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Orb Of Infinity—百面相さんの『オブオブ』プレイ日記—  作者: 藤乃リュー
第一章・NPC救出編『彼と少女とその狂気』
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第三話『ゲームスタート』

『チュートリアルが終了しました。ゲーム開始地点への転送を開始します』




 チュートリアルが終わると、システムはそう告げた。戦闘チュートリアルの他にも、色々細々(こまごま)とした説明はあったが、大抵は他のゲームの知識を流用できそうだった。


 これで漸く、ゲーム本編が始められる。事前情報だと、本編が始まるとそこから先はもう自由。ストーリークエストやメインクエストなるものは存在せず、プレイヤーの行動によってこの世界の未来を決めなくてはならないと。


……だけど、普通に考えて、だ。このゲームにどれだけのプレイヤーが集まるのかは分からないが、数百万、もしかすると数千万という数のプレイヤーが集まる可能性もある。




 その1人1人の行動でゲームの未来が変わる……そんなこと、現実的に可能なのだろうか。




 いや、最初こそ意外性で人が集まるかもしれないが、本体代に加え月額3000円という強気設定。もしかすると、初めからある程度プレイ人口を減らすことを目的に、その値段設定にしたのかもしれない。


 それでも、どんなプログラム、どんなサーバーを使えばそんなことが可能なのだろう。国内外はサーバーが分けられていることは知っている。だが、国内サーバーは1つだったはずだ。



「うぅむ、不思議だ……」



 考えても分からない。なら、別に考えなくてもいい。考えなくとも困る内容ではない。プレイヤーはただ、運営の望む通り、この世界の未来を描いていけばいいだけなのだ。できれば、平和な方向へと進んでいきたいものだ。




 転送が始まると、目の前が光で覆われた。地面から青白い光の柱が伸びてきて、体を覆ってしまったのだ。


 そして、数秒。ものの数秒じっとしていると、光が消え、代わりに大きな像が現れた。




 豪華な装飾の剣を天に掲げる、剣士の像。予想通りなら、この像が、『ガルドラ』建国へと導いた英雄、聖剣士アルディス。


 なるほど。確かに、英雄らしい見た目をしている。大昔の人間だから、実際にこんな姿だったのかは不明だが。


 周りを見れば、至る所で光の柱が伸びている。俺と同じように、チュートリアルを終えて転送されてきた人間が集まっているのだ。


 三国から選んでゲームを開始するとはいえ、そもそもの人数が人数なのだろう。広場は既に人でごった返していた。



……流石に、サービス開始と同時に始めただけあって、俺だけ特別出遅れている様子はない。そう慌てる必要もないだろう。




『それでは、Orb Of Infinityの世界を自由にお楽しみください』




 システムはそうとだけ告げて、ウィンドウは消えてしまった。


 自由にお楽しみください、か。ゲーム開始から早速放任プレイだ。これ以降は、何をするもプレイヤーの自由であり、自己責任だということだろう。


「とりあえず……町を歩いてみるか」


 俺たちプレイヤーには、『宝珠を手に入れる』という最終目標しかない。ゲーム開始直後に何をすればいいのかは皆目見当も付かない状況だ。


 だが、久し振りのVRMMOだ。まずはのんびりと、町の中を散策するのも悪くはない。


 そう考えるプレイヤーは多いのか、周囲のプレイヤーも、観光気分で町を散策しようとしているものが多かった。中には友人同士やカップルなどもいて……その中で1人でいるのは、少々居心地が悪かった。


「ちっ……どうせ1人ですよ、だ」


 不貞腐れながら、町を散策すべく足を進めた。






   * * *






 『オブオブ』における町エリアが、ハードルの上下どちらを行ったかと問われれば、答えは圧倒的な『上』だった。


 多少のゲームらしさはある。だが、これまでのゲームに比べても、かなり出来が良かった。


 家々の細部、空を漂う雲、樽に溜まった水……そのどれを取っても、国内……いや、世界最高峰と言って差し支えないほどのクオリティだった。


 何より驚いたのは、プレイヤーではないノンプレイヤーキャラクター、所謂『NPC』というやつの精密さだ。


 何が精密かと聞かれれば、全て。動き、表情、そして『感情』。確かに、NPC特有の若干のぎこちなさはあるが、気にもならない程度だ。


 通常、この『オブオブ』では、プレイヤーの名前というものが表示されない。フレンドやギルドといったもので、個人が繋がっている場合は表示することも可能だが、それ以外のプレイヤーの名前を知る方法は、直接そのプレイヤーに聞き出す以外にない。そこは、多少のリアルさを考慮した結果なのだろう。


 しかし、NPCとなれば話は別だ。目の前にいるNPCには、そのキャラクターの頭上に、名前と、設定されていれば職業が、白い文字で表示される。


 たとえば、そう。まさしく今目の前にいるこの少女には、白字で名前が表示されている。『ハーシェ』という名だ。その右隣には、続けて『八百屋』という職業が書かれており、つまりこのNPCは『ハーシェという名の八百屋NPC』だということになる。



「お兄さん……ぼーっとして、どうかしました?」

「あ、いや、別に……なんでもない」

「そうですか? なら、いいんですけど。それより、何か買っていきますか? お兄さん、私好みの顔なので、お安くしときますよ?」

「いや……今はいい。悪い、冷やかしで」

「そうですか……残念」



 少女は、至極残念そうに口を尖らせた。


 このやり取りは、その精密さに驚いた俺と、そしてNPCである『ハーシェ』のやり取りだ。


 これが、NPCとのやり取りに見えるだろうか?


 いや、これが一般的なNPCとのやり取りだというなら……他のゲームにおけるNPCとのやり取りはなんだという話になってしまう。


 あまりにも、人間らしい(・・・・・)。最新鋭でオリジナルのAIを使用しているという話だったが、ここまでのものだとは思わなかった。名前の表示が無ければ、プレイヤーだと言われても疑いはしないだろう。むしろ、今からでもそう言ってくれた方が信じられる。




……これは、予想以上に凄い……いや、とんでもないゲームだ。町の商店の娘ですらこれだ。重要NPCとなれば、これより更に高度な会話もできるだろう。



「プレイヤーがこの世界の未来を決定する……思っていたより、『やばい』ことになりそうだな……」



 当初は軽く考えていた。仮にプレイヤーたちの選択で、小さな村が滅んだとして、俺はそこに大した感情を抱かないだろうという予想を立てていた。



 しかし……仮に戦争が起きてこの町が戦場となり、この『ハーシェ』のようなNPCたちが大量に死んだら?


 ゲームを進めていれば、嫌でも仲良くなるNPCだっているだろう。そんなNPCたちがゲームの攻略のために死んでいく様を、俺は見過ごすことができるのだろうか。




……もう一度言う。色々な意味で、これは『とんでもない』ゲームだ。




「嫌な未来にならないといいけどな……」




 なんだかもやもやとした感情を抱えながら、ハーシェの八百屋を後にする。メインウィンドウからマップを開き、まだ向かっていない場所へと歩いていく。今度は……王城付近へ向かうことにした。


 このゲームにおいてのマップは開拓式。黒く塗り潰された部分を、実際に歩いて明らかにしていくタイプのものだ。ただし、それは町や村といった安全地帯外の話で、こういった安全地帯は、未踏の地は少し薄暗くなっているだけで、初めからマップとして機能している。


 俺としては、実際に冒険をしている気分になれて好きな部類に入るが……面倒な人間は、とことん面倒臭がるだろう。オートマッピングなだけありがたいと思わねばならない。






——さて。それから数十分ほど町を散策して、観光という目的では満足がいった。やはりどこへ行ってもグラフィックは最高峰だし、NPCは皆、生きた人間のように振る舞っていた。今のところは目立った不満もなければ、不具合もない。まさしく『次世代のゲーム』だ。


 だが、ゲームとしての完成度でいうならば、本題はここから。町という安全地帯を出て、実際にフィールドに出た時。果たして、このゲームは同じく『次世代のゲーム』だと呼べるのか。


 まあ、チュートリアルで簡単な戦闘は経験しているから、戦闘面には期待できる。後は、その他の収集や探索といった要素に、どれだけの楽しみがあるかだ。


 それから……個人的に嫌な予感がしている点もある。あれだけ人間に近いNPCがいたとなると……考えたくはないが、確かに、そうなったらそうなったで『次世代』だし、それに何より、楽しい(・・・)だろう。難易度は劇的に跳ね上がるだろうが。




 それじゃあ、フィールドに……戦いに、行ってみようか。

次回更新は9/17です。

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