1.人間界での出逢い
人間界に行けるのは満月の夜とハロウィンの夜だけ。そして、新米の魔女が大勢で人間界に行くのはハロウィンの夜。その日は魔女の進級試験が人間界で行われる。新米の魔女である私は、初めての人間界にウキウキ、ワクワクしていた。
(すごーい……)
私は、進級試験の責任者である魔女の話をそっちのけで、人間界に興味が移っていた。
「聞いてるの?」
「……うん」
友達の問いにも上の空で私は返事をする。そんな私を見て、友達はため息をついていたが、気にしない。だって、興味が引かれるものばかり。でも、進級試験の責任者である魔女のこの声で、現実に戻ってきた。
「では、解散」
(試験を受けに来たんだった。浮かれてちゃいけない)
「行こう」
友達と一緒に試験会場である、人間界に足を踏み入れた。
私達魔女の進級試験は必ず人間界で行われ、試験内容は、困っている人間を魔法で助けること。だから、私は友達と一緒に困っている人を探すために、人間界をさ迷い歩く。これが独りだったら、寂しいけれど、友達と一緒だから大丈夫。寂しくない。
目に写る景色は魔女界で見ることが無いものばかりで、試験より、そっちに興味が湧いてしまう。
「楽しい?」
「うん! もっと見て回りたい」
こんなにも楽しくて、ウキウキするのはいつぶりだろう。
「わたしもそうだけど、今は試験だからさ……」
「……そうだね」
私は改めて、気を引き閉め、友達と一緒に人間界を歩いて回る事にした。
しばらく歩いていても、誰ともすれ違わなかった。
「誰もいないね……」
「うん……」
試験開始から約1時間。途方にくれた私が空を見上げるとそこには満点の星空がある。それに見とれていると、何かキラリと光るものを見つけた。
すると、突然、背後から男性の声が聞こえてきた。私はやっと試験が出来ると嬉しくなり、振り向くと、そこには全身真っ黒いスーツを身にまとい、黒い翼を広げた男性がいた。
「初めまして、お嬢さん方」
そして、私を敬うように一礼してきた。それを見て固まっていた私に、その男性はこんな台詞を言ってきた。
「貴女こそ、オレの運命の相手。お会いしたかった」
私の右手を優しく掴み、男性は右膝を地面につけ、左膝を曲げ、私を真っ直ぐに見上げてくる。
「運命の……相手……」
私が固まったまま、勝手に口から紡がれた言葉に、男性はにこやかに微笑み肯定を示すように頷く。その様子に、私は自分の頬が赤く染まるのを感じた。そして、その男性から視線を反らせない私。そこへ、月明かりが、その男性を優しく照らす。
(瞳が……、赤い……)
その赤は引き込まれそうな色をしていて、いつまでも見ていられる色。
それを見ながら、私の頭が、思考がようやく動き始め、魔法学校で習ったことを思い出していた。
“人間の瞳の色は黒で、吸血鬼の瞳の色は赤”
「吸血──」
私の身体が強ばり、力が入る。だが、その男性は、私の手を握る手に力を込めることはしなかった。
すると、その男性は自身の唇の前に人差し指を当てる。
「今は、お互いの正体の詮索は無しで、お願いします」
その言葉を聞き、強ばった身体から少しだけ力が抜けた。それがわかったのかその男性は微笑み、立ちあがり、私に近付いてきた。そして、翼を広げ、私を覆い隠す。
「では、また満月の夜に貴女とお会いできることを楽しみにしています」
私の耳元に口を寄せ、囁く。その声は自然と私から肯定の答えを引き出すような声色だった。
「はい……」
すると、その男性は、翼を広げて空へ飛び立ち、私の前から消えていった。
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