【12日目】ユン視点 夜中の報告会1
僕の名前はユン。今はとある場所に向けて、夜の街を練り歩いているところさ。
夜でも賑やかな通りを、うまいこと人を避けながら歩く。まぁ、人間の視界に入らないくらいのサイズの生き物はべつに珍しくもないから、皆ちゃんと僕に気づいて避けてくれるけどね。たどり着いたのは、ちょっとお高いレストラン。もちろん食材になりに来たわけじゃない。
「お待ちしておりました。」
ピシッとした格好のウェイトレスさんが、僕を見つけると部屋に通してくれる。そこにはさっき家で別れたばかりのエヴァが座っていた。
「何?その見た目気に入ったの?」
「ん?まぁ若い女に化けるのは嫌いじゃねぇなぁ。」
姿かたちは完璧にエヴァと同じだけど、そんな喋り方してたら間違えようもない。今日は王様と近況報告会だ。
「勇者の奴はどうした?」
「もうちょっとしたら、来ると思うよ?」
勇者君は今ちょっと忙しいから、後で合流予定なんだ。
「まぁあいつと話し合ってもしょうがねぇか。で?嬢ちゃんの方はどうだ?」
待たずに始めちゃうらしい。まぁ勇者君がいてもしょうがないのは確かか、後で必要な情報だけ話しておけばいいや。
「とりあえず、王様のくれた家に住まわすことには成功してるよ?特に誰かからの接触もないね。王様の方はどうなの?」
「こっちは今、俺が直接会って人柄を確かめたってことと、もう勇者の仲間になったから、誰ともかかわる気がないってことでごり押ししてる。特に後者は有効だな。絡みたかったら、勇者より強いやつ連れてこいって言えば、全員黙る。」
勇者君の時もそうだったけど、力のある人間には利用方法がいくらでもある。特にエヴァなんてヒーラーだから、有効利用する方法なんていくらでもあるだろうね。
「王様も大変だねぇ。」
「おう。もっと労え?もう大体の奴は黙らせたが、まだしつこいやつも多い。特に玉座の間で直接見た奴はお熱だな。ただでさえ、全員元から狙ってたのに、覚醒するとこ見られちまってるし。紹介してほしいやつがいるなら、いくらでも紹介してやるぞ?」
「いやぁ。偉い人達とのつながりなんて、エヴァは望まないだろうね。」
覚醒は、一定の感情が高ぶった人間が自分の力を大幅に上げる現象だ。条件やらは良く分かっていないが、危機に瀕した時突如覚醒し、大逆転したなんて話は昔からよくある。まぁ王様に会いたくなさ過ぎるなんて理由で、覚醒した挙句、倒れる人はおそらく歴史上初だけど。
「つーかなんであいつは急に覚醒なんてしたんだ?」
「王様に会いたくなかったんでしょ?」
「・・・良く今まで生きてこれたな。」
本当にね。
「特に癒しの神祭ってるところのトップがやべぇ。ありとあらゆる手を使って、情報かき集めまくってんな。」
「それは困ったねぇ。」
「なんならいっそのことそこで世話になったらどうだ?もともとそういう仕事してたんだろ?待遇は間違いなくいいと思うぜ?」
「今までのところは、タフティが矢面に立ってくれてたからなぁ。あとエヴァに不用意に近づかないように、町の人に言って回ってたみたいだし。その癒しの神様祭ってるところに行ったら、それこそ祭り上げられちゃうでしょ?」
「間違いなくそうなるだろうな。」
「それこそ死んじゃうんじゃない?」
「そんなわけ・・・。」
なんとも微妙な顔をしている。否定しきれないらしい。
「まぁその辺は僕たちじゃどうしようもないから、王様にお願いするしかないね。」
「あんな躍起になっているあの女を、俺に止めろってか?無茶言うなよ。」
「何とかならないの?」
「うーん・・・。暗殺か?」
「できればそれ以外で。」
どうやら本当に手の付けられない人らしい。穏便じゃない方法にしても、恐喝くらいにしてほしかった。効かないんだろうなぁ。
「まぁあの家なら、何重もの魔法陣で守られてんだから大丈夫だろ。祭り上げられたくなかったらしまっとけ。」
「ずっと家にいるわけにもいかないでしょ?」
まぁエヴァなら喜びそうだけど。
「まぁその辺はお前らで見守ってやれ。それで、魔力の方はどうだった?」
「魔力量は可哀そうなくらい少なかったよ。代わりに、ヒーラーの適性が凄いことになってた。まぁ他の魔法は、炎の玉一つ出せないんじゃないかな?」
王様の懸念は多分、人を傷つける力があるか否かだ。自分で太鼓判押している以上、何かあってからじゃ遅いからね。
「ならば良し。まったく。何で俺が国のためにならないことに、手を貸さねばならんかね。」
「そう思うなら、国のためにエヴァのこと差し出してみたら?」
まぁそんな決断したら、勇者君と一緒に逃避行でもしようかな?
「国民が好きに生きられるようにサポートするのが、王様の仕事だろ?」
「王様・・・。王様の口の悪さとか、口調とか、仕事さぼり気味なところとか、性格悪いところとかは嫌いだけど、そういうところは好きだよ?」
「お前、最後にフォロー入れれば、何言っても許されると思ってないか?」
まぁね。
「最後のひとかけらの好意を失わないために、頑張るとしようかね。外に出すなとは言わねぇけど。出来る限り箱入り娘にしとけ?」
「それは分かったけど、あの家はいつまで使ってていいの?」
魔法陣で守られた一等地の豪邸、かなりの価値があるはずだ。王様が住んでたもののはずだけど・・・。
「まぁ俺もほとんど使ってなかったし。くれてやる。腰痛の治療費ってことでいいだろ。」
「王様・・・。」
腰痛なんて持ってたんだ・・・。