表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

青森の歯科医院でのこと

掲載日:2020/05/12

 散歩していれば、どのくらい昔からやっているか分からない古いままの医院の建物が大概は見つかります。エッジを立ててたら、「歯科医院」で「青森」が八畳間程度のその場所に一番の相応しい気がして、書き進めました。

 小説の長さは、八畳間でのごくごく短い時間とぴったりな感じだと思ってます。

 母の歯の治療のため青森までいったら、そこの医院で付き添い(つきそい)をしてるというおばさんが、何かきまり悪そうに話しかけてくる。


 それが、こちらが作法を心得ていないためこうして言わなくてもいいことをわざわざ言わなくてはならない嫌な役回りを引き受けているのだ、といった態度を全身から溢れ出しているから、はなはだ不愉快な心持ちでいると、すぐに金のことを切り出してきた。

「幾ら、ということではないのです。でも、それをお渡ししないのは」と、奥の部屋に()もってる誰かの顔を探る仕草を挟んで、言葉を言い換えながら金の無心をする。こんな齢になってもこうしたことには不慣れなので周りを見渡したが、連れは既に離れてしまっている。たとえ居たとしても、こんな損な役回りが来れば、すぐに此方を風上に追いやってしまうのだから、ひとり覚悟を決めるより仕方がない。

「どのような形で、お幾らくらいお渡しすればよろしいのでしょうか」

 不作法ではあるが、機嫌は損ねないだろうと単刀直入で切り出した。それが、相手の勘に触ったらしい。 


 ー なんていうことを、まぁー、そんな、まったくもって大仰に・・・・・

 声も言葉も出さないが、そのことを発したい顔をあたり一面いくつも(こしら)えてから、静かに奥へと下がっていった。中で、何ごとか言い含めたり言い含められたりしているのかと思ったが、すぐに戻ってきた。あきらめたような面持ちで、「一万円ということではないんです。そのようなお気持ちを幾らか(くる)んでいただければ」と、こちらの顔を見ずに、小さく一気に吐いた。顔には、とうとう言わされてしまった慙愧(ざんき)の恨めしさがありありと浮かんでいる。ー あの方に対して、こんなはしたない、むきだしのことを、お金のことを、少しでも耳に入れてしまうなんてー と、腹の中のブツブツを横目で聞きながら、奥に下がって五千円札を半紙で(つつ)んだ。連れは、こういうときのために綺麗に半分に切った半紙だけは、いつも用意してくれている。

「不調法で、どうも」と手渡すと、そこから先は今までの初々しい熱気は嘘のように消え去って、どこにでもある冷んやりした医院の待合室に戻っていった。 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ