【-234日目】エヴァの記憶2
高校生になって、もう一ヵ月が経とうとしていた。
特に何があるわけでもなく、最初の個性のかけらもない自己紹介から、私はクラスの空気というとても素敵な立ち位置を手に入れたのだ。一ヵ月経ってるけど、多分私のフルネーム言える人いないよ?自信がある。
しかし今、私の前に大きな問題が発生した。
クラスの人間にはそれぞれ、委員会や係などが振り分けられる。当然私は、学級委員長の取り合いなんていう理解もできない戦いから距離を置き、存在意義すら不明な国語係という役職を手に入れた。それが罠だった。私は自分の愚かな選択を呪う。
それは今日の五時間目、国語の授業の終わりに担当の先生が放った一言。
「それじゃあ、国語係が全員分のノート集めて、放課後に職員室まで持ってきて。」
・・・死ねばいいのに。
いや、ごめん。先生は悪くないけどね?つい本音が出るよね?特に仕事の無い、お気楽な係から一転。高難易度クエストを任されてしまった。そんなの冒険出てすぐの初心者に、魔王の討伐を頼むようなものだ。もう一人いれば最悪心の中で土下座しながら丸投げしても良かったんだけど、このクラス係は私一人だ。オンリーミーだ。
ていうかなんでテストでもないのに、ノート集めだすんだの?やる気か、やる気があるのか?もっとやる気をなくせよ!
しかし神は私を見捨ててはいなかった。私が思いつく限りの呪詛の言葉を投げかけていると、クラスの委員長がクラス中に声を巡らせた。
「それじゃあ、後ろのここに集めとこうか。皆ここに置いて行ってねー!」
委員長!ごめん、まだ名前覚えてないけど、委員長!これで私の仕事は持っていくだけになった。魔王から四天王くらいにはなったんじゃなかろうか?
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放課後、私はもう一度絶望に打ちひしがれることになる。
・・・一人分足りない。
先生は”全員分”と言った。そこまで律儀に従わなくても良いとしても、一人出ていない状態で持っていったら、置いてかれた人が怒ってしまうかもしれない。
いや、もう帰った人なら、文句も言わないんじゃないか?誰が出ていないか確認してみるか。
名簿番号順に並べて、抜けている番号を探す。抜けている番号を、前の掲示板的な部分にある席と名前が付いた紙で確かめてみる。
えーっと?この綾香さんって人かな?うん、合ってるっぽいね?あとはこの人が教室にいなければ・・・。
「ねぇ綾香!昨日のあれ見た!?」
「あぁ超ウケルよね!!」
・・・・・・・・いたね。
教室の角、ギリギリ校則違反してるくらいの二人組が、お行儀悪く座ってゲラゲラお話をしていた。
このクラスに綾香さんは一人だね・・・。別のクラスの人間って可能性は・・・。いや、そういえば授業中に見たなあの人。先生にバリバリのため口で話しかけて、仲良くなってた人だ。ちょうどその時にこのクラスの「関わりたくない人ランキング」上位に入れたんだ。
ノート出す前に、何か修正してるとかではなさそうだし、無視しちゃっていいかなぁ。でもああいう人って堂々と文句言いにきそうでやだなぁ。自分のミスなんて棚に上げて、上から目線でものを言うに違いない。ノート見せたら、出してないって思い出してくれないかな?
そっと綾香さんの視界に入り、ノートを掲げてみる。
すると数秒後にこちらに気づいた。
「何?なんか用?」
用は用なんだけど・・・。ほら、これ!これ!!
「はぁ?何あんた?」
よし、逃げよう!もう提出しに行こう!あ、でも下手に見せたから、それこそあの時言えよって突っかかってくるかも・・・・・・。あれ?詰んだ?
絶望感に打ちひしがれている私と、眉間にしわを寄せた綾香さんとの間に、一人の人物が入り込んだ。
「志保にお任せです!」
この人は・・・。私の後ろの席の、初めの自己紹介で人の心が読めるとぶっこんだ人だ。なかなかの変わった人だけど、やたら明るいので特にいじめられることもなく、クラスにいる変な奴ってことで、そこそこ人気がある。私の「関わりたくない人ランキング」一位の人間だ。
「志保には分かりますよ!絵美里ちゃんは、国語のノートの提出を促しています!」
「はぁ?そんなの授業後すぐ出して・・・。」
綾香さんは数舜固まると、座っていた机の中からノートを取り出し、こっちに向かって歩いてきた。
「ごめん、絵美里さん!落書きしてたの思い出して、回収してそのままだった!」
何度も謝りながら、私にノートを手渡してきた。
・・・勝手な想像で悪い人扱いして申し訳ないことしたなぁ、話してみれば良い人じゃないか。
まぁ私は話してないんだけどね?




