2.未来犯罪者集団「ロンダーズファミリー」
歴代スーパー戦隊は数々の個性的な悪の組織と戦ってきました。地球侵略を企む異星人軍団という定番組織から、妖怪、宇宙暴走族といった変わり種の他、敵は地球人のマッドサイエンティストで、戦隊側が宇宙人の科学力で応戦するという、普段とは逆転した構図のものもあります。タイムレンジャーが戦う敵組織も、それらに負けず劣らず個性的なものです。
あらすじに書いたとおり、タイムレンジャーの敵は30世紀から20世紀に逃亡してきたマフィアです。首領のドルネロは、構成員間の絆を大切にする面倒見の良いボスである反面、組織の和を乱す行動を取るものには容赦しない冷徹な顔を持ち合わせています。20世紀に放送されているテレビのメロドラマを鑑賞して涙を流すなど、ときに人間くさい一面も見せる男です。20世紀に逃亡を果たしたあと、部下からの、「自分たちが収監されていた刑務所(ロンダー刑務所)の名前を取って新しい組織名に命名しては」という提案を受け入れるなどの洒落っ気もあります。その他にドルネロの特徴として、組織の首領であるにも関わらず、単純な戦闘能力では特に秀でているものがない、という点が挙げられるでしょう。
スーパー戦隊に限らず、特撮ドラマに登場する悪の組織の首領というのは、そのまま組織最強の存在も兼任している場合がほとんどです。暴力でもって願望を成し遂げようとする組織においては、その暴力に最も秀でているものがトップに立つことは自然な流れです。自分自身は戦闘力を持たない科学者などが首領に立つ組織もありますが、そういった科学者は、代わりに怪人や巨大ロボなどの兵器を生み出す力を持っており、その科学者なしでは組織が成り立たないという場合がほとんどです。よって、この場合でもやはり「暴力を生み出す力」という、間接的な暴力でもって組織を支配しているとみることが出来るでしょう。
翻って「ロンダーズファミリー」のボスであるドルネロは、そういった創造的な力も持っていません。彼は組織を運営する、言ってみれば経営的手腕と、荒くれ者どもを手なずける人心掌握術でもって悪の組織を率いているという、非常に珍しいタイプの首領と言えるでしょう。
ロンダーズファミリーの幹部のひとりに、ドルネロの(子供番組なので明確に表現はしていませんが)情婦であるリラという女性がいます。このリラも特に戦闘力が突出しているわけではありません。彼女がマフィアの幹部の椅子に座っていられるのは、ひとえに「首領の情婦」という立場に依るものです。だからといって彼女が権威を笠に着て、今で言うパワハラまがいなことをやっているのかといえば、そんなことはなく、構成員からも慕われている姐さん肌の女傑という描かれ方をしています。あるエピソードで、「ドルネロと別れて俺と付き合えよ」と構成員(怪人)からモーションをかけられたこともあります(「スーパー戦隊シリーズ」は未就学児童をメインターゲットとした健全なテレビ番組です 笑)。
リラのユニークな面に「買い物が好き」というものがあります。ええ、「買い物」です。店に押し入って奪うのではありません。きちんと代金を支払って合法的に商品を入手するのです(まあ、その資金は、構成員たちがシノギで稼いで上納した違法な所得ですが)。リラの立場であれば、構成員や戦闘員たちを使って、いくらでもタダでモノを入手できるはずですが、彼女はそうはしません。「買い物という行為」「お金を使う消費行為」自体が好きだからです。ストレス解消目的も含まれているのでしょう、典型的な「買い物依存症」です。
もうひとり、ロンダーズファミリーの幹部にギエンという男がいます。このギエンは、ドルネロやリラとは行動理念に異なるものを持ち、もっとも「いわゆる悪の組織の敵幹部」っぽい雰囲気を漂わせています。第一話においてドルネロが、西暦2000年の警察などものともしない圧倒的戦闘力でもって銀行を襲撃し金品を奪い、リラは笑いながらそれを見ているという場面でも、ギエンだけは金目のものには目もくれず、ただ破壊行為そのものを楽しんでおり、抑えきれない破壊衝動を秘めた男として最初から描かれています。ファミリーの和を大切にするはずのドルネロが、どうしてそのような危険人物をそばに置いているのかの謎も含めて、ギエンは物語終盤のキーパーソンとなっていきます。