【11日目】ユン視点 脱兎1
僕の名前はユン。今は王国内を駆け回っているところさ。
なぜ走り回っているのかと言うと、どう見ても友好的ではなさそうな人に追われているからだね。
「ゴラァ!待ちやがれそこのウサギィ!」
人の合間を縫って、結構な速度で逃げているんだけど、なかなか距離があかない。強面で叫びながら走ってるから、近くの人が道を開けちゃうし・・・。そもそもあの人かなり足が速いね。これは僕が追われて正解かも。エヴァじゃあすぐに捕まってただろうね。まぁ一歩目も踏み出せなかったみたいだけど・・・。
さっきから人通りの多いところを選んで走ってるのに、撒けないのはちょっとまずいんだよねぇ。ウサギの持久力はそんなに高くないからそろそろ限界。奇跡でも起きないかなぁ、と思っていたら起きた。信用にたる強い人物発見。
「やぁ、勇者君。ちょっと助けてくれない?」
「やぁ!ユンじゃないか?どうしたんだい?」
というか最初からテレパシーで呼べばよかったね。
「オラァ!追いついたぞウサギ!」
「そういえばシーラは?一緒じゃないの?」
「あぁ、シーラ君なら、瞬間移動してすぐ「エヴァ君は君を必要としてるさ。」と慰めたら。「そうですよね!エーヴァちゃんを見守る仕事に戻ります!」って言ってどっか行っちゃったよ?」
さすがシーラ、慰めの言葉は一言で済むらしい。明るくはっきりとした性格はエヴァとは正反対だね。
「うぉおい!無視してんじゃねぇぞ!」
「ユン?あの人は?」
「実はウサウサピョンピョンで。」
「なるほど。あまり良い人ではなさそうだね。」
見た目で分かってほしいけど。まぁ見た目で判断しないのも勇者君の良いところだよね。勇者君が黒服と対峙すると、どこからともなく少女が現れた。ポケットのたくさんついた動きやすそうな服装、エヴァに水晶玉を託した人だね。
「あ、いましたいました、うさぎさん。こんにちは。」
「・・・ユン?この人は?」
「最初に捕まってた人だね。」
「うぉおい!お前を捕まえてたはずのロインはどうした!?」
何やら賑やかになってきたね。あんまりたくさんのことが一度に起こると、勇者君が混乱しちゃうからやめてほしいんだけど・・・。
「じゃーん!ここで救世主シーラ登場です!」
もうダメだ・・・。勇者君が思考停止モードに入ってしまった。もう勇者君は諦めて、僕は僕の好きにしよう。
「シーラはエヴァについてなくていいの?」
「はい!エーヴァちゃんの方は大丈夫そうだったので、こっちに加勢に来ました!」
もう一人の黒服がいたはずだけど、大丈夫らしい。こっちの加勢はいらなかったけどね。
「おうおう!よく分かんねぇけど、その玉を賭けてみつどもえの戦いってことでいいか!?」
「なるほど!そういうことなら分かりやすい!」
「いやいやいや、待ってくださいよ!そこにいるの【伝説の勇者】に【灼熱の魔術師】ですよね!?相手になりませんよ!?」
勇者君は有名だからともかく、シーラのことまで知ってるのは珍しいね。何者なんだろうこの子。
「なにぃ!?・・・だが、相手が誰であろうと、俺は勝つ!」
「むだに男前ですねこの人!?」
「それじゃあ君は不戦敗ってことでいいのかな?」
「えぇっ!?いや、待ってください!そもそもあの無口な子は私の意思を尊重して、そこのうさぎさんに玉を託してくれたはずです!」
まぁそういうことになるのかな?どっちかって言うとおとりにさせられたんだけどね。
「そうなのか?ユン。」
「まぁね。」
「つまり私はこっちサイドということになります!」
「なにぃ!?3対1かぁ。」
さすがに黒服も悩んでいる。まぁどっちが正しいかは分からないから、僕としてはお互いの話を聞きたいかな。
「黒服さんはどうしてこの玉を追ってるのかな?」
「その女がうちから盗んだからじゃぁ!」
「何?盗むのは良くないことだぞ!」
「シーラも泥棒は良くないことだと思います!」
盗んだねぇ。いかにもな黒服が二人、追いかけてるくらいだから、普通の民家に泥棒が入りましたではなさそうだよね。
「待ってください!私は冒険者ギルドから正式な依頼を受けて盗みだしたんです!この玉は元々、うちのギルドの物なんです!」
「何?それならこの子が正しいな!」
「シーラもそう思います!」
ダメだ、こっちの二人は戦闘能力は高くても人を疑うことを知らない。鵜呑みにするから意見がコロコロ変わる。そこに黒服が気づいてしまったようだ。
「・・・窃盗なんて悪いこと、冒険者ギルドが依頼するわけないだろうが!」
「はっ。確かにそうだ!少なくとも僕は依頼されたことがない!」
「シーラもありません!」
いや、二人はそういうの向いてないからでしょう?シーラに関しては活躍してた時期短いし。
「本当なんです!嘘だと思うなら冒険者ギルドに確認してください!」
「はっ。確かにそうだ!直接確かめに行けばいいんだ!」
「シーラもそう思います!」
シーラはもう静かにしててくれないかなぁ・・・。でもこれで正しい判断が出来そうだね。黒服も困っている様子だ。一生懸命悩んで、言葉を絞り出した。
「・・・私が冒険者ギルドの者です。」
「何!?じゃあこの人に聞けば解決じゃないか!」
「シーラもそう思います!」
「あの無口な子の周りにはバカしかいないんですか!?」
うん、まぁね。