【-?日~13日目】アイティ視点 プリティーガールズ
俺の名前はアイティ。チーム安全第一のリーダーだ。
俺らのホームである、トナリノ町で出会ったエヴァさんを探し、オオキナ大国に来てから、はや幾日。冒険者としての仕事をこなしながらも、探し続けているが、結果は芳しくない。
「潮時、かもな。」
オオキナ大国の周辺のモンスターは、トナリノ町に比べて、多いうえにばらつきが大きい。安全にこなせる仕事を選んではいるが、トナリノ町にいる時に比べ、報酬が下がり怪我が増えている。
「何言ってんだリーダー。安全のために全力を尽くす。それがリーダーだろ?」
「そうだよ、エヴァさんを仲間に出来たら、安全に仕事がこなせるってそう信じてここまで来たんでしょ?」
「それはそうだが・・・。しかし、安全のために今までの安全な仕事を捨てることが、果たして最善の安全と言えるのだろうか?」
自分で言っていて訳が分からなくなってきた。安全ってどういう意味だ?
「ま、どんな決断をしたところで、俺はリーダーに従うぜ。リーダーが俺たちを危険な目に合わせることはないだろうからな。」
「私も、リーダーの安全に対する熱意だけは、信じてるよ。」
「お前ら・・・。」
危ないことはしない。俺がこの鋼のルールを作ることになった理由は過去にある。
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俺は子供の頃から、大人に負けないほどの剣士だった。年が10を超えないうちに、冒険者になり、背が自分の倍近くある大人と、対等に仕事している自分を誇りに思っていたし、周りの人間も、天才だの、将来が楽しみだのと、俺のことをもてはやす。
正直に言って、そのころの俺は完全に調子に乗っていた。自分はすごい、自分はなんだってできる。そんな気持ちが、絶対に近づいてはいけないと忠告されていた魔の森へと、俺をいざなった。
「グガアアアアッ!!」
魔の森で初めに会ったモンスターは、俺の倍ある大人の、さらに数倍はあろうクマだった。しかし、今までにも自分より大きな獲物を討伐したことはあったし、今回も、相手の攻撃は俺の盾がすべて受け止め、俺の剣が隙を見せた相手の腹を切り裂き終わりだろう。そんな風に考えていた。
ガンっ!
巨大なクマの爪が俺を引き裂こうと振り下ろされる。いつものモンスターとは力が違った。
「オモッ!」
いつもの一撃必殺のカウンターを決める暇はない。体が痺れるような感覚が落ち着くころには、次の攻撃が来ていた。
ガンっ! ガンっ! ガンっ! ガンっ!
なんとか防ぐことができても、攻撃に転じることができない。本当なら、ここでじっくりと相手が隙を見せるのを待つべきなのだが、子供には防戦一方という状態が面白くない。
「こんのぉ!!」
強引に相手の懐に飛び込み、剣を振るう。相手の放った爪が、俺の左手を大きくえぐることになったが、一撃で沈めることに成功した。
「ははっ。どんなもんだ。」
この魔の森は、魔王軍の呪術師が支配していると聞いたことがあるが、まさかこのクマではないだろう。つまりこのクマより強い敵がいるわけだ。絶対に入るなと言われていた理由が分かった気がする。
「まぁ、このクマも相当上位の存在だろう。」
かなりの強さだったし、ある程度の区画を占めるボスかもしれない。いずれにしろ、土産話は出来たし、怪我もしてしまったのでいったん帰ろう。来た道を戻ろうと振り返ると、先ほど倒したクマが3体こちらを見ていた。
「・・・は?」
「「「グガアアアアッ!!」」」
クマ達が襲い掛かってくる。俺の思考は半分止まっているようなものだったが、それでも体は自然と動き、クマの一撃を防ぐ。しかし、うまく力が入らず、盾ははじかれてしまった。
死んだ。
頭の中がただその一言を残し、思考を止めるた時。突き飛ばされるような感覚が俺を襲った。
「そっち飛ばすぞぉ!!」
「いつでもいいわよ。」
へたり込んだ俺が見たものは、スキンヘッドの兄ちゃんが真正面からクマを殴り飛ばし、やたらダンディな兄ちゃんが飛んできたクマを、二本の剣で優雅に舞うように切り刻むところだった。
「おめぇ、そんな切り刻む意味あんのか?」
「あなたねぇ、髪の毛と一緒に知性まで失ったの?このクマの厄介なところは自己治癒能力よ?」
すげぇ・・・。うちの村じゃあ、こんなレベルの冒険者は見たことがない。
「ほら、この子が斬ったクマなんて、もう全快じゃない。」
・・・え?俺が斬ったクマ?確かに一撃を加えて、倒したはずのクマは、元気に立ち上がり、俺に爪を振り下ろすところだった。
あ、今度こそ死んだ。
しかし、クマの爪は俺の体を切り裂く寸前で、その体ごと飛んできた刃のような風に切り刻まれた。風の飛んできた方を見ると、ビックリするくらい綺麗なお姉さんが、無言で杖を向けていた。お姉さんの両脇には切り刻まれたクマの死体。他の2体はすでに倒していたらしい。
「これで全部よね?」
「おう!周囲にはもうモンスターはいねえな!」
周囲の安全確認を終えたスキンへッドの兄ちゃんが、俺の元に来た。
「おう、坊主。怪我はねぇか?」
怪我はある、だがそれよりもこの兄ちゃんの怪我だ。俺を庇ってもろに顔に食らっている。目のあたりに縦方向に傷がついている。顔の右半分は血だらけだ。
「俺より、にいちゃんが・・・。」
「あら、本当!ロカン、あなた髪が・・・。」
「なにぃ・・・。本当だぁ!?俺の髪がねぇ!?」
いや、それは多分元から・・・。
「安心しな坊主。出血こそかなりのもんだが、表面が傷ついてるだけだ。失明とかはしてねぇよ。」
そう言いながら、歯を見せる大きく笑う。薄暗い森の中で、頭と歯が輝いた。
「いいか、坊主。やんちゃなのはいいが、命あっての物種だ。自分の命を危険にさらすようじゃあ、一流の冒険者とは言えねぇなぁ。」
「うん。」
「蛮勇が取り返しのつかない事態を生むこともある。俺も昔、向こう見ずな行動で、大切なものを失ったんだ・・・。」
まさか、大切な仲間を・・・?
「こいつ、敵の酸攻撃に頭から突っ込んだのよ。」
「俺の、俺の毛根が・・・。」
・・・まぁ確かに、大切な物ではあるか。
ボケ倒してはいるが、この人たちが来てくれなかったら、今頃俺は死んでいただろう。かなりの力量に、息の合ったチームプレイ。ここらの冒険者とは格が違った。
「お兄ちゃんたちは、何者なの?」
「ふっ。よくぞ聞いてくれた!俺の名はラカンだ!」
「私は・・・。そうねぇ、森の妖精ってところかしら?」
「そんであっちの縮こまって嫌そうな顔をしてるのが、ルクーセだ!」
そして三人は集まり、決めポーズをとる。
「「私たち!プリティーガールズ!!」」
・・・・・・・。なんで突然妖精を名乗ったのかとか、男の方が多いチームでなんでガールズなんて付けたのかとか、いろいろ言いたいことはあったが、とりあえず真っ赤な顔で小さく決めポーズを取っているルクーセさんが可哀そうだと思った。
「いやねぇ、私はガールじゃなくて、ボーイなんだけどねぇ。プリティーボーイが正しいとは分かってるんだけどねぇ。まぁ協調性ってやつよね。」
なんでこのダンディな兄ちゃんは、自分がプリティーであることに疑いを持たないんだろう?
「俺もこんなチーム名は乗り気じゃねぇんだけどなぁ!まぁ仕方なくだよな!」
嘘だ。一番ノリノリでポーズ取ってたじゃないか。
「・・・・・・・・・・・ごめんなさい。」
ルクーセさんが、蚊の鳴くような声でそう言った。謝られても、こっちが申し訳なくなってくるんだけど・・・。
いずれにしろ、俺はこの奇妙なチーム、『プリティーガールズ』によって、命を救われたのだ。それ以来、俺は安全を第一を考え、行動するようになった。
後になってから知ったのだが、このプリティーガールズというチームは、結構有名なチームだったらしい、色物という意味でもそうだが、実力は折り紙付きで、場を明るくするムードメーカーとしても優秀。さらには、冒険先でルクーセさんの作る絶品料理が食べられるってことで、結構引っ張りだこのチームだったそうだ。
そのチーム名と、あの決めポーズをとる自己紹介は、ルクーセさんの人見知りを治すために、賭けに負けたルクーセさんの罰ゲームとして、面白半分で始めたものらしい。
俺が安全に経験を重ね、初めて王国の方に顔を出したときには、すでに引退した後で、どこにいるかも分からない状態だったが。その印象の強さと、戦いの強さから、数々の伝説が飛び交っていた。
俺もいつか、彼ら・・・。彼女ら?のように、有名な冒険者になってやる!安全な方法で!!
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「やっぱり、エヴァさんの捜索は続行しよう!」
あれから数年。今のチームはかなり気に入っているし、実力もついてきた。しかし、いや、だからこそ。もっと安全に、もっと高難易度なクエストをこなすために、新たな戦力は欲しいのだ。
「了解。しかし、探すにしても、他の町にいる可能性も考慮した方がいいんじゃないのか?」
「この国に来てから得た有力な情報は、青い炎を出した謎のヒーラーくらいだもんね。」
「あぁ。だが、その謎のヒーラーは聞く限りエヴァさんの特徴と一致する。あれだけ奇跡を連発する魔力を持ってるんだ。青い炎も出せる可能性は高いだろう。」
一度だけ、流れた噂。白い服の少女が、家を飲み込むような巨大な青い炎を出したという物。その規格外な力、白い服の少女という特徴。俺は間違いなく、エヴァさんのことだと睨んでいるのだ。
「でもその噂も、少しの間流れて、すぐに廃れちまったよな。」
「そんなことできる人がいるなら、もっと話題になるはずだからね。誰かの作り話だって思ってる人の方が多いね。」
「しかし、王国にいる限り情報には事欠かないはずだ。他の町にいたとしても、その噂はここまで届くだろう。もう少しこの国で辛抱をしようじゃないか。」
最近は直接探すより、情報収集をする方が多くなっていた。まさかその辺に歩いてるのが見つかるわけないし・・・。
「あっ。」
「どうかしたのかリーダー・・・あ。」
「どうしたの二人して・・・あ。」
待ちゆく人の中、その人は小さく、目立たないように歩いていた・・・。
「「あーーーっ!!!!」」
奇跡の出会いだ、これを逃すわけにはいかないだろう。土下座でもなんでもして、話だけでも聞いてくれるように頼もうじゃないか!
何としても仲間になってもらおう!俺たちの安全のために!!