「パン」
「えっと よろしくお願いします」
「うん。 それで名前は?」
「ないです。 みんなからはお兄ちゃんって呼ばれてました」
そういうとカップを机に下ろして杖をこつんとたたく。 そうするとなぜだかわからないが少し離れたところにある本棚から本がそのまま横移動してくる。
その本を手に取ると開きながらこちらに聞いてくる。
「どんな名前がいい?」
「どんな名前と言うのは?」
「カッコいい!とか可愛い!とか どういうのがいい?」
なんでこの人は名前なんて聞いてくるんだろう。 名前なんて言うのは、余裕がある人たちがつける物だって教えられてきた。 だから名前がないのが普通なのに。
「えっと なんでそんなこと聞くんですか?」
「名前を付けるからだよ。 話で分からなかった?」
「えっと すいません」
ちょっとトーンが上がった声から怒っているのかと思ってすぐに謝る。 大人は、大体トーンが上がったり声が大きくなると次のタイミングには手が飛んでくる。 だから謝るかすぐ逃げないといけない。
謝ると少し複雑な顔をしてこちらに近づいてくる。 叩くのかな…蹴るのかな…。
「ごめん」
その声とともに抱きしめられる。 あったかい。 でもなんで抱きしめられたのかはわからない。 いつも殴られた後に姉に抱きしめられたことはあった。 でもこのお姉さんはなんで抱きしめてくるんだろう。
「なんかいきなり抱き着いたりして…恥ずかしい大人だよね」
「えっと なんで抱きしめたんですか?」
「いや気にしなくていい!」
そういわれても気になる…。
でも殴られたくはないからここで口をつぐむ。 でもお姉さんならそんなことはしないのかななんて…。
「えっと 食事でもする?」
「いいんですか?」
歯が欠けるかと思うぐらい硬いパンと苦みが強いサラダを食べ終えて、机を挟んでお姉さんと向かい合う。
お姉さんは本を開いたままこちらが食べ終わったのを見て笑顔を見せる。
「どう? おいしかった?」
「おいしかったです」
そういうと声を出して笑いだす。
本を閉じて机に置いて自分の目の前に置いてあったパンを触りだす。
パンを触る手を見るとすごくきれいな白く細い手をしていた。 僕の手とは全く違う。
「硬かっただろう? 野菜はここでそろえられるんだけど、パンはどうしても街から持ってこないといけないから硬くなるんだ。 私も食べるけど得意じゃなくてね。 前に小ささの魔女が作ったパン食べたけど街のパンよりすごく柔らかかったんだよなぁ。 また食べられないものか。 おっと。 関係なかったな」
「そんなに柔らかいパンがあるんですか。 今日もらったパンでも柔らかかったのに」
「そうなのか? どんなに硬いパンを食べさせられてたんだか」
そういってお姉さんは肩をすくめる。
そういって手で遊んでいたパンにかじりつく。
「うへぇ やっぱり堅い」




