』と呼ばれるものが行われ、勝者がレギオンの座へと登る。




 今のところ、レベル25に到達したプレイヤーは見受けられない。まだレギオンの出現を警戒する必要はないだろう。


 だが、プレイヤーが未来を決定できるというゲームの特性上……必ずと言っていいほど、そこにはレギオンが絡んでくる。いずれは危険な連中も現れてくるはずだ。



「……チームくらいは、組みたいもんだなぁ。ぼっちには厳しいけど」



 まあ、俺の関心はそこではない場所にあるわけだが。折角のMMORPGなのだから、チームの1つくらいは組みたいと思うが、今ではまだ難しい。圧倒的に人脈が足りない。1つのゲームに固執するのではなく、色々なゲームに手を出しては、途中でサジを投げてきた結果、固定のフレンドというものがいないのだ。



……脱ぼっち計画。ゲームの攻略とは別に、こちらも考えていかないといけないな。

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