プロローグ『新しいゲーム』
――Orb Of Infinity
それは、次世代のVRMMOゲームだ。これまでにない体験、これまでにない感動、これまでにない冒険……それら全てを与えてくれる、といった謳い文句で発表されたそのゲームに、人々は面白いほどに食いついた。
これまでのVRゲームには、ゲームならではの限界があった。プレイヤーはあくまでも『ゲームのプレイヤー』。運営が用意したレールの上を歩くことしかできず、いわば、『不自由な自由』のある世界を冒険していたに過ぎない。
しかし、このOrb Of Infinityは違う。
このゲームは、ゲームであるから当然、ストーリーというものが設定されている。しかし、このゲームに於いてのストーリーと呼ばれるものは、他のゲームのそれよりも遥かに規模が小さい。
『プレイヤーは、ゲーム開始時に所属する国を三国から選び、世界に一つしかないと言われている、願いを叶える宝珠を探す』
ただ、それだけだ。いや、ストーリーの規模が小さい、と言うのは語弊がある。プレイヤーが所属する三国にはそれぞれの歴史があるし、世界にだって色々な設定がある。
用意されていないのは、この世界の未来。
このゲームには、一般的なゲームには必ずと言っていいほど用意されている、『ストーリークエスト』と呼ばれるものが存在しない。ストーリーの補完やアイテムの補充を行う『サブクエスト』なるものも存在しなければ、俗に言う『転職クエスト』などというものも存在しない。
この世界の未来は、プレイヤーによって決定される。プレイヤーの行動によって未来は変わり、時には町が滅び、時には国家間での戦争も起きるだろう。
用意されていないものはもう一つ。ゲームによっては『ジョブ』や『職業』なるものが存在するが、このゲームにはそれらが一切存在しない。
ある人は、行商人として活躍することもあるだろう。
ある人は、高名な魔法使いとなるかもしれないし、
ある人は、人々から認められ、勇者と崇め祀られるかもしれない。
全てのプレイヤーの行動によって未来が決まるゲーム。それが、このOrb Of Infinityだ。
……さて、そろそろ時間だ。プレイヤーが、この世界の未来を決定する時が来た。果たして、この世界は平和に転ぶのか、それとも、混沌に転ぶのか――――。